15 / 27
15.
アウローラは元の席へと戻り、最後まで見届けてくれていた。いまは俺の両親と抱き合って背中を叩いたりと忙しそうだ。
さっきまで喧嘩していた奴らも周囲にいたお偉方に絞られたのか、決勝戦のあいだは大人しく座っていた。
わざわざ王都まで見に来ていたかつての同僚たちに囲まれて喋っていると、右ストレートで殴られていた男が帰り際、アウローラに話しかけるのが見えた。
往生際悪くまた文句をつけに来たのか? 反射的に彼らの方へ向かって足を踏み出す。
しかし男はアウローラの前で跪き、手を取って甲にキスの真似事をした。周りの男たちがぴゅうっと口笛を吹く。
「美しくも強い貴方に惚れました。どうかオレと……交際してください!」
「えぇ……やだよ」
アウローラは素気なく返したが、男は手を握ったままだ。にやにやと笑う母親の横を通り抜け、やいのやいのと囃し立てる男たちを押しのけ……俺はアウローラの腰を抱き寄せた。バシッと男の手をはたき落とす。
「悪いが、先約はこっちだ。俺は、デートを賭けて優勝したんだからな……とんだ高嶺の花だよ」
キャー! と、今度は婦女子の黄色い歓声が沸き起こった。ポカンとしている男から引き離すように、アウローラを連れて闘技場を出る。はじめは素直に付いてきていたが、闘技場を出た瞬間アウローラは俺の腕を腰から引き剥がした。
「ねぇ。僕、デートするって……頷いてないよね?」
「今日くらい、ご褒美くれたっていいじゃないか?」
「えっ……今日のつもり? この恰好で!?」
俺は明日休みを貰えるが、今日休みを取って応援に来ていた奴らはほとんどが明日出勤だ。それでも「祝い酒だ!」と騒いでいたけど……さっきので察してくれただろう。両親も明日会う約束をしているから問題ない。
いつもより少しだけ俺に絆されてくれているアウローラ。今日を逃したら、またスイスイと上手く逃げられる気がする。
「え。おしゃれして出かけてくれるつもりだったのか?」
「ちっ、違う!」
髪は結び直していたものの、俺の何倍もヨレヨレの恰好をして、手には包帯、頬には湿布が貼られている。ガーゼを当てられている額の傷は浅くて、跡が残らなさそうだったから良かった。
なかなか頷いてくれないアウローラに構わず、手を取って歩き出す。傷に響かないようなるべく優しく握ったが、嫌がっても離さない。あの男に手を握られていたのが、結構……むかついていたのだ。
途中の店でちょこちょこ食べ物をテイクアウトして酒も買って、アウローラの家に直行する。「なんで僕の家なんだよ……」と文句を言いながらも、外でのデートではなかったことに安心したらしい。
俺はいまだ寮住まいだから、アウローラの家に上げてもらえるだけで特別感を感じて、嬉しくなった。
リビングに足を進めたアウローラがハッと何かに気づいたような顔をして、寝室へと走って行く。
「そこから動かないでね!」
「……」
おおかた、アウローラのおもちゃが並べられているのだろう。一人暮らしが長くなると、家の中での緊張感はまるきり失ってしまうらしい。
今度はどんなモノを使って自分を苛めて楽しんでいるのか少し……すげぇ気になったが、見てしまったら自分が我慢できなくなる気がした。
戻ってきたアウローラは手慣れた様子でテーブルに皿を並べ、ゴブレットに酒を注いだ。いつも買ってきたものを家で食べていると言っていたから、これが日常なんだろう。
「誰か……呼ぶことあるのか? この家に」
「へ? なんで」
「どうして食器が二個ずつあるんだ」
「あー……」
アウローラは気まずげに指先で頬をかこうとして、そこに湿布が貼られていることに気づき、手を彷徨わせてから諦めたように答えた。
「洗うの、その、面倒くさくて……別にいいでしょ! ほら、座って!」
「ふっ。ははっ」
嫉妬で陰りそうになっていた心が、一瞬で晴れる。たしかに、使用人がいる家で育った者にとって、家事は面倒以外の何物でもないはずだ。食器を買い足して解決しようとする姿を想像して、面白くなってしまった。
「もう~! 一杯くらい付き合ってあげようと思ったけど、やっぱり水にしよ……」
「待て待て、悪かった。乾杯くらい酒でさせてくれ」
席を立ちかけたアウローラを慌てて引き留めて、ゴブレットを掲げる。
アウローラは先輩らしく祝いの言葉を紡いでくれた。
「テルル、今日は優勝おめでとう。君の勇敢さに」
「ありがとう。アウローラの勇敢さに」
俺のために怒ってくれたアウローラに、内心スタンディングオベーションを送りつつ、ゴブレットをカツンとぶつけた。
まだ窓の外は明るく夕飯には早い時間だけど、たまにはこんなのもいい。大会で勝利を収め、好きな人の家で好きな人と酒を飲みながら食事をしている。
西日がアウローラのローズブロンドを照らして、金色の光に透ける。食卓に蝋燭なんてなくても、最高にロマンチックなご褒美だ。
今日の対戦相手の話や久しぶりに会った同期の話をして、アウローラからは客席であった珍事を教えてもらった。少量の酒で酔う男の飲み物を途中から水にすり替えたが、アウローラはすぐに饒舌になった。トロンと赤くなった目元がかわいい。
「緑ってあんなやつばっかりなの?」
「あー……みんなじゃないけど、平民上がりの荒くれ者も多いしな。でも、強い」
「まぁ実力はあるんだろうね。ルールは守ってほしいけど、大会に出てない人も強そうだった」
「あいつは……よかったのか? お前に告白してきたやつ」
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜
鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。
そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。
あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。
そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。
「お前がずっと、好きだ」
甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。
※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています
人気者の幼馴染が俺の番
蒸しケーキ
BL
佐伯淳太は、中学生の時、自分がオメガだと判明するが、ある日幼馴染である成瀬恭弥はオメガが苦手という事実を耳にしてしまう。そこから淳太は恭弥と距離を置き始めるが、実は恭弥は淳太のことがずっと好きで、、、
※「二人で過ごす発情期の話」の二人が高校生のときのお話です。どちらから読んでも問題なくお読みいただけます。二人のことが書きたくなったのでだらだらと書いていきます。お付き合い頂けましたら幸いです。
【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない
ゆきりんご
BL
同性の幼馴染である美也に「僕とケッコンしよう」と告げた過去を持つ志悠。しかし小学生の時に「男が男を好きになるなんておかしい」と言われ、いじめにあう。美也に迷惑をかけないように距離を置くことにした。高校は別々になるように家から離れたところを選んだが、同じ高校に進学してしまった。それでもどうにか距離を置こうとする志悠だったが、美也の所属するバレーボール部のマネージャーになってしまう。
部員とマネージャーの、すれ違いじれじれラブ。
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。