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エリック殿下がおかしい。
人が変わった、というかエリックが変わった。
佇まいも言葉使いも所作も、全てが変わってしまった。
日に焼けた肌に輝く金髪。シャツのボタンを3つ開けた筋肉質の胸には金のチェーンネックレス。
耳にはピアスが光っている。
チャラい。
真っ白な歯を覗かせてニコッと笑って
「おはよう、お嬢さん達」
ご令嬢たちがポーッとなっている。
「エリック殿下って、改めて見るとかなりのイケメンよね」
とグレイス。
「アレク様と遜色ないですよね」
とローラ。
「何故今まで気づかなかったのでしょうか」
とリリー。
「イケメンを全て差し引いて余りある様子のおかしさでしたものね」
なんでしれっと混じってんだ、カメリア。
「そんなこと言ってカメリア様の初恋の相手はエリック殿下だってジェイムズ殿下に聞きましたけど」
私が応戦すると、カメリア様が
「あの頃は私も若かった(5才)ですから。
今となったら黒歴史ですわ。
危うく道を踏み外すところでした」
おい!現在進行形で道を踏み外し続けている私はどうすればいいのさ。
するとエリック殿下がこっちに近づいて来る。
歩き方まで違う。
「やあ、ローズ、今日も可愛いね」
え?
「今日は放課後に町に行こう。
しばし散策してから、サロン・ド・テで憩いのひとときを共に過ごそう」
お前誰だ?なんだサロン・ド・テって喫茶店って言えよ。
『サロン土手』だったりして。
エリック殿下はバチっと、ウインクをして去って行った。
なんだアレ?
放課後エリック殿下は王都で一番の高級カフェ、ル・ジャルダン・ドゥ・ランジュに私を連れて行った。
「好きなだけ頼んでいいよ」
私は疑いの目を殿下に向ける。
「また、何か悪いことしてないですよね」
「いやだな、ローズ。もう借金返済にあくせくする必要はないのさ。
俺たちは自由さ」
どうやら小遣いが貰えるようになったらしい。
「この店はガトー・デュ・フェネトラ
が美味しいんだよ」
「あ、・・・じゃ、それで」
2~3日前まで学園の植物園でビワを盗んで食べてた人がガトー・デュ・フェネトラだ?まあ、ジェイムズ殿下に教えてもらったんだろうけど。
なにはともあれ、お菓子はとても美味しかったし、お茶も格別だった。
まあ、普段殿下がそこら辺で摘んできた草で淹れた、エリック印のダイジョーブデスカティーと比べるのも失礼だが。
エリック殿下は何が面白いのかイマイチわからないエスプリの効いた小話を2つ3つ披露し、私は苦笑いで相槌を打った。
それからはエリック殿下は私をいろんな所に連れて行ってくれた。
美術館にも行った。
「この絵は、同一画面上に時間と空間の推移を多角的に表現しようとした点が画期的な実験的絵画なんだ」
そんな解説をするエリック殿下はすっごくイケメンなんだけど、オメエ自分の画力を勘案して発言しろ!とツッコミたい自分もいた。
エリック殿下は他にも「さっぱり意味のわからない」芸術的な映画を見せてくれたり、歌劇や芝居見物にも連れて行ってくれた。
お洒落をした私をスマートにエスコートするエリック殿下の姿はご令嬢達の垂涎の的となり、私は皆から羨ましがられた。
これはかつて私が望んだ生活だと、それはわかっている。
殿下が誕生日プレゼントや廃材のブランコに不満を漏らしていた私に贅沢をさせて喜ばせようとしていることもわかっている。
でも、なんだろう。
面白くない。
以前、夜にお城を抜け出して
「月がすっごく大きくてキレイだ」
とわざわざ教えにきた王子。
お金は無かったけどいつも楽しそうだったし、私のことも一生懸命楽しませようとしてくれたエリック殿下。
ワガママなのは分かってる。
分かっているけど、
私はエリックの皮を被った何かから殿下を解き放したい。
その日エリック殿下は私を高級宝飾店に連れて来た。
まばゆい光を放つアクセサリーをずらり並べられて
「どれがいい?好きなのを買って上げるよ」
「・・・・・・・ない」
「え?」
「・・・楽しくない」
「・・・・・」
「・・・ちっとも楽しくない。
高級品なんていらない。高いお店に入れなくていい。イケメンじゃなくていい。
キノコ狩りに行って殿下に上前を撥ねられても、学食でオカズを狙われても、前の殿下の方が良い。
私が好きなのはセコいけど優しくて、何があってもポジティブでへこたれない元の殿下なの」
エリック殿下がパーッと明るい顔になった。
「ホント?ローズ。
オレもそろそろツラくなってきてたんだ。
イケメン着ぐるみ脱いでいい?」
「うん、脱いじゃって脱いじゃって」
私達は下町に行ってケチャップで顔を汚しながらホットドッグを食べた。
「ねぇ、殿下。あのブランコはまだあるかしら?」
「オレは撤去してないから、あるんじゃないかな。行ってみる?」
「うん」
二人で丘を登る。
ローズを乗せたブランコを何度も何度も押し続けるエリック。
二人の笑顔をキレイな夕陽が照らしていた。
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