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9.はじめてのおしごと
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リアンの家へは隔日で行くことになっている。
勤務の初日、緊張しながらドアを開けると、知らない男の人に出迎えられた。
薄ピンクの髪に深紫色の瞳。可愛らしい色味を持つその人は、リアンほどではないが背が高く、リアンよりも筋肉逞しいがっしりとした身体つきをしていた。くるくるの髪を引っ詰めていて、なんていうか……レゲエっぽい。
「あ、ようこそー!メグ、くんだよね?」
「メグムだ」
すかさずリアンが訂正する。リアンの方こそ、何度言ってもメグと呼ぶのをやめないくせに謎なんだけど……
男の人はディムルドと言った。リアンの同僚で近くに住んでいて、仲のいい友人でもあるらしい。
「メグムくん、もちもちふわふわで可愛いねー!こいつの世話、大変だと思うけどよろしく頼むわ」
「あっ、え……?こ、こちらこそよろしくお願いします」
「家の中を案内するから、行こう。こいつには構わなくていい」
「なにー?やけに独占するじゃん」
可愛いなんてふだん言われることはないからポカンとしてしまった。するするお世辞が出てくる人だなー。でもなんか、明るくて楽しそうな人だ。
ディムルドの突っ込みを無視して歩き出したリアンに、僕は慌ててついて行く。
なんとなく生活感のない家を想像してしまっていたけど、リアンの家は良くも悪くも男のひとり暮らし、という感じだった。要するに雑然としていて片付いていない。
大金で家政婦を雇うくらいだ。なるほどなあ……
しかしながら、使っている部屋は少ないみたいで何も置いていない部屋もある。そこはホコリが溜まっているものの掃除はしやすそうだった。今日いちにちで全部の部屋を掃除するのは難しそうだけれど、通っているうちに全て綺麗にできそうだ。
「あの……すみません。一日で全部の部屋は掃除できないと思います」
「別にいい。それより、夕飯を作っておいてくれると有り難い」
「あ、ありがとうございます!もちろんです!」
念のため確認してみれば、ひと言で許される。面接のときから感じていたけれど、口調がぶっきらぼうなだけで、リアンは意外と優しい人かもしれない……
みんなここでの仕事が続かないというから家では暴君なのかと心配したが、そんなこともなさそうでほっとした。
家の中の説明を聞いたあと僕が持参したエプロンを身に着けていると、リアンとディムルドは仕事に行くと言うので玄関まで見送った。
「行ってらっしゃいませ、リアンさん、ディムルドさん」
「い……行ってくる」
「ひゅ~っ、なんか初日なのに新妻感でてるね!」
「うるさい!行くぞ!」
新妻って言われたのがちょっとおもしろくて、笑いながら見送ってしまった。心なしかリアンの耳も赤かった気がする。一個歳下みたいだし、十八なんて高校生みたいなものだ。照れてたのかな……
来たときは緊張でカチコチだった心が、二人のお陰でだいぶほぐれた気がした。
よーし、がんばるぞ!
