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第3章『また、君と生きていく』
第2話「変わっていくもの、変わらないもの」
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キッチンに立って、温めたスープの香りを吸い込む。
それだけで、少し安心するようになったのは、ここ数週間のことだった。
いつからか、朝が少し苦手になっていた。
食欲がわかない日も、頭が重い日もある。
「疲れかな。」
そう自分に言い聞かせていたけど、
心の奥で「何か」が違う気もしていた。
でも、まだ言葉にはできなかった。
⸻
湊は、今日も朝から打ち合わせだった。
リビングのテーブルにPCを開き、資料を確認しながら、
「……どう思う?」と、ふいに私に聞いてきた。
「え?」
「これ。次の企画のプロット。
主演だけじゃなくて、脚本と制作にも参加してみないかって言われてて。」
「すご……!」
私は、画面に映る企画書を見て目を丸くした。
「本格的に、“作る側”にも回るんだ。」
湊は、ほんの少し緊張したように笑った。
「やってみたい。正直、怖いけど。
でも、挑戦したいんだ。」
「……いいと思う。」
私は、湊の目をまっすぐ見た。
「湊が“やりたい”って思うこと、全部応援したい。」
「ありがとう。」
湊の目が、ふっとやわらいだ。
「君のその一言で、俺、何でもできそうな気がする。」
⸻
午後、スーパーで買い物をしていたとき。
ふと、立ちくらみのようなめまいに襲われた。
「……っ。」
慌てて棚にもたれかかり、目を閉じる。
ほんの数秒のことだったけれど、
それが、確かな“サイン”のような気がして、胸がざわついた。
(……まさか。)
帰り道、頭の中でその可能性を否定していた。
でも、それと同時に、
もしそうだとしたら――という想像も、止まらなかった。
⸻
夜。
湊は、会議のあと疲れた顔で帰ってきた。
「今日、長かったね。」
「うん、でも楽しかったよ。
脚本家の人と一緒に意見出し合って。
“役者”とはまた違う視点で、面白いこといっぱいあるなって。」
私は、湊がこうして生き生きと話す姿が大好きだった。
湊の中にある“熱”が、私にまで伝わってくる。
「……すごいな、湊。」
「何が?」
「ちゃんと、自分で道を広げていってる。」
湊は肩をすくめた。
「いや、俺だけじゃ無理だったよ。」
「……え?」
「君が隣にいたから、ここまで来られた。」
私の手を、そっと取って言った。
「だから、これからも隣にいてほしい。」
私は頷いた。
「もちろんだよ。」
でもそのとき、心の奥では――
“隣にいる”という言葉の意味が、少しだけ揺れていた。
(もし、この体に新しい命が宿っていたとしたら――)
“ふたり”の時間は、
いつか“家族”の時間に変わっていくのだろうか。
そんな想像が、じわりと胸に広がった。
⸻
寝る前。
湊はベッドの中で、今日の打ち合わせのことをまた語っていた。
「今回は、恋愛ものじゃないんだ。」
「へえ、どんな?」
「家族をテーマにした物語。
人生の途中で出会った“他人”と、“本当の家族”になっていく話。」
私は、思わず聞き返した。
「“途中で出会った家族”? それって……」
「血のつながりだけじゃない、“絆”の話。
俺さ、演じながら、自分のことも重ねるんじゃないかなって思って。」
私は、小さく息をのんだ。
(家族、か……。)
⸻
その夜、湊が眠ったあと。
私はそっとリビングに降りた。
引き出しの奥にしまってあった検査薬。
買ったのは数日前だった。
怖くて、使えなかった。
でも今夜は、
“湊の未来”を語るその声を聞いて、
心が静かに決まった気がした。
──もしも、何かが変わろうとしているなら。
それを、ちゃんと受け止めよう。
私は、深呼吸をして立ち上がった。
それだけで、少し安心するようになったのは、ここ数週間のことだった。
いつからか、朝が少し苦手になっていた。
食欲がわかない日も、頭が重い日もある。
「疲れかな。」
そう自分に言い聞かせていたけど、
心の奥で「何か」が違う気もしていた。
でも、まだ言葉にはできなかった。
⸻
湊は、今日も朝から打ち合わせだった。
リビングのテーブルにPCを開き、資料を確認しながら、
「……どう思う?」と、ふいに私に聞いてきた。
「え?」
「これ。次の企画のプロット。
主演だけじゃなくて、脚本と制作にも参加してみないかって言われてて。」
「すご……!」
私は、画面に映る企画書を見て目を丸くした。
「本格的に、“作る側”にも回るんだ。」
湊は、ほんの少し緊張したように笑った。
「やってみたい。正直、怖いけど。
でも、挑戦したいんだ。」
「……いいと思う。」
私は、湊の目をまっすぐ見た。
「湊が“やりたい”って思うこと、全部応援したい。」
「ありがとう。」
湊の目が、ふっとやわらいだ。
「君のその一言で、俺、何でもできそうな気がする。」
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午後、スーパーで買い物をしていたとき。
ふと、立ちくらみのようなめまいに襲われた。
「……っ。」
慌てて棚にもたれかかり、目を閉じる。
ほんの数秒のことだったけれど、
それが、確かな“サイン”のような気がして、胸がざわついた。
(……まさか。)
帰り道、頭の中でその可能性を否定していた。
でも、それと同時に、
もしそうだとしたら――という想像も、止まらなかった。
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夜。
湊は、会議のあと疲れた顔で帰ってきた。
「今日、長かったね。」
「うん、でも楽しかったよ。
脚本家の人と一緒に意見出し合って。
“役者”とはまた違う視点で、面白いこといっぱいあるなって。」
私は、湊がこうして生き生きと話す姿が大好きだった。
湊の中にある“熱”が、私にまで伝わってくる。
「……すごいな、湊。」
「何が?」
「ちゃんと、自分で道を広げていってる。」
湊は肩をすくめた。
「いや、俺だけじゃ無理だったよ。」
「……え?」
「君が隣にいたから、ここまで来られた。」
私の手を、そっと取って言った。
「だから、これからも隣にいてほしい。」
私は頷いた。
「もちろんだよ。」
でもそのとき、心の奥では――
“隣にいる”という言葉の意味が、少しだけ揺れていた。
(もし、この体に新しい命が宿っていたとしたら――)
“ふたり”の時間は、
いつか“家族”の時間に変わっていくのだろうか。
そんな想像が、じわりと胸に広がった。
⸻
寝る前。
湊はベッドの中で、今日の打ち合わせのことをまた語っていた。
「今回は、恋愛ものじゃないんだ。」
「へえ、どんな?」
「家族をテーマにした物語。
人生の途中で出会った“他人”と、“本当の家族”になっていく話。」
私は、思わず聞き返した。
「“途中で出会った家族”? それって……」
「血のつながりだけじゃない、“絆”の話。
俺さ、演じながら、自分のことも重ねるんじゃないかなって思って。」
私は、小さく息をのんだ。
(家族、か……。)
⸻
その夜、湊が眠ったあと。
私はそっとリビングに降りた。
引き出しの奥にしまってあった検査薬。
買ったのは数日前だった。
怖くて、使えなかった。
でも今夜は、
“湊の未来”を語るその声を聞いて、
心が静かに決まった気がした。
──もしも、何かが変わろうとしているなら。
それを、ちゃんと受け止めよう。
私は、深呼吸をして立ち上がった。
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