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しおりを挟む――イーリスがクヴェルに誘われて北方騎士団に入団した当初、団員たちの反応は様々だった。
イーリスに実際会ったことのある人や噂を知っていた人は初めからイーリスのことを信頼し、喜んでくれた。
しかしずっとただの冒険者、しかもソロで活動していたイーリスに不信感を抱いていた人も少なくなかっただろう。
団長の手前直接イーリスに言われることこそなかったが、「本当にこいつで大丈夫か?」という含みの視線を感じなかったといえば嘘になる。さらには団長であるクヴェルのスカウトが失敗だったなどと思われてしまったら、イーリスは自分を許せない。
だからこそ、イーリスは誰よりも真面目に訓練に参加した。王都の騎士とは違って、北方騎士団のメインの活動は魔物の討伐だ。冒険者としての知識を存分に生かし、討伐任務では力を惜しみなく発揮した。
団体討伐でのフォーメーションに慣れず、一人で突っ込んでしまったり逆に取り残されてしまったこともある。そんなときも素直に謝ったし、怪我をした団員や攻撃されそうになっている団員は「おれの背に隠れろ!」と身を挺して守った。
元々イーリスは人を守るため冒険者になった経緯がある。だからこそ、相手が仲間であっても守る対象として認識しているのだ。
想像以上に素直な性格のイーリスを、徐々に団員たちは受け入れてくれた。特にイーリスが庇ったことのある団員たちは、年上も多かったが「……惚れそうになったぞ」と冗談を交えて感謝し、気を許してくれるようになった。
クヴェルと恋人同士であることは、早々にクヴェルが言ってしまおうと提案してきたからイーリスは慌てた。
わざわざ気を付けて敬語を使っていたのに。どうして言ってしまう必要がある!?
だから当初、イーリスはクヴェルを説得しようとした。
「なあ、クヴェル。みんなに言う必要はないだろ? 言っちまえばこんな風に二人きりになるだけで権力濫用だとか咎められかねないし、おれはクヴェルの信頼がなくなったら嫌だ! おれ、我慢できるからさ……宿屋以外でヤるのもやめよう」
自分なんかに惚れてくれて、騎士という立派な仕事まで与えてくれたクヴェルには恥をかかせたくない。それに、恋人が自分だと知られて「こんな冴えない男を団長が選んだのか……」と他人に落胆されるのがイーリスは怖かった。
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