アルファの僕が、最強のベータにお尻を狙われている!

おもちDX

文字の大きさ
8 / 27

8.年上のアルファを俺だけのものにする方法

しおりを挟む



 あーーー、くそっ。
 
 今日もアウローラが捕まらなくて舌打ちする。
 同じ騎士団内でも、配備される場所が違えば会う機会はあまりない。それくらい分かっていたが……ひと月も一緒にいたせいで俺は贅沢になってしまっていた。

 俺の前でだけ感情が剥き出しになるアウローラを見たいし、あわよくば触れたい。相変わらず近づくと怒るけど、怯えなくなっただけいい。
 ほんの少しずつ傍にいることを許されていく感覚は、思いのほか幸福で……気づけば夢中になっていた。
 
 教育期間が終わりアウローラの怪我が治った途端、俺は中央に配置換えされてしまった。前に歓迎会でも酔っ払って褒め倒してくれたが、俺の知らないところでも俺を優秀だと、もう教えることはないと言ってくれていたらしい。
 でも俺は、自分がそこまで優秀なんかじゃないことを知っている。体技と剣の腕はそれなりだが、単純にアウローラの教え方が上手いのだ。

 勘が良いというのは知っている。けれどそれがなくともアウローラは人をよく見ていた。誰がどこの課に所属しているとか、いつもどこで休憩しているとかそんなことまで把握していて、いつもと違う行動をしているとすぐに気づく。
 まぁ、たいていは特殊な妄想のためなんだろう。勤務中は鉄の仮面を被っていても、休憩の時なんかは顔が緩んでいるし。

 どんな理由があれど、「あの人は要注意だ。前にこんなことがあって……」「ここの通路はあの人しか使わないから、他の人がいたら侵入者だと思っていい」などエピソード付きで事細かに教えられれば覚えやすい。
 明確な敵意を持って相手が向かってくる国境警備とはまるで違っていて、アウローラ独自の見方は確実に、王宮の治安維持に役立っていた。


 ◇

 
「そうなんだよ。あいつは人見知りだけど、指導者としてはかなり優秀なんだよなぁ」
「今までも新人をつけたことがあったんですか?」

 今はソル団長と共に王族の警護を担っている。王子が家庭教師と勉強をしている部屋の前で直立不動の姿勢を保ちながら、団長からアウローラの教育についての印象を訊かれていた。
 俺が素直に答えて聞き返すと、視線だけ寄越していた団長がはぁ~っとため息をついた。

「そりゃ、あるさ。苦手なんて仕事の言い訳にならないからな。だがなぁ……アウローラは教えることだけじゃなく、褒めるのも上手いんだよ」
「あー……」
「身に覚えあるよな? あいつは観察力があるし性格も善良だから、無意識に相手が言われ慣れていないところを褒めるんだ。みんなやる気倍増ってわけだ」

 それは良いことだろう。なぜ団長が残念そうにしているのか分からず、俺は首を傾げる。

「惚れるんだよ、アウローラに」
「は……?」

 思わず口を開けてポカンとした顔になってしまったが、心の中では激しく納得して……羞恥に身悶えてしまった。何人が餌食になったのかは知らないが、俺はその他大勢の新人どもと同じでしかない。
 
 心の奥底で気にしていたことを、優しく掬い上げて撫でられたようなあの擽ったさ。しかもアウローラは美人で、どことなく色気があるのだ。
 男気があって、体格もいいのに滲み出る色気は、十中八九趣味のせいだろうな……

「まぁでも、あいつは誰も寄せ付けないから。指導が終わって物理的に離せばみんな目が覚める、っつーか諦めるんだけどな。
 お前みたいな一人前でさえ短期間で顔つきがしっかりしたんだ。やっぱどんどん新人つけてくか~」
「、えっ! それは……どうかと」
「……テルル、お前もか!」

 気まずげに目を逸らした俺を見て、ソル団長は肯定と受けとったはずだ。これまで何人もの若人に良いお相手を紹介してきたという団長は、俺にもいいやつを紹介してやるからやめておけ、と言うだろう。
 近衛は特に、団員がパートナーを迎えることを推奨している。

 しかし……団長はニヤっと口角を上げて、「頑張れよ」と背中を押してくれたのだった。



 王族にはアルファが多く、それに比例して婿入りや嫁入りしてくるオメガも多い。番をひときわ大切にする習性は王族であっても変わらずで、オメガの身辺警護にまずアルファは置かれない。たとえ番になっていたとしても、心配になるものらしい。

 したがって長年近衛として勤務するベータや、僅かながら増えてきたオメガの騎士が身辺警護を担当することになる。俺もいずれはオメガの王族につかせるため、白騎士団へ呼ばれたのだ。
 
「王太子妃殿下は成人前に嫁入りしてきたのでまだ幼く、怖がりなので新しい騎士は寄せ付けません。テルルもまずは遠くから顔を覚えてもらいましょう」

 翌日、王太子妃の警護担当に呼ばれた。「オメガなんです」と名乗ったネリオー先輩は、今後の警護計画を説明していく。

 こんな王宮の奥にまで外部から侵入者が来る可能性は低いが、内部の者が良からぬ企みをすることもある。番がいてもオメガの発情期は強烈な色香を発するし、この人は絶対に大丈夫、なんて油断は禁物ということだ。

 また火事などの災害も起きないとは言い切れない。秘密の通路なんてものもあるらしいが、俺たちも王族の避難経路を常に考えながら行動することが大切だ。
 淀みなく説明を続けるオメガの騎士は、少しだけ小柄なものの隙のない雰囲気を纏っていた。
 
 俺の母親もめちゃくちゃ強いからなぁ。この人も間違いなく騎士らしい強さを持っているだろう。

 ネリオー先輩と、王族が公務で外出する際のルートを確認して歩いていると、職務中のアウローラに出会った。配置換えしてからは見るのも初めてで、思わず気になって視線を送ってしまう。
 一瞬だけ目が合ったように見えたアウローラは、すぐにまっすぐと前を向き、そのまま視線が合うことはなかった。

 もうすぐ交代の時間だ。俺も予定ではアウローラと変わらない時間に退勤できるはずで、今日こそ帰る前に捕まえられないかと頭の中で画策する。
 逃げることに関してもアウローラの能力はピカイチで、本気で追いかけないとあっという間に姿を眩ましてしまうのだ。
 
「テルル、聞いてますか? ……もう交代ですね、ここで終わりにしましょうか。デートでもありそうな顔をしているし」
「いや! そんな訳では……」

 ガサツな奴らばかりだった緑騎士団と違って、白の先輩たちは他人の表情を読むのが上手すぎないか……?


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...