アルファの僕が、最強のベータにお尻を狙われている!

おもちDX

文字の大きさ
13 / 27

13.

しおりを挟む



 ドッと沸き起こった喝采を浴びながら、馬上から相手を見下ろす。落馬した相手が剣を落としたのだ。
 剣術大会は騎馬で戦う一騎打ちだ。剣術を競うものではあるが、乗馬の腕もかなり問われる。相手が降参するか、戦闘不能と審判が判断したとき、あるいは剣を落とした時点で勝利となる。

 互いにヘルムを外すと、さらに大きな歓声が聞こえた。女性の黄色い声が混じるのは、勝者の、また勇ましく戦った者の容姿がまみえる瞬間を心待ちにしていたからだろう。
 
 そして白騎士団の人気はなのだ。
 王宮の景観のためなのか王族のためなのかは分からないが、見目の整っている者が多いし、逆にむさ苦しく雄々しい体格の者は少ない。俺はどちらかというとこっち寄りなのだが、顔立ちや色合いは――歓声を聞く限り――合格らしい。
 
 これでもう二回勝ち上がったため、次は準決勝だ。そこで勝てば決勝、負けても三位決定戦となる。
 勝てたことによる高揚と、少しホッとした気持ちを抱きながら控室に向かって踵を返すと、観客席からよく通る声で名前を呼ばれた。

「テルル! さすが俺の子だ!!」
「うげっ。母さん……来てたのか」

 もちろん父さんも隣にいる。母を挟むようにアウローラも座っていた。階段状の客席中腹に座っている三人はかなり注目を浴びていて、特に騎士団関係者から母への熱視線がすごい。

 オメガという二次性を物ともせず団長に成り上がった母は、その強さだけでなく並外れたカリスマ性で、荒くれ者が多いと言われる緑騎士団の団長を長年努めた経歴がある。
 引退した今も伝説として語り継がれ、会ったことのない若い騎士でも憧れとして挙げるのを聞いたことがある。

 いまの一言で母の存在に気づいた人もいるようで、その一帯だけざわついている。
 アウローラは周囲の誰とも目を合わせないようにしながら、幼いころから懐いている母に引っ付き……まっすぐに俺を見つめていた。その顔はまだ心配そうに眉をひそめている。

 俺は「勝つから、見てろよ」という合図に二本の指を自分の目に向け、アウローラの目に向けた。そして余裕そうに見える表情で、笑った。
 今度こそ闘技場を後にする。母がぴゅうっと口笛を吹いて囃し立てるのが聞こえた。



 準決勝まで勝ち残ったのは、白騎士団からは俺ひとりだった。青からも一人、緑からは二人。すれ違いざまの一瞬で決着がつく試合もあったが、ここまで来ると力は拮抗し、見ごたえのある試合になる。
 前の試合は青騎士団の青年が勝利し、それでもいい試合を見せたふたりに盛大な拍手が送られた。

 いよいよ自分の出番だ。俺は籠手の下で手を握りしめて気合を入れる。
 さっき手袋越しに触ったアウローラの手を思い出していた。細い指だが、ところどころ硬くなった騎士の手だ。
 
 騎乗して指定の位置から向き合うと、一陣の風が闘技場に吹き下り、肩から羽織ったサーコートが靡いた。自分の所属する団の色だ。
 相手のサーコートは、緑。俺よりも大柄で体格のいい男だ。異動前に会ったことはないから、最近入ったやつだろう。
 ヘルムの隙間から見える相手の瞳が、挑発的に煌めいた。

 その時ばかりは観客も息を潜め、開始の合図を待つ。闘技場が静けさに包まれて、一瞬の後。
 審判の旗が大きく振り下ろされた。

 合図と同時に軍馬の横腹を蹴る。乗り手の意図を汲む優秀な馬は、砂埃を巻き上げて疾走した。
 身を低くして風の抵抗を殺していた俺は、すれ違いざまに体勢を戻してロングソードを振り下ろす。手に重い衝撃が走り高い金属音が鳴ったが、これくらいじゃ相手も剣を落とさない。
 
