私は王子のサンドバッグ

猫枕

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  そんな私の心は王室主催の夜会でポッキ

リ折れてしまった。

 足の不調を理由に参加を渋る私に王子は

 「オレだって嫌だけど」

 婚約者の義務だと参加を強制した。

 ピョコピョコとみっともない歩き方をす

る私をエスコートした王子にすぐに放置さ

れるのはいつも通り。

 お気に入りの令嬢たちと得意気にダンス

する王子を眺めるも特に何の感情も湧かな

い。

 あちこちから私に対する嫌味や悪口が聞

こえてくるのを無の境地でやり過ごし、宴

もたけなわになったところでコッソリ退場

しようと出口に向う。

 すると何故か王子がやって来て引き留め

る。

 そんな出来損ないの婚約者なんて棄てて

しまえばいいのに、という周囲の嘲笑に王

子は美しく微笑む。

「体に障害があるからといって婚約者を見

捨てるなんてできませんよ。私は一生彼女 

の杖になるつもりです。」

 
 だと。


誰のせいでこんな体になったのだ、と怒り

に震える私のそばで周囲の人々は口々に王

子を称賛している。


 「なんて王子は慈悲深いのだろう」


静かにその場を離れた私に追いついてきた

王子が私の腕を掴む。

「良いものを見せてあげる」

無理矢理連れて来られた部屋で王子はビロ

ードの箱を見せた。

「昨日届いたんだ」

 開けるとそこには指輪が2つ並んでい

た。

「結婚指輪だよ。カメリア嬢がデザインし

てくれたんだ。綺麗だろ?彼女はセンスが

良いからね。」


 カメリア嬢は王子のお気に入りの侯爵令

嬢で、学園ではいつも王子とくっついてい

る。

そして王子と一緒に数々の嫌がらせを仕掛

けてくる。

 事情に疎い新入生などは彼女が王子の婚

約者だと思っていて、私も早くそうなれば

いいと思っていた。


 「はあ」

 私は気のない返事をする。なんだろう、

カメリア様との結婚指輪を見せつけて絶望

させる作戦だろうか。

 「結婚後に住む王子宮の内装や家具の選

定も彼女がやってくれているんだ」

  いつになく上機嫌の王子。

「それはおめでとうございます。カメリア

様と 末永くお幸せに」

 途端に王子の眉間に皺が寄る。

「何を言ってるの?ローズとオレが住む家

だよ」

 私は目の前が暗くなった。

 コイツはこれからも私をイジメて楽しむ

つもりなのだ。

 そして結婚後も事あるごとに口出しして

くるカメリア様の意地悪な顔が目に浮かん

だ。

  この地獄は生きてる限り続くのか。

 帰宅した私は浴室で深く手首を切った。

 自室には日常的に受けたイジメを克明に

記録した日記と、もうこれ以上耐えられな

いことを詫びた遺書を残して。


 
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