【誰も知らない拳で、世界をひっくり返す――最底辺高校生、無双ランクアップ物語】

あめかわ しげる

文字の大きさ
8 / 68
第1章「目覚めの喧嘩」

第7話「ライバル登場・赤城蒼真」

しおりを挟む
校内グラウンド。
砂ぼこりが、微かに夕陽に染まって揺れている。

 

静寂。
それは、
異様なほど重たい空気だった。

 

神崎蓮は、
田口、相馬、そして詩音と並んで観戦スペースに立っていた。

 

そして、少し離れた場所には――
七瀬玲奈の姿もあった。

 

静かに、
感情を見せないその目で、
これから始まる試合を見つめている。

 

(……何かが違う)

 

蓮は、
無意識に感じ取っていた。

 

これまでとは違う空気。
別次元の”何か”が、
今、この場を支配している。

 

そして。

 

試合エリアの中央に立つ男。

 

赤城蒼真――。

 

身長は蓮とほぼ同じ。
だが、
その立っているだけの姿が、
周囲を圧倒していた。

 

無駄な力みは一切ない。
リラックスしているように見えるのに、
隙がない。

 

「……ありゃ、ヤベェな」

 

田口が、思わず呟いた。

 

「空気が、違う……」

 

相馬も、喉を鳴らす。

 

それは、
理屈ではない。

 

本能が、告げている。

 

――この男は、危険だ。

 

(赤城蒼真……)

 

蓮は、
目を細めた。

 

どんな喧嘩も、
どんな戦いも、
こいつにとっては”作業”でしかない――。

 

そんな冷たさが、
赤城の佇まいから滲み出ていた。

 

対するは、
校内ランク6位の男、佐久間。

 

体格は赤城より一回り大きい。
喧嘩慣れしている、猛者だった。

 

だが――。

 

「バトル、スタート!!」

 

電子音と共に、
試合開始の合図が鳴った瞬間。

 

ドンッ!!!

 

赤城が一歩踏み込む。

 

それだけで、
空気が変わった。

 

まるで、
目に見えない重力が発生したかのように、
佐久間の動きが鈍る。

 

赤城は、無駄なく間合いを詰めた。

 

そして。

 

スッ――

 

左手で、
佐久間の肩を押さえ。

 

ガスッ!!!

 

右膝を、
佐久間の腹部に叩き込んだ。

 

「ぐ……っ!!」

 

佐久間の体が、
くの字に折れる。

 

そのまま――

 

バキィッ!!!

 

追撃の肘打ちが、
佐久間の側頭部に突き刺さる。

 

砂煙が舞った。

 

そして。

 

佐久間は、
一度も拳を振るうことなく、
地面に崩れ落ちた。

 

完全な――
完封だった。

 

「――勝者、赤城蒼真!!!」

 

審判役の声が震えていた。

 

誰も、声を上げられなかった。

 

ただただ、
呆然と赤城を見つめるしかなかった。

観戦スペースに、重い沈黙が流れる。

 

田口も相馬も、呆然と立ち尽くしていた。

 

「……ヤバすぎる……」

 

「アニキでも、アイツに勝てるんスか……?」

 

二人の不安げな声が耳に入った。
だが、蓮は答えなかった。

 

答えられなかった。

 

(あれが――赤城蒼真か)

 

本能が、
告げていた。

 

こいつは、
これまで見てきたどんな相手とも違う。

 

力だけじゃない。
技術だけでもない。

 

全てを、
“勝つため”だけに磨き上げた存在。

 

冷酷な”強さ”の化身。

 

ふと。

 

視界の端に、玲奈の姿が映った。

 

彼女は、
静かに赤城を見つめていた。

 

無表情。
だけど、
わずかに指先が震えているのを、
蓮は見逃さなかった。

 

(玲奈も……感じてる)

 

この男の異質さを。
危険さを。

 

だが、玲奈の瞳には、
それ以上の”何か”が宿っていた。

 

(……何だ、あれは)

 

言葉にはできない。

 

ただ、
玲奈が赤城を見つめるその目に、
微かな痛みと、
微かな期待が入り混じっているように感じた。

 

そのとき。

 

「……おい」

 

不意に、低い声がかかった。

 

蓮が顔を上げると――
目の前に、赤城蒼真が立っていた。

 

間近で見ると、
より鮮明にわかる。

 

この男は、
“何か”を捨ててきた。

 

だから、
強い。

 

何も迷わず、
ただ勝利だけを求められる存在だ。

 

赤城は、
蓮を真っ直ぐに見つめた。

 

その目に、
一切の感情はない。

 

ただ、
冷たい興味だけが宿っていた。

 

「――お前、面白いな」

 

蓮は、
何も言えなかった。

 

赤城は、
ニヤリと笑った。

 

「次のターゲットは、お前だ」

 

そう言い残し、
赤城は背を向けた。

 

その背中に、
圧倒的な存在感が滲んでいた。

 

蓮は、
無意識に拳を握った。

 

(……やるしかない)

 

逃げられない。

 

でも、
逃げるつもりもなかった。

 

「神崎君」

 

玲奈が、
そっと声をかけた。

 

振り向くと、
彼女は、
ほんの少しだけ微笑んでいた。

 

「負けないで」

 

それだけを告げて、
玲奈は歩き去った。

 

その後ろ姿を、
蓮はしばらく見送っていた。

 

胸の奥が、
静かに、でも確かに、熱く燃え上がっていた。

 

(負けねぇよ)

 

絶対に――
負けない。

 

たとえ、
どんな化け物が相手でも。

 

俺は、
俺の拳で道を切り開く。

 

蓮は、
夜空に浮かぶ一番星を見上げた。

 

闇を切り裂く、その小さな光のように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...