触らせないの

猫枕

文字の大きさ
7 / 32

7


 卒業まであと1ヶ月に迫った日曜日の午後。

 税法の試験に無事合格したシーリアと珍しく前日に飲みに行かなかったルネが寮の談話室のサンルームでまったりと日向ぼっこをしているところに知らせは届いた。

 シーリアとルネのそれぞれと半分ずつ血の繋がった弟、ロバートが行方不明になったというのだ。


 詳細が分からない二人は取り急ぎハモンド邸へと向かった。

 学園から邸まで歩いても30分弱。

 それほど近い場所なのにルネがハモンド邸に帰るのは5年ぶり。

 もっとも彼にハモンド家への帰属意識はもとより、帰る、という感覚も無いのだろうが。



 使用人に門を開けてもらって中に入ると邸の中は騒然としていた。


 メイドの話によるとハモンド伯爵一家は夫婦と子供2人とでピクニックに出掛けたのだが、行った先でほんの少し目を離した隙にロバートがいなくなった、ということだった。


 夫妻は現地で捜索を続けているらしく、邸内には事態の進展について詳しい情報を得られないまま不安な表情で右往左往する使用人のみが残されていた。

 
 シーリアはどうするべきかと思案したが、捜索に加わるべくルネと共に現場に向かうことにした。


  現場に向かう馬車の中でルネが頬杖をついて窓の外を眺めたまま言った。


 「弟って言ってもねぇ。

 ・・・・会ったことも無いしね」


 ロバートが生まれたのはルネが邸を出た後だった。


 ロバートの誕生を祝うパーティーにも、その後生まれた妹グレースの時も、呼ばれなかったのか来なかったのかルネの姿はなかった。

 シーリアはきらびやかな飾り付けをされた会場で、満面の笑みで交わされるお祝いの言葉をどこか遠くから聞こえてくるように感じながら、疎外感と居心地の悪さの中で同じ孤独を共有できるルネを求めていた。

 
クリスマスも復活祭もルネが参加することはなかった。
 派手に催されたパーティーには沢山の客が招かれるのに、そこにルネの場所は無かった。
 そしてその場に存在しているシーリアにとっても。




 クリスマス休暇に寮に残っている学生なんていない。

 「良いお年を」

 遠方の領地に帰って行く友達を見送るルネは歩いてすぐの邸に帰ることもなく、どのように過ごしてきたのだろう。


  この前のクリスマスはシーリアも家に帰らずルネと過ごしたが、ルネは行きつけだというbar panicに連れて行ってくれた。

 常連客たちと楽しげに飲み騒ぐルネを『彼にも居場所があるのなら』と安心した気持ちで眺めていたシーリアだったが、酒量が増えるにしたがって壊れていきそうな表情をしたルネが年上の女性に甘える姿を見た時は何故か泣きたいような気分になった。


 
 馬車が止まって目的地に着いたことを知らされる。


 シーリアは得体の知れない緊張を覚えたが、ルネはいつもと変わらないように見えた。


 数十の人達が一様に深刻な顔をして動き回っていた。

 レイダー家の人達も駆けつけてくれたようで、捜索本部と思われるテントの下では継母を励ますサイモンの母親の姿があった。



 ルネは泣き濡れる実母には目もくれずサイモンの父に近寄って

「どの辺を探せばいいですか?」 

 とか聞いている。


「この近辺は捜索済みだから、もっと森の奥を探しているところだ」



 シーリアとルネは林道を歩いて森に入って行った。


 歩きながらルネは冗談なのか本気なのか分からない調子で、


「とりあえず、探すフリでもしますか」

 と言った。








 


 



 



 



感想 122

あなたにおすすめの小説

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下

花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すものだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」の原作ヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。

こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。 彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。 皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。 だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。 何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。 どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。 絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。 聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──…… ※在り来りなご都合主義設定です ※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です ※つまりは行き当たりばったり ※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください 4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?