また、君と歩いていく

あめかわ しげる

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第2章『また、君と夢を見るために』

第7話「ふたりで、ただいま」

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日本の空気は、少し湿っていた。
梅雨の匂い。
懐かしい電車の音。
雑踏に混じる、聞き慣れた日本語の響き。

私は湊と一緒に成田空港に降り立ち、
その瞬間、ふと口をついた言葉があった。

「……帰ってきた、ね。」

湊が微笑む。

「うん。“ふたりで”帰ってきた。」

この言葉の重みを、誰よりも知っているのは、きっと私たちだけだった。



空港から向かったのは、
かつて湊と初めて手を繋いだ場所――高校の近くの小さな公園だった。

ブランコ、ベンチ、錆びた鉄棒。
何も変わっていないのに、
私たちの心は、あの頃とはまるで違っていた。

「懐かしいな。」

湊がベンチに腰を下ろし、空を見上げる。

「ここで、いつだったっけ。
君が泣いてたんだよな。
“あなたの夢を応援したいけど、寂しい”って。」

「覚えてるんだ?」

「忘れるわけないじゃん。」

私も横に座り、空を見た。

雲がゆっくり流れていた。
まるで、あの頃の私たちの時間のように。



次に向かったのは、湊が高校時代に住んでいたアパートの前。
今は誰かが住んでいるようだったけど、
あの頃の雰囲気はまだ、残っていた。

「夜中に“もう辞めようかな”って君に電話したこともあった。」

「あったね。」

「でも、君が“まだ頑張れるよ”って言ったから、
俺、あの日踏ん張れた。」

湊がぽつりと呟いたその言葉に、胸がきゅっとなった。

私たちは、決して“楽な道”を選んできたわけじゃない。
でも、“ふたりで選んできた道”だった。

だから、どんな時間も、誇れる。



夜。

実家には帰らず、湊が予約していたホテルに泊まることになっていた。

夕食のあと、ふたりでホテルのルーフガーデンに上がった。

風が少し冷たくて、私は湊の肩にそっと寄り添った。

「ねえ、湊。」

「ん?」

「私たち、変わったね。」

「……うん。」

「でも、変わってないものもある。」

湊が小さく笑った。

「例えば?」

私は少し照れながら答えた。

「湊と一緒にいたいって気持ち。」

その瞬間だった。

湊が、ポケットから小さな箱を取り出した。

「……え?」

「開けてみて。」

そっと開いたその箱の中には、
シンプルな、でも優しい輝きを放つリングがあった。

「これは……」

湊が、真っ直ぐに私の目を見て言った。

「俺たちはもう夫婦だけどさ。
改めて、ちゃんと“これからの人生”を誓いたいんだ。」

「湊……。」

「ここから先、きっとまた色んなことがあると思う。
遠くに行くことも、すれ違う日もあるかもしれない。
でも、そのたびに思い出してほしい。」

「……なにを?」

湊は、微笑んだ。

「“ふたりで、ただいま”って言える場所が、
ちゃんとあるってことを。」

涙が、静かにこぼれた。

私は、何も言えずに頷いた。

湊がそっと、指にリングをはめてくれた。

それは、あの日の約束の続き。
そして、これからの約束の始まりだった。



ホテルの部屋に戻る途中。
私はふと、湊の手をぎゅっと握った。

「ねえ。」

「ん?」

「明日、またロスに戻るんだよね?」

「うん。」

「また、ふたりで“行ってきます”って言えるの、嬉しいな。」

湊がふわっと笑って言った。

「うん。“ただいま”も、“行ってきます”も、
ずっとふたりで、言おうな。」

「うん。」

この人となら、
どこへでも歩いていける。
どんな時間も、意味のあるものになる。

そして、またきっと、帰ってくるんだ。

──ふたりで、「ただいま」って言うために。
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