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貧乏貴族は婿入りしたい!
2.
「疲れたか?休憩しよう」
「え、あっ、大丈夫!大丈夫ですから!」
いいと言ったのに、マウォルス様は馬車を止めてしまった。早く目的地に到着したくて、必要以上に馬車を止めないようにしてたんだけどな……確かに疲れてるけど。
外に出ると清涼な風が吹き抜けた。そこはなだらかな丘の上で、眼下には今夜泊まる予定の街が見えていた。早く着いて、ひとりになりたい……。
おれは知らずのうちに浮かんでいた首筋の汗を風が冷やすのを感じながら、横目でマウォルス様を見つめた。
(青騎士団の副団長様がこんなところで油売ってて、いいわけ?)
王国の騎士団には、白・青・緑の三種類ある。ざっくり言えば白は近衛騎士で王宮に勤め、青は街を守る騎士、緑は国境を守る騎士だ。青の騎士団が一番大所帯で、家柄と実力が揃っていないと役職は手に入れられないという。
二十代後半に見えるからおれのひと回りは歳上だろうか、それでも副団長となるには若いんじゃないかと思う。見た目通り、強いってことかな。剣なんて持ったこともないおれとは大違いだ。
そんな重要な立場の人が、こんなとこで何してんだろ……妹が大事すぎて、結婚相手を見定めに来たとか?
「暑そうだな、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
馬車の窓から見える景色はすべてが目新しく、飽きなかった。おれは成人を迎える十八の歳までほとんど領地を出たことがなくて、かなり世間知らずだという自覚はある。
家庭教師なんてものも当然いなくて、家族や使用人、そして先代が集めた書物が先生代わりだった。周囲にはベータしかいなくて、おれと同じオメガや、アルファにも会ったことがない。
おれを婿に迎えてくれるアルファはどんな人なんだろう。流れゆく景色をぼうっと見つめながら、まだ見ぬ伯爵令嬢ディアーナ様に思いを馳せた。
――なにかがおかしい。
緊張感に意識を取られていたけど、食欲がなくなり身体の芯が疼くような感覚を得はじめてやっと、発情期前の状態と似通っていることに気づいた。
けれど発情期はひと月前に終わったばかりで、次の予定はまだまだ先のはずだ。――どうして??
宿に到着する頃には、もう誤魔化しきれないほどの欲情を感じていた。
早くひとりでシたい……!でも、これまでは自室に籠城しても洗濯や食事の世話は家族や使用人がしてくれていたから、自分の家以外で発情を迎えるときにどうしたらいいのかわからない。
ほんとうは婿入りしたあとに発情期を迎え、そのときにディアーナ様と番になるつもりだったのだ。おれが勝手に立てた予定だけど。
どうしよう。おれは潤んできた葡萄色の目で正面を見上げた。
「マウォルス様……おれ、発情期が来てしまったみたいで……ど、どうしたらいいんでしょう」
「……」
――正面に姿勢よく座っているはずの男は、前屈みになって目を血走らせ、眉間に深い皺を刻んでいた。
うぇ!?怒らせちゃった?すっごい怖い顔してるんだけど!!
おれが思わず慄いて「ひぇっ」と声を上げると、マウォルス様はぎゅっとその碧い目を閉じ絞り出すような声で告げた。
「……私が世話しよう」
「わ、ありがとうございます!じゃ、あの、宿の部屋まで運んでもらってもいいですか?もう歩けそうになくて」
「…………わかった」
なんだ、見た目は怖いけど良い人でよかった~!
