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快晴の空の下、闘技場は熱気に包まれていた。楕円形の舞台に砂埃が舞い、準備として水が撒かれる。その場所を取り囲むように、階段状の客席が設けられていた。
「テルル、お前優勝候補なんだからな! 気張れよ!」
「青や緑のやつなんかに負けるな! 白騎士団だって……勝てるんだぁ~ウォォォ~!」
同僚や先輩たちにエールをもらいながら、防具を身に着けていく。この日ばかりは華美な近衛の騎士服ではなく実戦的なプレートアーマーが支給され、その重みに闘志が湧いた。
近衛で甲冑を身に着ける機会はほとんどないが、緑騎士団時代は有事の際、もっと重い甲冑を着て戦っていた。こちらへ異動してきたとき、自主的な鍛錬のために新人訓練用の甲冑を借りたいと言ったら、変な顔をされたっけ。
日頃から鍛錬を怠っていない俺は、それなりに上位に食い込める自信があった。剣術大会用の高級なプレートアーマーは想像以上に軽く、動きやすい。
とはいえ二十キロはあるはずだ。まぁ刃をつぶしたロングソードなら、叩き飛ばされることはあっても貫通することはあるまい。
隔年で開催される剣術大会は、若い騎士がこぞって参加する一大イベントだ。みんな、ただ優勝を目指すだけではない。
剣術大会を見に来た多くの観客――お目当ての女性や、男性――に自分の強さを、かっこいいところを見せるチャンスなのである。
しかし……白騎士団の者が優勝した前例はなかった。三騎士団のなかで最も規模が小さい上、実戦の機会が最も少ない。弱いわけじゃないが、求められている資質が違うのだ。アルファの騎士も少ないしな。
国内のあらゆる主要な街を警備する青騎士団はとにかく人数が多いし、国境警備に従事する緑騎士団は荒くれ者の強いやつらが集う。
そんな訳で、俺たちは決勝まで勝ち残ることさえ期待されていない。白の人気がない訳ではないが……
「て、テルル……大丈夫なの?」
「アウローラ! こんなところまで来てくれたのか」
同僚と入れ違いにして、俺の想い人が控室にまでやってきた。
剣術大会なんて見に行ったこともないと言っていたアウローラは、「お前の弟子だろ!」とソル団長に引っ張って連れてこられていた。……団長には感謝してもしきれない。
いつもの凛とした騎士らしさは鳴りを潜め、アウローラは眉を下げた不安げな顔で俺に声を掛けた。まるで本当に俺のことを心配しているみたいだ。
被りかけたヘルムを横に置き目の前に立つと、いつもよりアウローラが小さく見える。それは鉄が仕込まれた靴を俺が履いているからで、アウローラが俯いているからでもある。
あのヒート事故のあと、剣術大会の話を聞いた俺は毎日鍛錬に勤しんだ。それこそ、アウローラに声を掛ける暇もなかった。……偶然会っても相変わらず避けられてたし。
だからまさか、アウローラが自ら俺のところまで会いに来てくれるなんて、思いもしなかったのだ。これから戦う高揚感とはまた違った動きで、胸が高鳴る。
「胸がザワザワするんだ。君が強いのは分かってるけど、無理はしないでほしい」
「……心配してくれてるのか?」
「っ。そうだよ!」
ここは応援して欲しいところだったが、それでも嬉しい。ほんのりと頬を薔薇色に染めたアウローラとこのままどこかへしけ込んで、思い切り抱きしめたくなる。
でもそれは……今じゃない。
「もし、俺が優勝したら……」
「え、なにかの予兆っぽくて怖いんだけど」
「デートしてくれ」
驚いて顔を上げたアウローラの手を取り、その甲にキスを落とした。
観客の声で地面が揺れる。喧騒でなにも聞こえないかと思いきや、驚くほど自分の息遣いや相手の気合を入れる声、馬が土を踏み締める音までが鮮明に聞こえた。神経を研ぎ澄ませている証拠だ。
大会は勝ち残り式のトーナメントで、白と緑騎士団から五名ずつと、青から六名が出場できる。出場者は立候補が基本で、まず同騎士団内で席を争うところから始まる。
白騎士団は六名の騎士が立候補し、立候補者を見たあと一人が辞退して決定するという何とも平和な決まり方で驚いた。
俺も前回から立候補しているけど、緑のときは希望者が多すぎて、抽選で絞り込んでからの総当たり戦だった。おれは抽選で外れた。二度目のいまは運が巡ってきたということにしよう。
優勝者には気持ち程度の賞金が与えられるが、皆が求めているのは栄誉だ。事実、団長や副団長になる者は優勝経験者や上位三名に残った経験のあるものがほとんどだった。
優勝した者は次回以降剣術大会への出場は認められないため、常に新しい優勝者の座を賭けた戦いとなるのである。
俺の両親も優勝経験があるらしく、剣術大会の日が近づくと、父のメルキュールが目をキラキラさせて毎回語るのだ。
「あのときのユピテル団長には闘技場にいた全員が惚れたよ……」
「メルクも一発で優勝したじゃねぇか。俺が扱いてやったもんなぁ?」
「ユピー……! あなたのお陰です!」
父が母に心酔しているだけかと思いきや、母も父にベタ惚れなので、俺は「またやってるよ」といつも遠い目をしていた。
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