アルファの僕が、最強のベータにお尻を狙われている!

おもちDX

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「今日は何もなさそうだな」
「うん、まー……多分ね」

 もう夜の担当騎士に交代する時間だった。この数日間は白騎士団も総出になって、交代制で警護にあたっている。
 昨日の朝まで僕を抱き潰していたテルルも真面目な顔で業務をこなし、さすがに無駄口は叩かなかった。
 
 まぁ内心は、どう思ってるのか知らないけどさー。僕は……あの夜の満足感がすごすぎて、もうテルルじゃないと満足にイケない身体になってしまったかもしれない、なんて馬鹿みたいな不安を抱えていた。

 昨日は事を終えたテルルを家から追い出し、ほぼ寝たきりで身体の回復に努めた。おかげで仕事に支障はきたしていないが、テルルがちらちらと僕の方を見ていることには気づいていた。
 
 ふたりで詰所に戻ったとたん、「大丈夫か?」と気遣わしげに声を掛けてくる。僕はそれを無視して腰元からロングソードを外す。それから騎士服に付けていたマントや飾緒を外し、脱いでいく。近衛騎士の特徴である装飾の多い服は、防具ほどの守りはないくせに重い。
 
 普段着に着替えてふぅ、と息をついてから僕はテルルに向き直った。

「大丈夫だから。過剰に心配しないでくれる? 僕がアルファだってこと、わかってるでしょ」
「いまは二次性とか、関係ないだろ……」
「……うん。昨日、じゃなかった。一昨日は送ってくれてありがと。あと、アレも……テルルがそんなこと、言いふらすような人じゃないって、わかってるから」

 ずるいと思うけど、テルルの性格を分かっている僕はにっこりと笑って釘を刺した。
 彼は真面目で、他人の弱みを握って弄ぶような人間じゃない。そんなの、生まれる前から見てきた僕に分からないはずがなかった。
 
 テルルが悔しそうに顔をくしゃりと歪める。早く着替えるよう促して、僕は先に詰所を出た。
 いまは厳戒態勢のため、王宮内を一人で行動することは禁止されている。門をくぐるまではテルルと二人行動なのだ。
 
 そう待たずしてテルルが出てきたとき、僕はハッと顔を上げた。突如、強い警戒心によって全身を支配される。
 これって……!

「なぁ、アウローラ。一度ちゃんと……」
「! まって」

 僕にはもう侵入者が見えていた。どうやって入り込んだのかなんて今考えても仕方ない。
 ショートソードを武器に掲げた巨漢の男を相手に、僕は背中と詰所の扉の間にテルルを閉じ込めた。

「ッおい!」
「お前が予言のアウローラだな! 死ねぇーーー!」

 戦闘の心得がなさそうな動きだった。僕は相手が肉薄する直前に足を一歩前に踏み出し、男が驚いて無防備になった瞬間、手首を叩き武器を落とさせる。
 カラーン! と金属が石畳にぶつかって高い音を立てた。
 
 僕はその勢いのまま体当たりしてきた男を受け止め、テルルにぶつからないよう角度をつけて一緒に転がった。
 自分の倍ほどもありそうな体重がドシンと伸し掛かったまま倒れ込んだせいで、ミシッと骨が音を立てた気がする。
 
 呻きながらも男の確保に身体を動かそうとしたところで、その重みはテルルによって即座に取り払われた。
 あっという間に拘束し、物音に気づいた仲間が駆け寄ってくる。現場は一時騒然としたが、単独の犯行だったことがすぐに分かって僕たちは帰宅を許可された。

 男は五年前の残党で、僕がいるせいで同盟の邪魔もできない、なんて短絡的思考で犯行に及んだらしい。
 僕の噂はそんなところにまで届いてるのか……そんな便利な能力ってわけでもないのに、とんだとばっちりだ。

 はぁ、疲れた。とにかく早く帰って休みたい。
 そんな一心でさっそく家へ向かおうとしたのだが、テルルに止められてしまった。

「医務室に向かうぞ」
「えー? 大丈夫だって」
「駄目だ。ちゃんと手当てを受けてほしい。……俺のためだと思って」

 僕の手首を握って思い詰めたような表情をするから、つい言うことを聞いてしまった。こういうときのため、王宮の医務室には必ず宿直の者がいる。

「ヒビが入ってますね」
「ひ、ひび……?」
「骨が折れてるってことです。しっかり固定して、数日は安静にすること。日常生活に戻れても、剣を振るうのはしばらく禁止させてもらいますからね」

