62 / 71
62.ルイの女神
「取り囲め。一人も逃がすな!」
ルイは逸る気持ちをひた隠し、仲間たちに指示を出した。
今回の作戦はラテーヌ騎士団だけでなく、ハルシュタット王国も重要視しているのものだ。関係者を残らず捕縛し、被害者を無事に保護する必要がある。
ここには盗賊団と、ミュンジング王国からやってきた奴隷商が揃っている。諸悪の根源を捕まえなければ問題は解決しないため、ルイたちは近くまで来ていたにもかかわらず奴隷商がやってくるまで動けなかった。
悲鳴などが聞こえたらなりふり構わず突入していたと思うが、黙って待っているだけの時間は拷問のようだった。
しかし、一隊長としてルイを外さずにいてくれた上司に報いなければならない。作戦の成功はすなわち、シェリールを救い出すことにも繋がる。ルイは自身も戦いながら周囲に目を走らせていた。
奴隷商側の護衛と盗賊団はそれぞれ腕に覚えのある男ばかりだ。常に訓練している騎士のほうが技術は上であっても、油断すれば足元を掬われかねない。必ず一対複数で対応するように指示してある。
「被害者の保護、完了しました!」
「よし! ……いや待て、本当に全員か?」
同時に動いていた被害者保護班から報告がある。安心しかけて、違和感に気づく。
ルイは彼らから少し離れたところにいた。日の出前の薄暗闇の中で、保護されたオメガたちが身を寄せ合っている。
だが夜でも月光のごとく輝く白金の髪は見当たらない。確か五人だったはずだが、四人しかいない。ここまで辿る目印となった物のなかに、シェリールの持ち物もあった。
現場は圧倒的人数で制圧が完了しようとしていたけれど、ルイの耳の奥では警鐘が鳴り響いていた。彼らのいた小屋の扉は閉まっているが、室内はまだ明るい。
単独行動はよくないと分かっていたものの、足は既に小屋の方へと向いていた。
(シェリ、そこにいるのか?)
ルイは音を立てずに扉を少し開け、中の様子を伺おうとした。――その直後だった。視覚情報よりも先に気づいた身体が動く。
甘い花のような香りが鼻腔に届いた瞬間飛び込めば、床に引き倒されたシェリールに二人の男が覆いかぶさっているところだった。
涙に濡れた目が虚ろにこちらを向く。微かに聞こえた呟きは、ルイの冷静さを奪うに等しいものだった。
「殺して……楽にして……」
ブチッと頭の中で何かが切れた音がする。
……気づけば男二人は血まみれで左右に転がっていた。危なかった、ぎりぎり殺してはいないようだ。
「う、……っ」
「シェリ!!」
すぐさまシェリールに駆け寄ると、犯されてはいないようだが酷い有様だった。
服は破られ素肌が晒されている。強く押さえられていた腕も痣になっており、華奢な身体が折れていないか心配だ。
殴られた痕跡のある頬は赤く腫れていて痛々しい。髪はぼさぼさに絡み、目尻を涙が伝っている。ようやくしっかりと目が合い、口が小さく「ルイ……」と動く。
ルイは気づけば、その身体を掻き抱いていた。
あなたにおすすめの小説
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
【完結/番外編準備中】
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
----------
追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!!
完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。
詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
愛しい番に愛されたいオメガなボクの奮闘記
天田れおぽん
BL
ボク、アイリス・ロックハートは愛しい番であるオズワルドと出会った。
だけどオズワルドには初恋の人がいる。
でもボクは負けない。
ボクは愛しいオズワルドの唯一になるため、番のオメガであることに甘えることなく頑張るんだっ!
※「可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない」のオズワルド君の番の物語です。
※他サイトでも連載中
2026/01/28 第22話をちょっとだけ書き足しました。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。