良いものは全部ヒトのもの

猫枕

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 えっと、何が起こっているんだろう?

 目の前には島の若者が5人並んでミリアムに向かって

「かわいか~。美女か~」

と繰り返している。

「こげな可愛かオナゴは生まれて初めて見たバイ」

「お嫁さんに欲しか~」

 皆一様に頬を染めて、ふざけているようには見えない。

 え?え?まさかのモテ期到来?
 私ブスゴリラだよ?!もしかして、この人達全員ゴリラ?

 漁師だという彼等は精悍な顔立ちに鍛えられたたくましい身体を持っている。

 なんかもう帰るの止めよっかな。一生ここで暮らす方が楽しいかも。

「コラお前達!」

 村長がやって来た。

「このお方はな、ハーパー子爵様んとこのロザリンお嬢ちゃんの大事なお友達なんだ。
 王都の伯爵様のお嬢様なんだぞ。
 お前らが不埒なことなんかしてみろ。命は無いからな、わかったか?」

 あ、バカ村長。ロマンスの芽を摘むな。

 
「へー。王都とな!」

 「王都とな!」

 やたらと王都に反応する面々。

「あ、あの、ミリアムです。
 次の船までは滞在するので仲良くしてください」

 5人は照れながら、

「王都のお嬢様が俺たちと仲良くしたかとげな~」

 などとヒソヒソやっている。

「スミマセンね。アイツらに社交辞令は通じないんですよ」

 村長が苦笑いをする。

「いえ、本当に仲良くしたいです」



 港の桟橋に来た。棒っ切れに釣り糸と鉛の重りを付けただけの簡単な釣竿で小アジを釣るという。
 
 彼らが針にエサを付けてくれてミリアムがポチャンと海に投入する。
 しばらく待つと引きを感じる。

「ほら、今バイ!」

 背後からミリアムに覆い被さるようにして竿に手を添え、男の一人がミリアムと一緒に引き上げる。

 体長10センチにも満たない小アジが釣れる。
 
パチパチパチパチと拍手が起こる。
 
そしてまた一人がエサを付け、一人が背後に回る、を繰り返す。

 飲み込みの早いミリアムである。本当はとっくに引き上げるタイミングを習得していた。
 エサもつけられると思う。

 でも出来ないフリをした。
 ちやほやされる、という感覚を生まれて初めて知って、調子に乗るミリアムだった。

 『シンシアはいつもこんな感じだったのね』

 この島には若者自体が少ないが、年頃の女の子がほとんどいないのである。

 大抵が本島か本土に働きに行っていて、いてもほとんどお洒落をすることもなく労働しているので年齢よりも老けて見える。
 
ミリアムのように手入れの行き届いた令嬢を見にすることは皆無なのだ。
 
 更に「王都から来た」というプレミアム感がミリアムの価値を押し上げていた。

夕暮れの桟橋でミリアムが小アジを釣り上げる度に、それを取り囲む5人の男達がパチパチと手を叩きながら大袈裟に褒める。

 端から見ていると、なんともバカらしい光景であった。




 島の生活も残り2日になった時、村長さんに連れられて一人の中年男性が現れた。

 「はじめまして。ポール・テンダーと申します。サガーノ初等学校の校長をしています」

 突然で申し訳ありませんが、と校長先生は産休でいなくなった先生の代わりにしばらく子供達を教えてくれないかと頼んできた。
 
 「え?私、教員免許なんてもってませんよ」

「いーの、いーの、代用教員だから」

 村長さんはヘラヘラ笑っている。

「王都の王立学園を優秀な成績でご卒業だとおききしております。
 どうか、助けると思って」

「お子さんに教えるなんて」

「計算とか読み書きくらいで大丈夫だから」

「お願いします」

 頭を下げる校長先生。

「・・・期間はどのくらい・・」

「・・・3ヶ月・・・くらい?」


かくしてミリアムは代用教員となった。
 




    
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