 えー……まじですか。確かに着替えるときとか痛かったけど、強い痛みは男を受け止めた瞬間だけだったから、まさか折れてるなんて思いもしなかった。
 僕は茫然としたまま湿布と女性のコルセットみたいなものを巻かれて、「それだけ元気そうなら、帰っていいですよ」と医務室を追い出された。
 
 団長にも伝えておくと言っていたから、僕はしばらくお荷物になりそうだ。
 ……ため息をこらえる。なぜか僕よりも青い顔をしたテルルが、後ろからついてきているからだ。

「ねー。なに落ち込んでるの? 僕はこれでも感謝してるんだけど」
「だって……俺がすぐ気づいてちゃんと対処してれば」
「僕は勘がいいから気づいただけでしょ。あの状況じゃあれが最善。僕一人だったらあの体重に潰れちゃってたし、テルルがいたおかげですぐに確保できたんだって」
「は~っ格好悪かっこわりい。なにが最強のベータだよ……な」

 僕のここでの存在意義なんて勘の良さくらいだし、王族や貴族に被害が及ばなくてよかったものの、理想はもっと早く気づいて、怪我なんてせずに対処することだった。明らかに僕の失態だ。
 気をつけてたけど……たぶん、今日の僕はいつもより上の空だったのだ。この情けない顔を晒している年下の男によって、身体に刻みつけられた感覚は……強烈すぎた。

 しょぼしょぼするテルルを振り返って、サファイヤブルーの瞳を見据えた。何にも遮られず月の光があたると、銀白色の髪も透き通って月の化身が下りてきたように見える。
 久しぶりに、幼い頃の面影が見えた。

「あのさぁ、テルルはまだこっちに配属されたばかりでしょ? 近衛は気をつける所が特殊だし……仕事も終わってる時間だった」
「……あぁ」
「勝手につけられた肩書きに、君が振り回されちゃ駄目だよ。充分強いし、こっちは助かってるんだから。コレが治るまでは、僕のフォローもお願いね」

 説教なんて、らしくない。恥ずかしくなった僕は、そそくさと背を向け足早に帰ろうとした。しかし、その一歩を踏み出すことができなかった。
 ――テルルが背中からふわっと抱きしめてきたから。

「て、テルル。どうしたの」
「好きだ」
「え、えぇ~~……」
「おい、露骨に嫌そうな声を出すな」
「だって」

 だって……想像したこともない! え、なんなの? なにがどうしてこうなった??
 僕よりも大きい身体にギュッと包まれて、ポカポカした。怪我に響かないようにか、これ以上ないくらい優しく抱きしめられているのがくすぐったい。そんな、まるで大事なものみたいに……

「む、無理だよ考えたことないもん」
「俺と付き合えば、ローラの変な趣味にいつでも付き合ってやるぞ?」
「えっほんと? ……ってか『変な』って言うなノリノリだったくせに。ハッもしかして、僕の身体に夢中になっちゃった……?」

 肩に乗っている顔を振り返ると、テルルは春先によく出没する変態に出くわしたときのような目をしていた。あいつらはなぜコートの下の裸を見せたがるんだろうか。
 結局その話はうやむやになり、僕はそのあと何ヶ月も口説かれてはごまかしてを繰り返した。




 
 怪我が治って再び性の高みを目指した僕は惨敗を喫し、悶々とした日々を送ることになる。
 そんなとき、テルルがタイミング良く最高のシチュエーションで迫ってきて、僕は陥落寸前だった。

「アウローラ、お前に付き合えるのは俺しかいないだろ?」
 
 ――最強のベータを躱すのは至難の業だ。





――――――――――





お読みいただきありがとうございます!
本作はここまでの短編の予定でしたが、ちゃんとこの二人をくっつけたくなったので続きます。
次回は攻めのテルル視点から始まります。
楽しんでいただけますように♡
感想 7

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