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「あっ、あの! 剣術大会、見ました。わたし、男の人のことを素敵だって思ったのはあれが初めてで……」
「お嬢さんにそう言ってもらえるなんて嬉しいな、ありがとう」
ふ~~~ん……
今日は、テルルと勤務後に待ち合わせしていた。しばらく王都へ滞在するというテルルのご両親が、僕とも一緒に食事したいと誘ってくれたのだ。
先に着替えて詰所の外で待っていた僕は、遅れてやってきたテルルが王宮の女官に引き止められているところを見てしまった。女には縁のなかったはずの彼が慣れたように会話しているところを見ると、一度や二度の出来事ではなさそうだ。
「びっくりしたよ。俺のところに貴族から婚姻の申込みが来たんだぜ? あんな長い手紙、よく書くよなぁ。『息子さんをください』ってひとこと言えば済む話なのにさ」
テルルの母、ユピテルさんが面白そうに話している内容に、僕は顔を引き攣らせた。剣術大会の影響は僕が思っていたよりもずっと、大きいものだったらしい。
優勝したってことは、今後いずれかの騎士団の幹部候補に入るということを失念していた。平民出身だからこそ、優勝して栄誉を得るのはすごいことなのだ。
テルルが父親であるメルキュールさんの姓ヴィミナーレを名乗っているのは、次男だったメルキュールさんの父親が子爵位と男爵位を持っていたかららしい。だからメルキュールさんは男爵位を継いだようだけど、それは世襲できないから一応テルルは平民なのだ。まぁ、騎士になってしまえば幹部以外にあまり出身は関係ない。
対する僕もアヴェンティーノという姓を持っているけど、それこそ剣術大会や、叙任のときくらいしか名乗ることはないから知る人は少ないだろう。
「まさか受けてないよな?」
「当たり前だろ! 結婚したいにしろ婿に欲しいにしろ、本人がテルルと話をつけてもらわないと。俺たちは関与しないよ。俺も優勝したときは色んな誘いがあったなぁ……」
「えっ! ユピー、聞いてませんよ!?」
いちゃいちゃしだしたご両親から視線を外し、テルルはため息をついている。なんだかその横顔にモテる男の余裕みたいなものが見えて、僕はまたイラァッとした。
「お貴族様から女官まで、モテモテで大変だねぇ?」
「またヤキモチ焼きか?」
「ち、違うよ! でもなんか楽しそうに話してたから……ああいう女性が好きなのかなって…………」
「見てたのか。あれはアウローラを真似てたんだ。優しくしつつ絶対に踏み込ませないってやつ、お前得意だろ?」
え……そうなんだ。僕ってあんな感じだっけ?
女性の扱い方は、王宮で見かける貴族を観察した成果である。自分の配置のおかげで、ひと気のない場所で女性を口説く軽薄な人物ばかりだけど……そこに生来の人見知りが加わったせいでそんな風になっているのかもしれない。
ヤキモチじゃないって言ったのに、嬉しそうにニヤニヤと笑うテルルを睨みつける。会話が途切れたタイミングで、僕はふと疑問に思ったことをご両親に聞いてみた。
「お二人が交際するきっかけって何だったんですか?」
「聞いても無駄だ。昔からその話題だけは口を閉ざすんだよ」
テルルが横槍を入れてきたけど、ユピテルさんはテルルそっくりの表情でニヤニヤ笑って、横にいる夫を肘で小突いた。
恥ずかしいのか、メルキュールさんは顔を赤らめたかと思うと「……好きにしてください」と告げ、席を外してしまった。
「テルルももう20だ。立派な大人になったし、話してやる。まぁロマンチックな話でも、複雑な話でもねぇ。俺が急にヒートを起こしたときに――あいつの童貞を奪ったんだ」
「ど……」
なんだか聞き覚えのあるような内容に、気が遠くなる。つい最近、酔った挙げ句にテルルの童貞を奪ったのは誰だったっけ……
「あいつは元々俺のことが大好きだったからな~。責任取れって言われて、取ってやった。それに……体の相性も抜群だったしな!」
「せきにん……」
「あいしょう……」
相当酔っているらしいユピテルさんがワハハ! と笑いながらあけすけに話してくれる。
まぁここには男しかいないし、僕たちだって騎士団内でそういう話を聞くのには慣れている。だけど……その内容にテルルは頭を抱え、僕は苺みたいに真っ赤になってしまった。
さすが男前な元団長だ。なかなか大胆な馴れ初めに驚いたけど、首から下げているチェーンの先を服の上から弄んでいる顔は心底幸せそうだった。
幼い頃に見せてもらったことがある。あそこにはメルキュールさんから貰った宝石が繋がっているのだ。
ふたりは間違いなく、愛し合ってテルルという子どもを授かったんだと実感して、僕は目を潤ませた。
「ひっく……ぐす、素敵なエピソードですね……お二人が運命的に出会ったからこそ、テルルは……よかったねぇぇ~~!」
「おい、いつの間に酒飲んだんだ!」
「くくく……素敵な、だって。よかったなメルク。つーかお前らいつの間にそんな打ち解けたんだ?」
テルルの頭を撫でていると、メルキュールさんがさり気なく戻ってきて、夫を立たせる。そろそろお開きみたいだ。
ご両親は……関係性こそちょっと変わっているけど、ちゃんとしたオメガとアルファの番なんだよなぁ。子どもだって産めるし……そのことが、どうしてか急に羨ましくなってきて、僕はさらに泣いた。
「はぁ、アウローラ。送ってってやるから、帰るぞ」
「ローラちゃん、こんな酒に弱いなんて心配だなぁ。ていうかもう君ら、夫婦みたいじゃない。付き合ってるなら教えてよ」
「父さん……」
テルルが背中をこちらへ向けてしゃがむから、よいしょと僕は乗っかった。相変わらず大きくてあったかい背中に安心して、眠くなってくる。半分夢の中だった僕は、思っていることがそのまま口から漏れ出していた。
「つがいって……いいなぁ。僕もなれるかな…………むにゃむにゃ」
「……」
「ははは! まだまだみたいだな。頑張れよ、息子」
たぶんユピテルさんがテルルの肩をバシッと叩いて、その勢いで背中がゆらっと揺らめいた。脱力しきっていた僕はずり落ちそうになって、慌てて首に腕を回す。
「ぐぇっ」
「もう……しっかりしなよ……てるる」
笑い声がたくさん聞こえて、なんだか楽しい夜だったな、と思った。
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