家事代行でリアンが希望しているのは掃除・洗濯・料理の3つだ。
「まずは洗濯、それから掃除かな。リアンさんが仕事を終わる時間に合わせてご飯をつくろうっと」
お金をもらって家事をするなんて初めてのことだ。でも、ボン・ワークで基本的な講習があったからある程度の不安は払拭された。
はじめのひと月はボン・ワークのサポートがあり、賃金もボン・ワーク経由で支給される。その後はリアンと直接契約になるのだが、切り替えの際にお互いの意思確認がなされ、雇用を継続するかが決められるのだ。
これまで、ひと月の壁を越えられた人はいないらしいから、頑張らないといけない。
分からないことを聞いたり、雇用主との交渉をボン・ワークに委ねることはできるが、今後のことを考えるとリアンと積極的にコミュニケーションを取っていったほうがいいだろう。
初めて会ったときに『丸いな』って言われて地味にむかついたことは、忘れてあげよう。
近未来的なこの世界では、もちろん家電も充実している。洗濯は洗濯機に任せ、ボールのようなロボット掃除機は充電さえすればコロコロと動き出したので、水回りの掃除からしていった。
――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今日から一日二回の更新になります。
よろしくお願いいたします。
勤務の初日、緊張しながらドアを開けると、知らない男の人に出迎えられた。
薄ピンクの髪に深紫色の瞳。可愛らしい色味を持つその人は、リアンほどではないが背が高く、リアンよりも筋肉逞しいがっしりとした身体つきをしていた。くるくるの髪を引っ詰めていて、なんていうか……レゲエっぽい。
「あ、ようこそー!メグ、くんだよね?」
「メグムだ」
すかさずリアンが訂正する。リアンの方こそ、何度言ってもメグと呼ぶのをやめないくせに謎なんだけど……
男の人はディムルドと言った。リアンの同僚で近くに住んでいて、仲のいい友人でもあるらしい。
「メグムくん、もちもちふわふわで可愛いねー!こいつの世話、大変だと思うけどよろしく頼むわ」
「あっ、え……?こ、こちらこそよろしくお願いします」
「家の中を案内するから、行こう。こいつには構わなくていい」
「なにー?やけに独占するじゃん」
可愛いなんてふだん言われることはないからポカンとしてしまった。するするお世辞が出てくる人だなー。でもなんか、明るくて楽しそうな人だ。
ディムルドの突っ込みを無視して歩き出したリアンに、僕は慌ててついて行く。
なんとなく生活感のない家を想像してしまっていたけど、リアンの家は良くも悪くも男のひとり暮らし、という感じだった。要するに雑然としていて片付いていない。
大金で家政婦を雇うくらいだ。なるほどなあ……
しかしながら、使っている部屋は少ないみたいで何も置いていない部屋もある。そこはホコリが溜まっているものの掃除はしやすそうだった。今日いちにちで全部の部屋を掃除するのは難しそうだけれど、通っているうちに全て綺麗にできそうだ。
「あの……すみません。一日で全部の部屋は掃除できないと思います」
「別にいい。それより、夕飯を作っておいてくれると有り難い」
「あ、ありがとうございます!もちろんです!」
念のため確認してみれば、ひと言で許される。面接のときから感じていたけれど、口調がぶっきらぼうなだけで、リアンは意外と優しい人かもしれない……
みんなここでの仕事が続かないというから家では暴君なのかと心配したが、そんなこともなさそうでほっとした。
家の中の説明を聞いたあと僕が持参したエプロンを身に着けていると、リアンとディムルドは仕事に行くと言うので玄関まで見送った。
「行ってらっしゃいませ、リアンさん、ディムルドさん」
「い……行ってくる」
「ひゅ~っ、なんか初日なのに新妻感でてるね!」
「うるさい!行くぞ!」
新妻って言われたのがちょっとおもしろくて、笑いながら見送ってしまった。心なしかリアンの耳も赤かった気がする。一個歳下みたいだし、十八なんて高校生みたいなものだ。照れてたのかな……
来たときは緊張でカチコチだった心が、二人のお陰でだいぶほぐれた気がした。
よーし、がんばるぞ!
家事代行でリアンが希望しているのは掃除・洗濯・料理の3つだ。
「まずは洗濯、それから掃除かな。リアンさんが仕事を終わる時間に合わせてご飯をつくろうっと」
お金をもらって家事をするなんて初めてのことだ。でも、ボン・ワークで基本的な講習があったからある程度の不安は払拭された。
はじめのひと月はボン・ワークのサポートがあり、賃金もボン・ワーク経由で支給される。その後はリアンと直接契約になるのだが、切り替えの際にお互いの意思確認がなされ、雇用を継続するかが決められるのだ。
これまで、ひと月の壁を越えられた人はいないらしいから、頑張らないといけない。
分からないことを聞いたり、雇用主との交渉をボン・ワークに委ねることはできるが、今後のことを考えるとリアンと積極的にコミュニケーションを取っていったほうがいいだろう。
初めて会ったときに『丸いな』って言われて地味にむかついたことは、忘れてあげよう。
近未来的なこの世界では、もちろん家電も充実している。洗濯は洗濯機に任せ、ボールのようなロボット掃除機は充電さえすればコロコロと動き出したので、水回りの掃除からしていった。
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よろしくお願いいたします。
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