やるの?やらないの?

猫枕

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アベルという人

 アベル・ブライスは有名人だ。

 彼はエリーより2歳年上で高等科時代兄のニールセンの同級生だった。

 他の追随を許さない圧倒的な美貌を持つ上に成績優秀、そして財閥ブライス家の長男という何拍子も揃った超優良物件として女性達の垂涎の的だった。

 しかし当の本人には浮いた話の一つもなく、女嫌いなのではないか?はたまた同性愛者なのではないか?といった噂がまことしやかに囁かれていた。

 そんなアベルとの縁談がエリーに降って湧いたのは、エリーの高等科の卒業が半年後に迫ったある冬の日のことであった。

 兄のニールセンが、

「アベル・ブライスって知ってるか?あいつと見合いしないか?」

 と唐突に夕食の席で言った時、エリーも両親もひどく驚いた。

 どう考えてもニールセンとアベルには元同級生という以外には共通点がなかったからだ。

 今迄家族の会話にニールセンの口からアベルの話題が出ることも無かったのに、急に見合いを勧めてくるなど考えてみればおかしなことだった。

 それなのに、

「なんか結婚相手を探してるらしいんだけどさ、俺に2歳年下の妹がいるって言ったら、丁度年齢的にも合うから会ってみたいって言うんだよ」

 という兄の言葉に疑いを持つこともなく、

「まあ、まあ、ブライス家の息子さんなんて素敵ねぇ、あなた?」

 なんて母親が真っ先に乗り気になって、

「一度近くでご尊顔をじっくり拝見してみたかったのよ~」

 なんて人気役者にでも会いに行くノリで頬を赤らめた。

 エリーにしたって、あの超優良物件が自分を選ぶとは思えなかったが、『あのアベル・ブライスと見合いした』というのは、例え断られたとしてもそれだけで学校で話題の中心人物になること間違いなし!という下心もあって、ある種の物見遊山的な軽い気持ちで、会うくらいならとオッケーしたわけだ。

 当日、ブライス・グループ傘下の高級ホテル、レーヴ・トロピカールのティールームを貸し切って見合いは行われた。
 
 エリーのハイアー家も建設関係の事業をしていてそこそこ裕福な家なのだが、頑張ってお洒落をしてきた一家の服装はブライス家の面々を前にするとなんとも垢抜けない感じがして、エリーはそれだけで気後れして挨拶が始まる前から気分が削がれてしまった。

 ところが超絶美しいブライス家の面々は一見クールに見える容貌に反して実にフレンドリーでハイヤー家の一同を下に見るようなことは一切無かった。
 
 ただし、アベル以外。

 エリーは最初は気を遣って二言三言アベルに話題を振ってみたが、全て、ハイ、と、イイエ、だけで返されてしまって、早々に会話することを諦めてしまった。

 「まあまあ、うちのコときたら緊張しちゃって」

 仏頂面のアベルのことを柔らかい微笑みで擁護するブライス夫人に苦笑いを向けながら、『そんなわけあるかい!』と内心エリーはムカついていた。

「あとは若い二人で」

 と無理矢理送り出された南国風の庭園を散策する間もアベルは終始無言で、エリーは供された素晴らしいお菓子や飲み物が無かったら、無駄に貴重な休日を消費させられたことに暴れたい気分だった。

『きっと私を見た瞬間にナシ!て思ったのね。

 失礼な人だわ。

 いくら好みじゃ無いとしても、普通はその場だけでも取り繕うものじゃないかしら?

 あ、でも、変に反応が良かったなんて期待を持たせない為の
気遣いなのかしらね?』

 エリーはそんなことをツラツラ考えながら、

『この見合いのことは学校の皆には内緒にしよう』

 と思った。






「全然ダメ。全く脈無しだったわ」

 帰宅後の夕食の席でエリーが、露ほども期待しないで、と散策の時のことを家族に報告すると、

「あー、うん、・・・うちレベルがブライス家と付き合うのは荷が重いしな・・・」

 と父ポールがうんうんと頷き、

「でもアベルさんって本当に美しかったわよねぇ~」

 と母マリーは思い出してニヨニヨしていた。

 そんな中で一人兄だけが、

「そうなのか?」

 と納得いかない顔をしていた。

 そうしてすぐに断りの連絡が来るものと思っていたハイヤー家に

「是非、お話を進めて頂きたい」

 という連絡が入ったのは翌日の午前中のまだ早い時間帯だった。


 




 
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