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55.王都十二日目
しおりを挟む「……やっと帰ってきたな」
「イーリス、おかえり」
「ただいまクヴェル……!」
イーリスたちは帰ってきた。とりあえず……クヴェルの家に。
たった数日だというのに懐かしさと感慨深さが一気にやってきて、ちょっと目の奥が熱くなってくる。
イーリスが聖女として公表されずに、北方騎士団へ戻りたいという意思は目覚めた時から伝えていた。そのために国王陛下へ働きかけてくれているのはフェルゼだ。
伯爵位ではあるものの聖女のことを知っている当事者で、ラートの捕縛でも手柄を立てたとして大層信頼を得ているらしい。
教会側は当然イーリスを引き入れたいと思っているし、国王陛下からイーリスのことを伝えられた宰相などは「陛下専属の治癒師としてどうか」と進言してきたという。
国王陛下が自分の利益しか考えていないような人物だったら、王命であっという間にイーリスの自由は奪われていただろう。
図らずも今後の方向性が定まったきっかけは、イーリスが瘴気で穢れた土の浄化に成功したことだった。存在自体が希少な鑑定師がわざわざ派遣され、浄化成功を認められたことにより、イーリスはまごうことなき『聖女』となってしまったのだが……
アインツェル王国を挟む二つの瘴気溜まりについて、可能な限り浄化を進めてみようという方針で今は計画が進められている。
範囲的に絶対に無理だとは思うが瘴気溜まりを全て浄化してしまえば、隣国と土地の奪い合いになる可能性もある。イーリスが聖女だと明るみに出てしまえば、国内での混乱や他国との戦争になる可能性もある。
イーリスを守りつつ国のために働いてもらう極秘作戦をどう進めるのか、国の偉い人たちが頭を悩ませているらしい。「どうやっても国に利用されることになる」となぜかフェルゼとクヴェルが謝ってきたけれど、元々人を助けたい思いで冒険者や騎士をやってきたイーリスだ。文句はなかった。
そんななか、当時神殿にいてイーリスの治癒力の恩恵にあやかった人たちから聖女の噂が広がり、王都で「聖女が現れた」と囁かれるようになってしまった。
あの時のことは誰にも言わないように厳命したというが、嘘が苦手な人はいるだろう。
イーリスが神殿内にいて、色んな人が相談に会いに来るという状況は余計に疑われる。だからこそクヴェルの家に戻る許可が出たのだった。なお、エッセンとビアは先に北への帰路に着いた。
瘴気溜まりの浄化が現実的になれば、一旦はイーリスも北へと戻れるはずだ。もちろん、クヴェルと共に。
「教会から出るの、笑えるほど簡単だったな? ほんとさ、周りが過剰に心配しすぎなんだって」
「君が注目されなくてよかったよ。とはいえ、目の前で人が倒れても光魔法は使っては駄目だからね」
早朝、騎士服に着替えたイーリスが教会を出るとき、神官たちは周囲に人がいないことを慎重に確認してくれた。にもかかわらず神殿を出た途端、朝の散歩をしていたご婦人と出くわしてしまったのだ。しかも一度神殿に「聖女様がいると聞いたんだけど、本当なの?」と問い合わせてきた人物だったらしい。
あのときの空気は相当ピリついていたが、結果として彼女はイーリスとクヴェルを一瞥し「朝から男前を二人も見られて、今日はいいことがありそうだわ」と独り言をこぼして歩き去っただけだった。
みんなが肩の力を抜いて、イーリスはクヴェルと小さく笑い合って、徒歩で家に帰ってきたのである。
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