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「ふわぁぁ」
「ローラ、寝不足なの?」
トゥーノ兄さんが誘ってくれて、久しぶりにふたりでランチをしている。場所は安定の庭園だ。
父と母が近いうちに王都邸を訪れるらしい。兄さんや僕が王都へ出るときも泣いて寂しがった母は、年に一度は必ず僕たちの顔を見に来る。王都はまもなく社交シーズンを迎えようとしていて、母はほとんど社交をしないものの、毎回父についてやってくるのだ。
「ダイアナが今年デビュタントでしょう? エスコートに、テルルをご指名なんだって」
「え゛。昔は僕と踊るんだって騒いでたのに……」
「女の子なんてそんなものだよ。テルルは今や有名人だし、自慢したいんじゃない?」
デビュタントの舞踏会は女性にとって一大事だろう。うちは三番目の僕までは男所帯だったから、上の妹のときも大騒ぎだったなぁ。末の妹ダイアナはさぞかし張り切っているだろう。
ダイアナとテルルの接点って、ほとんどなかったはずだけど。僕と違って社交的なふたりなら問題ない、か……
きっと僕も警備に駆り出されるであろう舞踏会で、大勢の人に見守られながら踊るふたりを想像して、なんだか胸がもやもやした。最近こんなのばっかりだな~。
「はぁ……」
「なんかあった? 最近きな臭い貴族の噂も聞くから、テルルみたいに強い騎士がついてくれるなら安心だと思うよ」
社交シーズンは国内の至るところから王都へ貴族が集う。人がたくさん集まれば、良からぬことを考える者も必ずいる。トラブルを事前に回避したり、早く収束させるのも僕たちの仕事だ。
「もう仕事に戻るけど……ちゃんと夜は休んで、シャキッとしてね。また怪我しないように!」
先に去っていく兄さんを見送って、気を引き締めた。僕が怪我をしてしまったニュースは兄さんからあっという間に実家の家族が知るところになり、とてつもない心配をかけてしまったのだ。
騎士だから、怪我くらい大したことないと思うんだけど。
母が子どもたちに対して過保護なのは、父が母を過剰なくらい大事にしているせいもきっとある。アルファのオメガへの執着はすごい。
しかも今回に限っては、僕の勘という名の予言が一因になっちゃったからなぁ。噂というのは知らないところで広まるものだ。
膝のパンくずを払って立ち上がる。今日も生け垣の裏でデートする人たちを見かけたけど……どうしてか妄想は広がらなかった。
もう一度、ふああ、と欠伸をした。僕の寝不足はその原因のほとんどが……夜のお悩みだった。
テルルとのことを思い出して自慰をすると、今までより格段に気持ちいいことに気づいてしまったのだ。そのことが複雑で、でも、快楽という誘惑の前に僕は弱い。
前のほうが当然気持ちいいというのが、長年の僕の認識だった。それなのに、後ろの快楽は奥深く、留まるところを知らない。もはやお尻になにかを入れながらでないと、満足するオーガズムを得られなくなってしまった。
一人だと、前に触れないと達せないことに変わりはないけれど。大きなもので前立腺を押して、乳首を刺激しながら、耳を虐めてほしい。それはどうしても、一人遊びでは達成できないことだ。
大好きな一人遊びでも解消できない心のモヤモヤのせいで、近ごろはなかなか寝付けなかった。
◇
楽団の演奏する優雅な音楽が鳴りひびき、王宮の中央ホールは活気に満ちていた。シャンデリアがキラキラとした光を会場内に散りばめ、華やかな色のドレスを着た若者たちはドレスに負けないほど輝いている。
僕はいつもの近衛服を身に着けて、二階の狭い通路から会場を見守っていた。会場の隅にはマウォルス父上とジューノ母上、妹のダイアナ、そしてテルルが集まって談笑しているのが見える。
王都でもほとんど家から出てこない母だが、今回は父に頼み込んだらしい。なんだかんだ言って、母に逆らえるものは家にいないんだよなぁ。
ダイアナは淡いピンク色の生地に、銀糸で繊細な刺繍が織り込まれたドレスを着ている。母と同じシルバーの髪は綺麗に結い上げられ、彼女が一任前のレディとなったことを実感して胸がジンと熱くなった。
テルルが手袋に包まれたダイアナの手を取って、ホールの中央の方へと歩き出した。舞踏会のはじまりだ。
ふたりの髪色はとても似ていて、一対の人形のようにも見える。テルルはどうやってか用意したらしい燕尾服を着ていた。ちゃんと採寸されたのかぴったりと似合っていて、彼の凛々しさが存分に活かされている。
そういえばテルルって、踊れるのかな……? その疑問は、ワルツの音楽が流れ出した途端に答えがでた。
「ふっ。ふふふ……」
仕事中なのに笑ってしまった。テルルのリードはぎりぎり及第点といった感じで、慌てて練習したんだろうなというのが分かる。運動神経の良さでカバーしているけど、優美と言うにはほど遠くておもしろかった。
それでもダイアナは弾ける笑顔で楽しそうに踊っている。彼女が動くたびにドレスの裾がふわっと広がって兄の贔屓目だとしても、すごく可愛い。
テルルもなんとなくダンスの感覚が掴めてきたのか、しだいに余裕の出てきた表情でダイアナと会話している。
ダイアナがなにか言ったみたいで、テルルから仕事中にはぜったいに見せない素の笑顔がこぼれて、僕の胸は細い針で刺されたようにツキンと痛くなった。
テルルが一瞬こちらを向き、目が合った気がした。だがそのとき、後ろから声を掛けられて僕は振り返った。
「君がアウローラだね」
「あなたは……」
貴族然とした男の顔に見覚えがあった。確か、以前王宮で急にヒートを起こした女性の父親だ。なんでこんなところに? そもそも警備の者じゃない限り、こんな場所に用はないはずだった。
「あのときは娘を助けてくれてありがとう。君の自制心を見くびっていたな」
「は、それって……」
「どうだろう。君の能力を最大限活かして、騎士より楽に稼げる仕事をしないか? 娘もオメガだし、君の結婚相手にはちょうどいいだろう。あ、もちろん好いた人がいるなら何人でも愛人を抱えてもらって構わないよ」
この男はなにを言っている? あの日以外に見覚えがないということは、きっと今年初めて登城した貴族か、滅多に登城する機会のない下級貴族なんだろう。
あのときは娘を案じた不安そうな表情をしていたのに、いまは自信ありげな顔で僕にずいずい話しかけてくる。話している内容は胡散臭いにもほどがある。娘のことも、まるで道具みたいに……
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