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22.
どんな沙汰が下されるだろうと嫌な汗をかきながら王宮へ出勤すると、ニヤニヤ笑うソル団長に出迎えられた。
「おめでとう。ついに陥落したか」
「え……えぇっ!?」
「さっそく牽制するなんて、あいつも余裕ないよなー」
どうやら今朝、満面の笑みで出勤したテルルが何事かと問われて、堂々と宣言してしまったらしい。牽制って、テルル自身も言い寄られることにうんざりしていたんだろうか。
う~~~。知られたくなかったわけじゃないけど、早すぎてとにかく恥ずかしい。
僕が顔を覆って身悶えていると、雑談はこれで終わりと言わんばかりに真面目な表情になった団長が、重々しく口を開いた。ついに来たか……と身構える。
「アウローラ、配置換えだ」
「……はい。いつからですか?」
「今から行ってもらう」
えっ、さすがに突然すぎやしないだろうか。引き継ぎは? もし緑騎士団だったら引越しも必要になるし、青騎士団でも場所によっては同様だ。思ったより近い場所なの……?
白騎士団に居させてほしいと宣言するタイミングも失って、僕はポカンと口を開けた。
その日、王族の警護を担当する騎士たちが集められて、僕はあまり関わったことのない人たちの前でしおしおと萎縮していた。
「アウローラです……よろしくお願いします…………」
「お前なぁ……シャンとしろよ。王太子殿下はアウローラの能力を高く買っておられる。将来的に、警備の要にしたいとの仰せだ。昨日の一件もあるし、みんなは彼のサポートを頼む。一人にはするなよ」
王太子殿下は有能な人だと聞く。年の離れた妃殿下のため、警備体制には注意を払っているというが……その中にアルファの自分を選んでもらえたことは驚きだ。きっと団長も考えて了承してくれたんだろう。これは、信頼がなければ成し得ない出来事だった。
じわじわ、嬉しさが全身に広がっていく。これからは王宮の端で自由にひとりで警備に当たる、なんてことは出来ないけれど、認めてもらったからには頑張りたい。
昨日の絶望的な気持ちから一転、顔と名前くらいしか一致しない同僚たちに囲まれて緊張こそするものの、テルルがいるなら大丈夫か……と思ってしまうくらいには僕も楽天的になれた。
先輩がテルルの脇腹を小突いている。思わずそこに視線を吸い寄せられたけど、テルルの瞳には僕しか映っていないことがわかったからホッとした。
僕は案外、独占欲が強いのかもしれない。脳裏に独占欲の塊のような父が過ぎって、なんとも言えない気持ちになる。やっぱり僕も、アヴェンティーノ家の息子ということか……
◇
「おめでとう。ついに陥落したんだって?」
「え……えぇっ!?」
王宮の中心部に配備されたおかげで、トゥーノ兄さんとよく顔を合わせるようになった。今日はランチではなく、僕の能力を活かす警備体制の構築のため、正式な打ち合わせとして会っている。
それなのに開口一番に言われたのがテルルとのことで、団長に言われたときよりも驚いてしまった。噂がまわるの……早すぎない?
しかも「ついに」って、みんなが何をどこまで知っていたのか考えるだけで、震え上がる。祝われているってことは良いんだけどさ……僕自身、腹を括ったつもりだったのに、いろいろと心の準備ができていないせいで、また逃げ回っている最中だと言うのに。
テルルのことになると、いつも僕は矛盾だらけだ。
僕が狼狽えすぎたせいで、兄さんははぁ、と呆れたように僕を見る。
「お似合いだと思うよ。ぼくはローラのことも心配してたから、やっと安心できるかな。だから、あんまり意地悪しないであげてね」
「ぼ、ぼ、僕はなにも……」
「たまに飢えた獣のような目でローラを見てるから」
「ヒッ。や、やめてよぉ……」
昔は甘えん坊で家族みんなから可愛がられていたらしいが、トゥーノ兄さんはいまや兄妹イチのしっかり者だ。僕のことを心配しているくせに、テルルの味方をするような発言に僕は涙目になった。
だって、その……恋人同士になったということは、いつそうなってもおかしくないわけで……。あれやこれやされておいて、今さらだと思うけど!
期待と緊張で、身体が逃げてしまうのだ。テルルに、我慢ばかりさせているという自覚はある。ああああどうしよう!?
そのあと僕の顔を見に王太子殿下が現れて、兄との会話で気の抜けていた僕はうっかり人見知りを表に出してしまった。自分よりも小さい兄の後ろに隠れた僕を見遣って、王太子殿下が爆笑するという小さなトラブルがあったものの、なんとか無事に打ち合わせを終えた。
そして――打ち合わせで使っていた部屋の扉を開けた僕は、すぐ目の前にテルルが立っていることに気づいて即座に扉をバタン! と閉めた。
「な、な、なんで!?」
「ぼくが呼んだんだよ。休憩時間くらい一緒に過ごしてあげてね」
「フォルトゥーノさん、感謝する」
後ろにいた確信犯に詰め寄っていた僕は、いつの間にか再び開けられていた扉からテルルに攫われてしまった。
――王宮の庭園。生け垣で周囲から隠れた、恋人たちの逢瀬の場所。僕はいつだって傍観者だった、はずなのになぁ……
日の沈み始めたこの時間は、ほとんどひと気がない。テルルが僕にパンを差し出してくるから、仕方なくあむっと受け取った。もぐもぐと機械的に咀嚼しながら思考を巡らす。
僕はこれから夜間警備だけど、テルルはすでに仕事を終えている。まっすぐ帰ればいいのにと言いかけて、『望んでもいないことを口にするな』と激情をぶつけられたことを思い出した。
ここ数日僕が逃げ回っていたせいで、ふたりで話す時間は全くといってなかった。だからこそ、考えてテルルは時間を作ったのだろう。
う~ん、確かにこれは兄が助け舟を出したくなる案件だ。
なんだかんだ一緒にいると、離れがたくなってくる。僕は芝生の上でズリズリとお尻を動かし、ぴと、とテルルに横並びでくっついた。
「……ごめん。なかなか素直になれなくて」
「はぁ~~~っ、本当だよ。でもまぁ、アウローラを追いかけるのは慣れてるからな」
「あははっ。懐かしいな……覚えてる? あの秘密基地」
実家の王都邸で、かつて使用人が居心地良く整えてくれていた秘密基地。いまは自分で借りたあの小さな部屋が、僕にとっての秘密基地だ。
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