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狐と鳥と聖夜を……

【2】

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 ……どっちが本性なのかと言われると、はっきり言って千年の間に、その両者は抜き難く混ざり合って、もう、ある種新しい人格? いや狐格? いっそ……化生のたぐいだから、化格?

 ……そこまで考えてアホらしくなって、暁月は下を向いて頭を振る。そんな暁月の脳内の展開を知ってか知らずか。

「じゃあ、兄者、またねえ~」
 慈英は顔の横でピースサインを左右に振って、テンション高く、軽くスキップを踏む勢いで出て行く。

 それを見送って、暁月はいつもと変わらぬ生活に戻っていく。いくら鬱陶しかろうと、ややこしかろうと、
アレと一緒に生きていくよりは仕方ないのだ。と、いつもどおり肩をすくめながら。

(……正確に言うと、生きているのかすら危ういが。まあ、それは私も一緒か……)
 と、暁月は思う。

 くしゃと自らの頭をかき回して、顔を左右に振って気持ちを切り替えて、慌てて掃き掃除を終える。
 冬の日暮れは早い。日が完全に暮れるまでに、夕拝を済ませなければいけない。

 この調子だと、あいつらにも手伝ってもらわないとちょっと間に合わないかもしれない。手早く境内の掃き掃除を終えると、暁月は、人一人いない小さな神殿内に入り、人形に切られた形代を懐から出すと、ふぅっと息を吹きかけて、呪文を唱える。

 そのまま、暁月の掌から形代たちがこぼれ落ちていき、小さな人形が立体化する。

「悪いんやけど、掃除を手伝ってくれへんか?」
 さっき浮かれて出かけていった慈英を小さくしたような形状の式神たちが、
「は~い」
 と小さくなった分だけ高くなった声で、あの男とおんなじ様な軽い口調で、それでも真摯に手に手に、雑巾や箒をもって片付けを始める。

 なんで、自分の作る式神は慈英の姿をしているのか、それすらもう千年の時間を経ていては、理由すら思い出せない。

 暁月はほぉっと吐き出す白い息を見つめてから、視線を上に上げて、落ちゆく夕日を見つめる。
 今日も無事、日暮れまでに一日のお勤めが終わりそうだ。
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