エリート魔法使い様の童貞を奪ったら、人生が変わってしまった!

おもちDX

文字の大きさ
3 / 56

3. 甘んじて、二日酔い

しおりを挟む
「ウェスタぁあー! お待たせ!」

 仕事終わり、会う約束をしていたのは友人のポロスだ。夕暮れ時でも鮮やかな赤い髪を靡かせ、焦げ茶色の瞳をキラキラとさせて僕の方へ走ってくる。
 ポロスは僕のひとつ歳上で、同じ孤児院で育った。いまはひょろりと背が高いが、両親を事故で亡くし孤児院へ来たときは僕よりも小柄だったから、僕があれこれと世話を焼いたのがきっかけで仲良くなった。成長期にぐんぐん背が伸びて、あっという間に身長を抜かれてしまったのはいまも解せない。

「お疲れ……おわ! も~~でかいんだからやめろよ~」

 ポロスは走ってきた勢いのまま、ガバッと僕に抱きついた。そのまま僕の頭に頬をスリスリと擦り付けてくる。一応形だけ窘めるが、いつものことなので慣れたもの。
 こいつは本当に僕のことが大好きだ。

 十代のころは何度も冗談のように告白されてそのたびに頭をはたいて断ってきたけど、「これ以上言ったら友だちを辞める」と宣言してからはさすがに懲りたみたいだ。
 ちょくちょく娼館に行っていると聞いているし仲のいい娼妓がいるようだから、本当は女が好きなのだと僕は思っている。僕とは成人するまでずっと一緒にいたから、友愛と恋愛感情がごっちゃになってしまったんだろう。

 アクロッポリでは同性愛も一般的で、結婚もできる。その点この国は進んでいるのかもしれない。
 隣国ディルフィーでは正式な婚姻まではできないみたいで、わざわざアクロッポリへ移り住んできたという人の話はよく聞く。
 
 けれど男同士や女同士では子どもができないから、貴族とか子孫を残す必要がある人たちは同性婚なんてもってのほか。まぁ政略結婚とか契約結婚とかして本命である同性の愛人を囲っている人もいるみたいで、自由恋愛できない人たちは大変だ。
 日陰の存在はつらいだろう。……みんなが好きな人と恋愛や結婚ができたら幸せなのに。

 ポロスと僕は場所を移動し、立ち飲みの酒場でエールとつまみを何品か注文した。ポロスは慣れているから、魔力の含まれる鶏肉やハーブを使った料理を積極的に選んでくれる。
 店の中は賑わっていて、顔を近づけないと相手の声が聞き取りづらいくらいだった。
 エールはすぐに運ばれてきて、僕らはまっさきに乾杯した。頭上にぶら下げられている魔導灯に照らされた黄金色が、いかにも美味しそうに見える。

「っは~! うまい! ――ポロス、さいきん仕事忙しいんでしょ? 今日無理やり帰ってきたんじゃないの」
「ウェスタに会うことは最重要事項だからな! まー、忙しさは……やばい」

 ポロスは魔力もあるし、頭もいい。王宮の経理局で働いているが、王宮内にあるさまざまな局の思惑に振り回されてけっこう忙しい部署みたいだ。彼がお人好しだから、人一倍仕事を任せられてしまっている可能性もある。
 周囲をキョロキョロ見渡して知り合いがいないことを確認し、顔をずずいっと近づけてポロスは愚痴をこぼす。

「ふだん沈黙してる魔法研究局がさ、今週になって急に無理難題押し付けてきて……なんか研究とか魔導具の開発に予算を増やしてほしいって言うわけ。国を支える魔法使い様の集団に何か言えるはずもないしさー、駄目押しで王様の許可を得てるとか言われちゃって拒否できるわけもないし。でも今から予算の組み直し!? って思わず叫びそうになった……」

 よっぽど疲れているのか、ポロスは遠い目をしている。可哀想に。僕は料理を運んできた給仕の女性に追加のエールを注文しつつ、自分にとってタイムリーな人のいる局の話題に、内心ドキッとしていた。
 今日聞いた噂の内容にもやもやを抱えつつも、気になるものは気になる。噂話の好きな同僚がいると以前言っていたし、同じ王宮内なら信憑性のある話を聞いているかもしれないと考えて、さり気なくポロスに尋ねた。

「なぁ、今日ちらっと耳にしたんだけどさ、その、魔法研究局の人が結婚するとかなんとか……」
「あ! ウェスタも聞いたの? 偉大なる魔法使い様の噂となると、広まるの早いなー。まだ打診の段階だって話だけどね。ディルフィーの王女様、おれも見かけたけどめっっちゃくちゃ可愛くて! あんな子に迫られたら誰だって落ちるわ。まぁでも、どうなんだろ? カシューン魔法師長は相変わらず研究局に引きこもってるし、本当に結婚するとしたら意外かも……」
「ふ、ふーん……。カシューン魔法師長って、実際どんな人なの?」
「おれも直接話したことはないからよく知らないけど、わりと噂通りかな。魔力量がすごくて才能もあるから局長に据えられたけど、本人は魔法にしか興味ない研究馬鹿って感じ。すげー美形だから観賞用……て、まさかウェスタ、あんな感じの人がタイプなの?」
「え!? いや! まさか。違うよ」

 ポロスは疑わしげに目を細めて、じとっと僕の方を見つめてきたが、慌てて両手をブンブン振って否定した。綺麗なものを綺麗だと思っただけで、別にタイプなんかじゃない。
 さらに聞けば、カシューン魔法師長をよく知っている人ほど、結婚の噂には懐疑的らしい。ふむふむ……
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...