おれは発情期が始まったばかりのころ急に動けなくなったりすると、生前の父に部屋まで運んでもらったことを思い出していた。父上より何倍も体格のいいマウォルス様なら、それくらい朝飯前だろう。
マウォルス様は相変わらず険しい顔をしながら、俺を大事そうに横抱きに抱え上げ馬車を降りた。
(ふわぁ、おれも成人男子なのにさすが騎士様。安定感がすごいや……)
――思考力の弱ってきた頭でのんきに感心していたおれは、彼の言う『世話』が自分の思っている世話と全く違うなんて気づきもしなかった。
さらには馬車の中はオメガであるおれのフェロモンで満たされていたことにも……
「え、あっ、大丈夫!大丈夫ですから!」
いいと言ったのに、マウォルス様は馬車を止めてしまった。早く目的地に到着したくて、必要以上に馬車を止めないようにしてたんだけどな……確かに疲れてるけど。
外に出ると清涼な風が吹き抜けた。そこはなだらかな丘の上で、眼下には今夜泊まる予定の街が見えていた。早く着いて、ひとりになりたい……。
おれは知らずのうちに浮かんでいた首筋の汗を風が冷やすのを感じながら、横目でマウォルス様を見つめた。
(青騎士団の副団長様がこんなところで油売ってて、いいわけ?)
王国の騎士団には、白・青・緑の三種類ある。ざっくり言えば白は近衛騎士で王宮に勤め、青は街を守る騎士、緑は国境を守る騎士だ。青の騎士団が一番大所帯で、家柄と実力が揃っていないと役職は手に入れられないという。
二十代後半に見えるからおれのひと回りは歳上だろうか、それでも副団長となるには若いんじゃないかと思う。見た目通り、強いってことかな。剣なんて持ったこともないおれとは大違いだ。
そんな重要な立場の人が、こんなとこで何してんだろ……妹が大事すぎて、結婚相手を見定めに来たとか?
「暑そうだな、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
馬車の窓から見える景色はすべてが目新しく、飽きなかった。おれは成人を迎える十八の歳までほとんど領地を出たことがなくて、かなり世間知らずだという自覚はある。
家庭教師なんてものも当然いなくて、家族や使用人、そして先代が集めた書物が先生代わりだった。周囲にはベータしかいなくて、おれと同じオメガや、アルファにも会ったことがない。
おれを婿に迎えてくれるアルファはどんな人なんだろう。流れゆく景色をぼうっと見つめながら、まだ見ぬ伯爵令嬢ディアーナ様に思いを馳せた。
――なにかがおかしい。
緊張感に意識を取られていたけど、食欲がなくなり身体の芯が疼くような感覚を得はじめてやっと、発情期前の状態と似通っていることに気づいた。
けれど発情期はひと月前に終わったばかりで、次の予定はまだまだ先のはずだ。――どうして??
宿に到着する頃には、もう誤魔化しきれないほどの欲情を感じていた。
早くひとりでシたい……!でも、これまでは自室に籠城しても洗濯や食事の世話は家族や使用人がしてくれていたから、自分の家以外で発情を迎えるときにどうしたらいいのかわからない。
ほんとうは婿入りしたあとに発情期を迎え、そのときにディアーナ様と番になるつもりだったのだ。おれが勝手に立てた予定だけど。
どうしよう。おれは潤んできた葡萄色の目で正面を見上げた。
「マウォルス様……おれ、発情期が来てしまったみたいで……ど、どうしたらいいんでしょう」
「……」
――正面に姿勢よく座っているはずの男は、前屈みになって目を血走らせ、眉間に深い皺を刻んでいた。
うぇ!?怒らせちゃった?すっごい怖い顔してるんだけど!!
おれが思わず慄いて「ひぇっ」と声を上げると、マウォルス様はぎゅっとその碧い目を閉じ絞り出すような声で告げた。
「……私が世話しよう」
「わ、ありがとうございます!じゃ、あの、宿の部屋まで運んでもらってもいいですか?もう歩けそうになくて」
「…………わかった」
なんだ、見た目は怖いけど良い人でよかった~!
おれは発情期が始まったばかりのころ急に動けなくなったりすると、生前の父に部屋まで運んでもらったことを思い出していた。父上より何倍も体格のいいマウォルス様なら、それくらい朝飯前だろう。
マウォルス様は相変わらず険しい顔をしながら、俺を大事そうに横抱きに抱え上げ馬車を降りた。
(ふわぁ、おれも成人男子なのにさすが騎士様。安定感がすごいや……)
――思考力の弱ってきた頭でのんきに感心していたおれは、彼の言う『世話』が自分の思っている世話と全く違うなんて気づきもしなかった。
さらには馬車の中はオメガであるおれのフェロモンで満たされていたことにも……
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