 すぐに体勢を整え、馬首を返して駆け戻る。たちまち激しい剣戟となった。
 刃金を打ち合わせるたびに衝撃音が鳴り響く。相手がブンッ、と横薙ぎに振るった剣を、身体を捻ってかわす。
 だがなんと相手は、返す太刀の勢いで俺の馬を狙ってきた。実戦ならまだしも、立派なルール違反である。

 慌てて手綱を引き距離をとる。一瞬の出来事に、殆どの観客はなにが起きたのか分かっていない。不運にも審判からは死角だったようだ。
 自分の親の叫び声が聞こえる気がする。だが周囲の様子を一旦切り離して、俺は目の前の敵に集中した。
 そう。悪意のある攻撃を向けてきた時点で、こいつはもう敵だ。

 次の一撃で決める。
 俺は目を眇め、剣を振りかざして疾走してくる相手を見据えた。周囲の音が遠くなる。俺と相手との空間だけが別時空に切り離されたような心地でもあった。
 
 右手で持つ剣に気合を込めて、一閃をふるう。銀色のきらめきが観客の目に残像を残した瞬間、手から剣を飛ばされ胸甲を激しく打たれた男が落馬した。
 
 観客が一斉に立ち上がり、快哉を叫び拍手を打ち鳴らす。
 素人目には早すぎて分からない部分も多かっただろうが、目を瞠るような試合だったことは間違いない。そんななか相手の緑騎士団の仲間だろうか、ブーイングまで聞こえてきたからぷっと笑ってしまった。
 
 審判が俺の勝利を宣言し、ヘルムを外す。籠もった熱気が闘技場の空気に溶けていく。
 ――しかし相手は起き上がったもののなかなかヘルムを取ろうとしなかった。
 
 この一戦を無事乗り越えたことで気が抜けていた俺は、そのままこちらの方へ突進するように歩いてきた男を見て感動の握手か、抱擁か? などと束の間考えた。

「おい、君。早くヘルムを取りなさい」
「テルル!!!」

 戸惑った審判の声や喧騒を突き抜けてアウローラの声が俺の耳に届き、ハッと我に返る。男が籠手に仕込んだ短剣で切りつけようとしている。
 それを間一髪で避け、反射的にアッパーカットで顎下から殴り上げた。

「ぐぁっ! ……」
 
 脳震盪を起こした男は、そのまま立っていられなくなり地面に崩れ落ちた。

「なんと卑怯な真似を……」
 
 呆れ果てた審判の声が聞こえたのも束の間、観客たちは敗者の卑劣な行動に激しいブーイングと野次を浴びせかけた。
 その声は想像以上に大きい。盛り上がりが最高潮だったからこそ、その反動は大きかったのである。
 
 わぁっという声が聞こえて振り向くと、俺に対してブーイングをしていた緑騎士団の奴らと周囲の騎士団関係者たちが取っ組み合いになっている。
 中心にいたのは……俺の両親、そしてアウローラだった。

「うわ……まじか!」


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。

亜沙美多郎
BL
 高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。  密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。  そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。  アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。  しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。  駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。  叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。  あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。 ⭐︎オメガバースの独自設定があります。

【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~

つきよの
BL
●ハッピーエンド● 「勇利先輩……?」  俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。  だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。 (どうして……)  声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。 「東谷……」  俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。  背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。  落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。  誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。  そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。 番になればラット化を抑えられる そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ しかし、アルファだと偽って生きていくには 関係を続けることが必要で…… そんな中、心から愛する人と出会うも 自分には噛み痕が…… 愛したいのに愛することは許されない 社会人オメガバース あの日から三年ぶりに会うアイツは… 敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

抹茶砂糖
BL
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 第13回BL大賞にエントリーしています。 応援いただけるとうれしいです! ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

処理中です...