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しおりを挟む待たされるものだとクヴェルから聞かされたイーリスは、謁見の間で何度も深呼吸していた。当初の不安は払拭されたが、緊張するなというのも無理な話だ。
片膝を落とし、頭を垂れた姿勢でずっと待つのは地味に辛いかもしれない。そんなことを考えていると、さほど待たずに国王陛下入場の号令がかかった。ビクッと肩を揺らす。
(思ってたより早いんだが!?)
緊張が続くよりはいいのかもしれない。複数人の歩いてくる気配があり、どきどきと大理石の床を見つめていた。
「面を上げよ」
「「はっ」」
短く返事をして玉座を見上げると、そこには誰もいない。
そういえばやけに近くから声が……と考えていたところ、視界の左側からニュッと顔が出てきてイーリスの顔を覗き込んだ。
「君がイーリスだね」
「わあっ。ここ、国王陛下……?」
緊張しすぎて気配に疎くなっていたらしい。イーリスは間近で見る国王陛下に驚いて腰を抜かしかけた。
アインツェル王国で一番偉い人は、武人といっても差し支えないほどしっかりした身体つきの偉丈夫である。髭を蓄えて苦み走った顔立ちで、高貴な生まれの人はみんな美形なのかと真剣に思った。
「なるほど、いい体格をしている。昨日は怪我人も出さずに魔物を討伐したとか。さすがだな? クヴェル」
「もったいなきお言葉。我々には運も味方してくれました」
「派手に討伐してくれたそうじゃないか。イーリスのことは民の間でも噂になっておるそうだ。三人の子供を救ったんだとな?」
「は、はい」
陛下はイーリスも自然に会話に巻き込んでくる。友好的な話しぶりに、緊張もほんの少しだけ解けてきた。
クヴェルは何度か謁見したことがあるようで、さすがの堂々とした佇まいだ。視野を広げると、近衛騎士のなかにラートも混じっているのが見えた。
「褒賞というほどの金額にはならんが、魔石の引き取り額に色をつけて渡すよう伝えてある。帰りに受け取りなさい」
「はっ。有り難く存じます」
会話も終了の雰囲気を感じ取り、イーリスはそっと息をつく。どうなることかと思ったが、なんとか乗り切れそうだ。
安心しかけたとき、唐突にもう一度陛下がイーリスに話を振ってきた。
「イーリスは見目もいいし民に人気が出そうだな。どうだ、近衛騎士となって私の下で働かんか」
「へっ!?」
「ああ、王命ではないから安心してくれ。ははっ、クヴェルも睨むな。若者は王都に憧れたりするものだろう? ま、イーリスが即答しない時点で答えは分かったがな」
「お戯れを……」
固まってしまったイーリスの代わりにクヴェルが答え、なんだ冗談かと肩を下ろす。イーリス自身どこで働こうと構わないが、今はクヴェルのそばにいることが絶対条件だ。
謁見を終え、陛下を見送ると一気に全身から力が抜けた。
「き、緊張した……」
「お疲れさま。行こうか」
どこか硬い表情のクヴェルについて王宮を出れば、来たときと違う道を通る。帰りは広大な庭園を抜けて行くようで、甘く濃厚な花の匂いがした。
無骨な騎士が花に囲まれているなんてはたから見れば滑稽だと思うが、木が衝立となってどこからも視線は感じない。
これもクヴェルの気遣いなのだろう。イーリスに花を愛でる趣味はないものの、緊張による疲れが色とりどりの自然に癒されていく。
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