良いものは全部ヒトのもの

猫枕

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 まがりなりにも給料を貰っているのだから、何らかの足跡を残したい、とミリアムは考えていた。

 そんな中で直面したのが生徒達の壊滅的な文章力だった。
 
 ミリアムは童話を授業の合間に朗読してやった。本を読む習慣の無かった子供達は次第に物語の世界に引き込まれてミリアムにもっと読んでくれとせがむようになっていった。


 ミリアムは教卓にデージーが一本挿してある花瓶を置いた。
生徒達に紙を配ると名前を書くように指示し、

「これを書きなさい」

 と花瓶を指差した。

「絵を描くんですか?」

「違います。見たままを文字で文章にしてください。10分です」

 まったく筆が進まない。

 カビンがある。

とか、

花がある。

 など書いた子供もいたが何も書けなかった子供達もいた。

 翌日もまったく同じことをする。

「先生、昨日書いた」

「昨日は書かなかったことを書いてください」

 子供達はうんうん唸っていたが、

「黄色いカビンがあるとか?」

「そうそう」

「教卓の上にあるとか?」

「素晴らしい」

 そうやってミリアムは5W1Hを教え込んでいった。
 一文しか書けなかった子供たちがミリアムと交換日記ができるようになった頃、本土の教育委員会で主宰する作文コンクールの募集要項を見つけた。

 「校長先生、これに応募してもいいですか?」

 「構わないよ。でもうちの子達にまともな作文が書けるかねえ」

 校長の許可を貰ってミリアムは作文指導にとりかかった。

 募集のテーマは「わたしの故郷」だった。



「皆さんにはこの島についての作文を書いてもらいます」

「え~っ!!」

「え~じゃない!」

「めんどくさい~」

「黙りなさい」

 皆静かになる。ミリアム先生はなかなか怖いようだ。

「まず、皆さんには取材をしてもらいます。」

「取材って?」

「この島のことについてお父さんやお母さん、おじいさんやおばあさん、周りの人達に話を聞いてくるのよ。
 その中で、面白いなーとか感動したなーとかいうものがあったら、そのことについて詳しく調べます」

 子供たちは各々に聞いてきた面白い話を発表した。

 ダニエルも面白がって参加している。

 「ボクの地区にはポタリー・バレーという谷があります。
 昔、食器なんかを売りに来る行商人がいたんですけど、谷沿いの道を歩いていたときにバランスを崩して落ちて亡くなったそうです。
 今でも谷底には割れた陶器のカケラが散らばっているそうです」


「案内しろ!行ってみたい」

 ダニエルが目を輝かす。

「嫌だよ!幽霊が出るんだよっ!」

 他の子供達も首をイヤイヤしている。
 有名な心霊スポットらしい。


「私の地区はボート・ヒディングと言います。
 先祖達が迫害を逃れて本土からたどり着いて舟を隠した場所だそうです」

「ご先祖様は大変なご苦労をなさって信仰を守り抜いたのですね」

「素晴らしいじゃないか、是非行ってみたい」

 ダニエルが言うと、

「じゃあ、今日帰りについてくる?」

「おう!」

 きっとダニエルは酒盛りして今夜は帰って来ないな、というミリアムの予想はその夜ピッタリ当たった。

「ボクは ばあちゃんから入江のことを聞いてきました。
 昔、嵐の時にキラキラした豪華な船が避難してきたそうです。
 何日かいて、水とか食べ物とか補給して帰って行ったそうですが、村の人たちは立派な身成の美しい人たちを見て、きっとあの人たちは神様の遣いだったんだろうと思って、ディヴァイン・インレットと言うようになったそうです」

 古代に隣国と船で交易していたという言い伝えに関するものではないかとミリアムは興奮した。

 ダニエルも感心している。

 そのようにして皆が興味深い話を披露してくれて、ミリアムは更に個別にもっと詳しく、とか、それについてどう思ったのか等と掘り下げて指導した。

 そして出来上がった作文はほとんどが佳作以上をもらった。
 
 その中には特選に輝いた作品もあった。

 一度島を出て都会に行った両親が故郷の価値を再発見して戻った話。そして自分自身も勉強のため一度は島を出ようと思っているが、必ず帰ってくる、そんな作文だった。

 トロフィーやメダルを貰った子供たちは誇らしげで、それ以上に親達が喜んだ。

「本土の校長会で、君の学校はどんな指導をしてるんだね?って皆に褒められて鼻高々だったよ」 

 校長もとても喜んでいた。

「えっと、それからね。新しい先生がやっと決まったよ」


 あと一月足らずで島を去ることになる。

 ホッとしたような、寂しいような気持ちのミリアムだった。
 
 

 



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