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ミリアムが一通の手紙を渡されたのは完成した原稿を届けに新聞社に赴いた時のことだった。
「なんですか、これ」
「ファンレター。
ダニエル・ショーンからの」
「は?ダニエル・ショーン?」
「何度も会わせろってうるさくて。
ダメだって言ったらこれ渡してくれって」
ダニエル・ショーンは人気推理作家だ。
トリックの斬新さと巧みな心理描写で高い評価を得ている。
加えて たびたび新聞や雑誌に写真入りで登場する彼のルックスが人気に拍車をかけている。
「・・・・困るんですけど」
「身分は明かしてないよ。
とある貴族のお嬢さんだから教えられないって言っといた」
「・・・・返事、書かないと思いますよ」
「それはそれでいいから、とりあえず読むだけ読んでよ」
伊達男で有名なダニエルの周囲には、綺羅星のごとく当代の有名人達が取り巻いている。
そんな取り巻きの一人に最近話題のマダム・シャノアールも気まぐれに加えてやろうくらいに思っているのだろう。
とりあえず仕事の打ち合わせをして、家に帰ってからダニエルの手紙を読んでみた。
予想に反して誠実な内容だった。
ミリアムの作品を褒めてくれていて純粋に嬉しかった。
ミリアムの作品に登場する女性たちは赤裸々に心情を語るところが今までの文学作品のような気取りが無くて面白い。
今までの小説は男性作家によるものが大半だったので、作中の女性像は男性視点の決めつけや理想の押しつけが多かった。
まだまだ男尊女卑の根強い社会だが、君のような若い女性が意識を変えていく流れの一つを作っていくことを期待する、というような、頬に熱を持ってしまうような褒め言葉が並んでいた。
返事を書くつもりの無かったミリアムだが、ここまでのことを言ってくれた相手に対して何も反応しないのも失礼だと思った。
これっきりだと思って儀礼的に返したお礼の手紙に対してまたすぐにダニエルからの返事が新聞社から転送されてきた。
記された質問に答える形で返事を出すとまた返事がくる。
気がつくと文通していた。
何気ない日常でのあれこれを感じるままにとりとめなく書くのだが、それがダニエルには面白いらしい。
次第にダニエルの手紙にはミリアムと直接会いたいという記述が増えてきて、それがミリアムを憂鬱にさせていた。
ミリアムは何度もマダム・シャノアールについて噂されていることは事実無根であること、自分は凡庸な容姿をしていて実際にご覧になったらガッカリすること請け合いであることを手紙に書いたがダニエルは譲らない。
今までの手紙のやり取りから察するに、確かにダニエルは女性を美醜で判断するような人では無いかもしれないが、それでもやっぱり、なんだ、って顔をされるのは傷つく。
美人じゃありませんよ、という但し書きも単なる謙遜と受け取られている可能性もある。
やれ歌劇の特別席が手に入っただの、トロピカーナ ホテルのディナーに行かないかだの、船をチャーターするからクルーズしようだのと誘われるようになると、一方的に文通をやめてしまおうか、とか、いっそのことこのゴリ顔を晒して終わりにしてしまおうかと思い悩んだ。
かと言って、シャイニーを引きこもり変態オタクに奪われた今、日々の素直な心情を吐露できる ほとんど唯一の存在であるダニエルを失いたくない、という気持ちもあって、ミリアムの思い悩む日々は続くのだった。
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