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55 どうしてだか、哲也くんが近い。
しおりを挟む「う、氏家くん?」
どうしたの? いったいこれってどういう展開!?
「ごめん。話が逸れてしまった」
「はぃ?」
バクバクする胸を押さえながら哲也くんをうかがうと、目と目があってしまってかぁっと火照る。
「――今日は藤守くんにお礼が云いたかったのと、それともうひとつ……」
「……なに?」
「俺が事故にあった日のこと」
息を呑んだ俺は俯いた。身を固くして縮こまる。
「蒸し返して悪い。でも、どうしても謝りたくて……。俺、あのとき、なにもできなくて、ごめん」
哲也くんは深く頭を下げた。
「それだけじゃない。そのあとも入院なんかしてしまって、まったく藤守くんの力になってあげられなかった」
「あ、あやまらないでよ!」
びっくりした。哲也くんがそんなふうに思っていただなんて。
「氏家くん、頭、上げて」
哲也くんが頭を下げていることが申し訳なくって俺は慌てふためいた。
「……お、俺こそ、あんなところ見せてごめん」
「? それはおかしいだろ? 藤守くんが謝ることなんてなにもない」
「ううん。あんなの、見たほうだって気分のいいもんじゃないはずだよ。実際に氏家くんはこうして気に病んでて、それで俺に謝ったりしてる……」
「そうじゃない。そうじゃ――」
「それに俺、ちゃんと氏家くんに助けてもらった! あのとき氏家くんが来てくれたから俺、あいつらから逃げることができた。それに、それに、あの後も病院にも行かせてもらってたし!」
「? お見舞いに来てくれていたこと?」
不思議そうに問われたので、「うんっ」と大きく頷く。
「友だちでもないのに、俺なんかが氏家くんのお見舞いとか、それ知って本当は嫌だったんじゃない?」
「そんなことないよ?」
俺はブンブン首を横に振った。
「誰だって意識なくして寝ているところなんて見られたくないはずだよ? わかってたけど俺っ……ほかに、友だちいなかったから……」
うるっとしてきて、声に涙が混じってしまう。
「氏家くんの病室に勝手に通って、寝ている氏家くんを友だちの代わりにしてた。いっぱい話相手になってもらったりして……、俺、ほんと、すごく助かったんだ」
都合の悪いことはぜんぶ隠して、申し訳ながっている哲也くんの気持ちが浮上できるように、俺は精一杯話した。
「だから感謝するのも、ありがとうも、謝るのも、氏家くんじゃなくてぜんぶ俺のほうなんだ」
「藤守くん……」
「氏家くん、俺を助けてくれて、ありがとう」
いつもいつも哲也くんは、俺のこと助けてくれていたよ。ずっと。だからいま俺はこうしていられるんだ。哲也くんにはその重みはわかんないだろうけど、このありがとうは相当のもの。
「なんども家に来させることになってごめんな。俺が逃げてたせいで。でも、最後にこんなふうにちゃんと氏家くんと話せてよかったかも」
哲也くんには伝えられないと思っていた「ありがとう」って言葉――云うチャンスがあってよかった。これできれいにさよならだ。贅沢を云うならば、『ありがとう』を伝えるみたいにしてさらっと『好きです』って言葉も云えたらいいのだけど。
でも『好きです』って言葉には返事がついてきたりするもんね。おそろしくって云えるわけがない。哲也くんならきっとやさしい言葉で俺のことフッてくれるんだろけど、万が一、オトコ相手ってことで嫌悪感いっぱいに傷つくこと云われたくないし。それにやっぱりコイツはホモだったのかって、レッテルまで記憶されたら最悪だ。そうそう、だから云っておかなきゃ。
「それと、できたら忘れてほしい。あのときのことは。あんなみっともないところは氏家くんに覚えていて欲しくないんで……」
これは本心。なんなら哲也くんが目覚めたときにそこだけ記憶喪失になってくれていたらよかったのにって、本気で思ってたぐらいだもん。
「なんなら、俺のことまるごとすっぽり忘れ――」
「無理かな、それは」
彼の口もとが困ったように歪んだ。
遠慮がちに伸びてきた手が俺の顔に添えられたかと思うと、次の瞬間、困惑する俺の眦の涙がグイッと拭われる。
「!?」
(な、なな、なんで!? 今グイってした!? なんで? なんで、また近いのぉっ??)
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