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8.年上のアルファを俺だけのものにする方法
あーーー、くそっ。
今日もアウローラが捕まらなくて舌打ちする。
同じ騎士団内でも、配備される場所が違えば会う機会はあまりない。それくらい分かっていたが……ひと月も一緒にいたせいで俺は贅沢になってしまっていた。
俺の前でだけ感情が剥き出しになるアウローラを見たいし、あわよくば触れたい。相変わらず近づくと怒るけど、怯えなくなっただけいい。
ほんの少しずつ傍にいることを許されていく感覚は、思いのほか幸福で……気づけば夢中になっていた。
教育期間が終わりアウローラの怪我が治った途端、俺は中央に配置換えされてしまった。前に歓迎会でも酔っ払って褒め倒してくれたが、俺の知らないところでも俺を優秀だと、もう教えることはないと言ってくれていたらしい。
でも俺は、自分がそこまで優秀なんかじゃないことを知っている。体技と剣の腕はそれなりだが、単純にアウローラの教え方が上手いのだ。
勘が良いというのは知っている。けれどそれがなくともアウローラは人をよく見ていた。誰がどこの課に所属しているとか、いつもどこで休憩しているとかそんなことまで把握していて、いつもと違う行動をしているとすぐに気づく。
まぁ、たいていは特殊な妄想のためなんだろう。勤務中は鉄の仮面を被っていても、休憩の時なんかは顔が緩んでいるし。
どんな理由があれど、「あの人は要注意だ。前にこんなことがあって……」「ここの通路はあの人しか使わないから、他の人がいたら侵入者だと思っていい」などエピソード付きで事細かに教えられれば覚えやすい。
明確な敵意を持って相手が向かってくる国境警備とはまるで違っていて、アウローラ独自の見方は確実に、王宮の治安維持に役立っていた。
◇
「そうなんだよ。あいつは人見知りだけど、指導者としてはかなり優秀なんだよなぁ」
「今までも新人をつけたことがあったんですか?」
今はソル団長と共に王族の警護を担っている。王子が家庭教師と勉強をしている部屋の前で直立不動の姿勢を保ちながら、団長からアウローラの教育についての印象を訊かれていた。
俺が素直に答えて聞き返すと、視線だけ寄越していた団長がはぁ~っとため息をついた。
「そりゃ、あるさ。苦手なんて仕事の言い訳にならないからな。だがなぁ……アウローラは教えることだけじゃなく、褒めるのも上手いんだよ」
「あー……」
「身に覚えあるよな? あいつは観察力があるし性格も善良だから、無意識に相手が言われ慣れていないところを褒めるんだ。みんなやる気倍増ってわけだ」
それは良いことだろう。なぜ団長が残念そうにしているのか分からず、俺は首を傾げる。
「惚れるんだよ、アウローラに」
「は……?」
思わず口を開けてポカンとした顔になってしまったが、心の中では激しく納得して……羞恥に身悶えてしまった。何人が餌食になったのかは知らないが、俺はその他大勢の新人どもと同じでしかない。
心の奥底で気にしていたことを、優しく掬い上げて撫でられたようなあの擽ったさ。しかもアウローラは美人で、どことなく色気があるのだ。
男気があって、体格もいいのに滲み出る色気は、十中八九あの趣味のせいだろうな……
「まぁでも、あいつは誰も寄せ付けないから。指導が終わって物理的に離せばみんな目が覚める、っつーか諦めるんだけどな。
お前みたいな一人前でさえ短期間で顔つきがしっかりしたんだ。やっぱどんどん新人つけてくか~」
「、えっ! それは……どうかと」
「……テルル、お前もか!」
気まずげに目を逸らした俺を見て、ソル団長は肯定と受けとったはずだ。これまで何人もの若人に良いお相手を紹介してきたという団長は、俺にもいいやつを紹介してやるからやめておけ、と言うだろう。
近衛は特に、団員がパートナーを迎えることを推奨している。
しかし……団長はニヤっと口角を上げて、「頑張れよ」と背中を押してくれたのだった。
王族にはアルファが多く、それに比例して婿入りや嫁入りしてくるオメガも多い。番をひときわ大切にする習性は王族であっても変わらずで、オメガの身辺警護にまずアルファは置かれない。たとえ番になっていたとしても、心配になるものらしい。
したがって長年近衛として勤務するベータや、僅かながら増えてきたオメガの騎士が身辺警護を担当することになる。俺もいずれはオメガの王族につかせるため、白騎士団へ呼ばれたのだ。
「王太子妃殿下は成人前に嫁入りしてきたのでまだ幼く、怖がりなので新しい騎士は寄せ付けません。テルルもまずは遠くから顔を覚えてもらいましょう」
翌日、王太子妃の警護担当に呼ばれた。「オメガなんです」と名乗ったネリオー先輩は、今後の警護計画を説明していく。
こんな王宮の奥にまで外部から侵入者が来る可能性は低いが、内部の者が良からぬ企みをすることもある。番がいてもオメガの発情期は強烈な色香を発するし、この人は絶対に大丈夫、なんて油断は禁物ということだ。
また火事などの災害も起きないとは言い切れない。秘密の通路なんてものもあるらしいが、俺たちも王族の避難経路を常に考えながら行動することが大切だ。
淀みなく説明を続けるオメガの騎士は、少しだけ小柄なものの隙のない雰囲気を纏っていた。
俺の母親もめちゃくちゃ強いからなぁ。この人も間違いなく騎士らしい強さを持っているだろう。
ネリオー先輩と、王族が公務で外出する際のルートを確認して歩いていると、職務中のアウローラに出会った。配置換えしてからは見るのも初めてで、思わず気になって視線を送ってしまう。
一瞬だけ目が合ったように見えたアウローラは、すぐにまっすぐと前を向き、そのまま視線が合うことはなかった。
もうすぐ交代の時間だ。俺も予定ではアウローラと変わらない時間に退勤できるはずで、今日こそ帰る前に捕まえられないかと頭の中で画策する。
逃げることに関してもアウローラの能力はピカイチで、本気で追いかけないとあっという間に姿を眩ましてしまうのだ。
「テルル、聞いてますか? ……もう交代ですね、ここで終わりにしましょうか。デートでもありそうな顔をしているし」
「いや! そんな訳では……」
ガサツな奴らばかりだった緑騎士団と違って、白の先輩たちは他人の表情を読むのが上手すぎないか……?
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