嫌われ者のオメガ領主は今日も夫に片想い

おもちDX

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62.ルイの女神



「取り囲め。一人も逃がすな!」

 ルイは逸る気持ちをひた隠し、仲間たちに指示を出した。
 今回の作戦はラテーヌ騎士団だけでなく、ハルシュタット王国も重要視しているのものだ。関係者を残らず捕縛し、被害者を無事に保護する必要がある。

 ここには盗賊団と、ミュンジング王国からやってきた奴隷商が揃っている。諸悪の根源を捕まえなければ問題は解決しないため、ルイたちは近くまで来ていたにもかかわらず奴隷商がやってくるまで動けなかった。

 悲鳴などが聞こえたらなりふり構わず突入していたと思うが、黙って待っているだけの時間は拷問のようだった。
 しかし、一隊長としてルイを外さずにいてくれた上司に報いなければならない。作戦の成功はすなわち、シェリールを救い出すことにも繋がる。ルイは自身も戦いながら周囲に目を走らせていた。

 奴隷商側の護衛と盗賊団はそれぞれ腕に覚えのある男ばかりだ。常に訓練している騎士のほうが技術は上であっても、油断すれば足元を掬われかねない。必ず一対複数で対応するように指示してある。

「被害者の保護、完了しました!」
「よし! ……いや待て、本当に全員か?」

 同時に動いていた被害者保護班から報告がある。安心しかけて、違和感に気づく。

 ルイは彼らから少し離れたところにいた。日の出前の薄暗闇の中で、保護されたオメガたちが身を寄せ合っている。
 だが夜でも月光のごとく輝く白金の髪は見当たらない。確か五人だったはずだが、四人しかいない。ここまで辿る目印となった物のなかに、シェリールの持ち物もあった。

 現場は圧倒的人数で制圧が完了しようとしていたけれど、ルイの耳の奥では警鐘が鳴り響いていた。彼らのいた小屋の扉は閉まっているが、室内はまだ明るい。

 単独行動はよくないと分かっていたものの、足は既に小屋の方へと向いていた。

(シェリ、そこにいるのか?)

 ルイは音を立てずに扉を少し開け、中の様子を伺おうとした。――その直後だった。視覚情報よりも先に気づいた身体が動く。
 
 甘い花のような香りが鼻腔に届いた瞬間飛び込めば、床に引き倒されたシェリールに二人の男が覆いかぶさっているところだった。
 涙に濡れた目が虚ろにこちらを向く。微かに聞こえた呟きは、ルイの冷静さを奪うに等しいものだった。

「殺して……楽にして……」
 
 ブチッと頭の中で何かが切れた音がする。

 ……気づけば男二人は血まみれで左右に転がっていた。危なかった、ぎりぎり殺してはいないようだ。

「う、……っ」
「シェリ!!」

 すぐさまシェリールに駆け寄ると、犯されてはいないようだが酷い有様だった。
 服は破られ素肌が晒されている。強く押さえられていた腕も痣になっており、華奢な身体が折れていないか心配だ。
 
 殴られた痕跡のある頬は赤く腫れていて痛々しい。髪はぼさぼさに絡み、目尻を涙が伝っている。ようやくしっかりと目が合い、口が小さく「ルイ……」と動く。
 ルイは気づけば、その身体を掻き抱いていた。

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