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しおりを挟む夜、近況報告と称してイーリスを天幕に誘い込んでいたクヴェルは、イーリスの言葉を聞いて秀麗な眉を顰めた。アイリスブルーの目が光る。
「私は自分がどう思われようと、イーリスが私のものだと知らしめたい。それに我慢なんて、可能なのか? こんなにも、すぐに熱くなる身体で」
「っあ……」
イーリスは耳元に低い声を吹きこまれてぶるりと身体を震わせた。今日も魔物の討伐があった。小型だが数が多く、戦いの興奮は身体にじくじくと残っている。
こんなとき、クヴェルは必ずイーリスに誘いをかけてくれた。だから耳元で囁かれるだけで、クヴェルの男らしい香りを間近に感じるだけで、期待の火が灯ってしまう。
瞳が欲に揺らいだのを見逃さなかったクヴェルに、敷き布へと押し倒されてしまう。イーリスは服を脱がされながらも、自分の抵抗があまりにも弱々しいことを自覚していた。
「……君は自分の魅力と私の想いを理解しきれていないようだ」
「く、クヴェル……」
自分の魅力と言われても、イーリスにはわからない。かつては「抱かれたい」「抱いて」とよく言われていたものの、騎士団へ入団してから最近は酒場にも行っていないし、誰かに誘われる機会もないのだ。
でも、この甘やかな誘惑をどうやって断ることができる? こうなってしまえば悶々と眠れない夜を過ごすか、川辺でこそこそと自慰に耽るかの虚しい二択だ。
「イーリス、いいと言ってくれ。決して悪いようにはしないから、君の恋人が私だと……言いたいんだ」
「ひん、ああっ。もうっ、いいからぁっ! 早く……~~~ッ!」
達する寸前まで高められて、焦らされるのを繰り返す。ぎりぎりの快感が続き、終わりが見えないせいで思考がぐちゃぐちゃに蕩けている。
イーリスはひんひん泣かされながら、クヴェルの願いに頷くことしかできなかった。
自分の間違いを認めざるを得ない。クヴェルに抱かれるのを我慢するなんて、何よりも自分ができないに違いない。
王都で過ごした短い日々、二人で北方へ移動している間も、これまでの人生で一番甘やかな時間を過ごした。
イーリスは自分の性欲が強いことを知っているが、クヴェルの性欲もなかなかだ。夜は長く、時には昼も情熱的に過ごしてしまった。
初めて抱かれたあともずっと忘れられなかったように、好きな人からたっぷりと愛される悦びを知ってしまった身体は、もう元には戻れないのだ。
だから……だから……?
なんだか流された気がしなくもないが、その後クヴェルは団員にイーリスとの交際を堂々と宣言した。
「ええ!」という驚きの声があった反面、副団長やベテランの団員は「やっぱりな」という顔をしていた。そんなにわかりやすかったのか……?
一部顔を真っ赤にしている人もいて、まさか天幕から漏れる声を聞いたのではないかと疑いが頭をよぎったが、恥ずかしすぎて尋ねることもできない。
イーリスが北方騎士団に馴染みはじめていたことがよかったのか、団長の宣言は案外すんなりと受け入れられ肩の荷が下りた心地だ。
アインツェル王国最強のカップルだと誰かが言い出して、イーリスは恐縮すればいいのか照れていいのかわからなかった。
クヴェルは「みんなに広めてくれ」とか言ってるし。堅物だったんじゃないのか!?
とはいえ現状、たまに暴走するクヴェルの様子もみんなからは微笑ましく見守られている。
団員たちから騎士としての仕事をあれこれと教えてもらい、時に揶揄われ励まされるこの場所は居心地がいい。ずっと孤独だった自分に家族ができたみたいだ、とイーリスは思っていた。
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