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出会い
しおりを挟む「良かったらRINE教えてもらえませんか」
がやがやとした駅近くの雑踏の中。
見知らぬ大学生風の青年に声をかけられて、渡部カケルはパチパチと瞬いた。
呼び止められて反応してしまったけれど、ただ道などを聞かれるだけかと思っていたので、完全に寝耳に水だった。
「……RINE? だれの?」
「あなたのです」
真っ直ぐでひたむきな目で見つめられるが、カケルはますます困惑してしまう。RINEはコミュニケーションアプリだ。自分が女性だったらナンパだと想像できるけれど、男の、二十代サラリーマンである自分のRINEを聞いてもどうしようもないだろう。と、そう思う。
「……宗教の勧誘?」
「違います。以前からあなたのことを見かけていて、話してみたいと思っていたんです」
見かけてた? 話してみたいって何を?
ポカンとしたあと、どこか熱っぽい眼差しに気付いてカケルはついじりっと半歩後ずさった。よくわからないけれど怖い。
すると青年は少し焦った顔つきになって背筋を正した。
「っ急にすみません。俺、■■大学法学部の高橋ユウヤっていいます」
「はぁ……え、■■大学?」
「はい。自己紹介もなく失礼しました」
「いや……」
■■大学は超・名門と呼ばれる私立大学である。そんな人間が自分と話してどうしたいというんだろうか。
というか自己紹介されたわけだから、自分もしたほうがいいのだろうか……。でもプライバシーを明かすのは怖いし…………。
「あの……急いでるから、そういうのはちょっと……?」
「インスタはだめですか?」
「ええと、ゴメン、悪いけど……」
「ご飯、ご馳走するんで」
「いや、俺の方が年上だし」
「じゃあ割り勘で。お茶だけでもお願いします」
これはナンパなんだろうか……?
断り続けているとだんだん気が引けてきて、「お茶くらいなら良いかな」とも思ってくる。
しかしお茶をしてしまえば、彼と話をしないといけなくなる……。
「その、知らない相手とお茶とかは困るから……」
「……だめですか」
すると置いて行かれた子供のような悲しそうな顔をされて、カケルはぐっと返事に詰まった。
そのときだ。
「あれ~~~~?! 渡部さん、その恰好良い子だれ?!」
「よ、吉田さん」
夜の雑踏の中から呼びかけてきたのは、同じ課の若手社員である吉田さんだった。
吉田さんはヒールのある靴なのに器用に小走りで駆けてくると、カケルに並んで青年を見上げる。
「弟くん? 似てないね。大学の後輩か何か?」
「いや……」
「紹介してくれてもいいのに~~!! きみ、何て名前?」
「高橋です」
そのとき、カケルは背筋に寒いものを覚えた。
青年の目が笑っていないように見えるのだ。
しかし吉田さんは気付いていないらしい。
「高橋なにくん?」
「高橋、ユウヤです」
「ユウヤくんね。私ユカ。ユカさんって呼んで。年上好き? 今度合コンしない?」
吉田さんは会社にいるときはネイルをいじったり髪をいじったりして気だるそうなのに、今は声のトーンが上がってかなりのハイテンションである。
一方、青年は淡々と質問を流した。
「お二人は仲が良いんですか?」
「まさか!! ただの同僚だよ~~、私いまフリーだし。彼氏募集中~~」
うふふ、と吉田さんが髪を整えながら悪戯っぽく笑う。
ユウヤは目が笑っていないまま微笑みを保っている。
「そうなんですね、僕もフリーで。良かったら食事に行きませんか。二人だと緊張するんで、”渡部さん”も一緒に」
その瞬間、カケルはゾゾォッと強烈な悪寒に駆られた。
たった一度の呼びかけを聞き逃さず、”渡部”という名前を把握して、そして勝手に知り合いのフリをしてきたのだ。
凍り付くカケルとは対照的に、吉田さんはすっかり乗り気になっている。
「いいねいいね! 今からでもいいよ? 女友達も呼ぶし! すっごく可愛いから~~」
「はい、よろしくお願いします」と青年は愛想よく微笑んでいる。しかし、目がやはり笑っていない。吉田さんはどうしてそれに気づかないのだろう――。
首筋に汗を滲ませるカケルに、ふとユウヤが流し目で視線を送ってきた。
『逃しませんよ』
と言っているように聞こえた。
おわり
***
読んで下さってありがとうございます。
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