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掃除ってどうしてこんなに熱中してしまうんだろう。
洗濯が終わった機械音にハッとして、洗濯物を干しに行く。洗濯機に乾燥機能はついているけれど、晴れている日は外に干すほうが僕は好きだ。
その後はまた水回りの掃除に戻った。水垢ってしつこいな……もっと強力な洗剤を用意したほうがいいだろうか。
仕事に使用する洗剤や食事の材料などは経費として請求できる。無駄遣いをするつもりはないけど、シンクをピカピカにするには致し方ないのかも……
「おい」
「ピカピカにしたあとも、状態を保つならコーティング剤とかあるはずだよな……」
「おい、メグ」
「ふぁ!?」
無意識にぶつぶつ呟いていると、後ろから声をかけられてビクッと飛び上がってしまう。誰もいないと思って完全に油断してた……!
「リアンさん!え、もう仕事終わりました?」
「いや、休憩中だ。どうしているかと思って帰ってきたが……まだ昼も食べていないんだろう」
「ひる……もうお昼ですか。掃除に熱中して忘れてました」
「俺が雇っているからには健康でいてもらわないと困る。ちゃんと食えよ」
「はい……すみません」
怒られてしおしおと謝る。リアンは眉間に皺を寄せたまま、僕に片手を差し出した。
「ん」
「え?」
リアンの差し出した手には、茶色い紙袋が握られている。ぐっと僕の方へ突きつけてくるから思わず受け取った。なんだろ……?
促されるまま袋を開けると、大きなサンドイッチが四つほど入っていた。具がたっぷりと入っていて、美味しそう。それを見た瞬間、くぅ~と情けない音が僕のお腹から鳴った。
「わ、す、すみません!」
うわ~~~っ、恥ずかしい!
手でお腹を抑えてみるが、今さらだ。リアンの方を見れなくて俯いたけど、顔が熱い。
「一緒に食べよう。パン屋に寄ったらたくさんサービスされてしまって、手伝ってくれると助かる」
「え……」
それでこんなにたくさん?サービスって、そんなことあるだろうか……と疑問に思ったけど、これだけの美形ならあり得ると納得した。きっとそのパン屋の店員はリアンに気があるのだろう。モテる人ってすごい。
僕は改めて手を洗って、お茶の準備をした。こんなことなら、スープだけでも作っておけばよかったな……
ダイニングテーブルに向かい合ってサンドイッチを一緒に食べる。久しぶりに人と食事をするから、なんだか気恥ずかしいけど嬉しい。
「ふわぁっ、美味し~!」
「そうか」
たっぷりのレタスと蒸し鶏が挟まれたサンドイッチは、断面も美しい。自分で作ってもなかなかこうはならない。隠し味に大葉とリンゴのペーストが入っていて、大葉の香りとリンゴの爽やかな甘みがいいアクセントだ。
僕は何度もお礼と感想を言いながら、もぐもぐ食べ進める。サンドイッチはどれも種類が違って美味しくて、あっという間に食べてしまった。あれ、たくさんあったはずなのに……
「ご、ごめんなさい。リアンさんの分まで食べちゃったかも……」
「本当によく食べるな」
「すみません……」
「別に謝らなくていい。じゃ、仕事に戻るから午後もよろしくな、メグ」
はぁ、今日は謝ってばっかりだ。この調子じゃ、ひと月を待たずに解雇されちゃいそう。僕はさらに気合を入れて、家事に取り掛かった。
反省をこめて翌日の分までたくさんの料理を作って、予定の時間を過ぎても遅くまで掃除をしていたけれど、結局その日はリアンと会うことなく帰った。リアンの仕事も忙しいみたいだなぁ。
聞いたところによると、異世界転移研究所では転移が起こったときの痕跡を魔力波などから読み取って解明しているらしい。
かつてこの世界の人が豊富に持っていた魔力は年々なくなり、数百年前に魔法技術は衰退した。それでも異世界転移が起きてしまうのは空気中に残った魔素が影響していると考えられている。
異世界転移はある意味不幸な事故だ。毎年起きてしまう転移を防ぐため、リアンたち研究員ががんばってくれている。まぁ国に大きな損害がある訳ではないから、予算も少なくて研究員の数も限られていると噂で聞いた。
今回は僕とキリトがふたり揃って来たおかげで、いつもより大きな痕跡が見つかったようだ。時期の選べない繁忙期のようなものかな。
忙しいリアンのためにも、お仕事がんばろう。そう新たに決意した。
洗濯が終わった機械音にハッとして、洗濯物を干しに行く。洗濯機に乾燥機能はついているけれど、晴れている日は外に干すほうが僕は好きだ。
その後はまた水回りの掃除に戻った。水垢ってしつこいな……もっと強力な洗剤を用意したほうがいいだろうか。
仕事に使用する洗剤や食事の材料などは経費として請求できる。無駄遣いをするつもりはないけど、シンクをピカピカにするには致し方ないのかも……
「おい」
「ピカピカにしたあとも、状態を保つならコーティング剤とかあるはずだよな……」
「おい、メグ」
「ふぁ!?」
無意識にぶつぶつ呟いていると、後ろから声をかけられてビクッと飛び上がってしまう。誰もいないと思って完全に油断してた……!
「リアンさん!え、もう仕事終わりました?」
「いや、休憩中だ。どうしているかと思って帰ってきたが……まだ昼も食べていないんだろう」
「ひる……もうお昼ですか。掃除に熱中して忘れてました」
「俺が雇っているからには健康でいてもらわないと困る。ちゃんと食えよ」
「はい……すみません」
怒られてしおしおと謝る。リアンは眉間に皺を寄せたまま、僕に片手を差し出した。
「ん」
「え?」
リアンの差し出した手には、茶色い紙袋が握られている。ぐっと僕の方へ突きつけてくるから思わず受け取った。なんだろ……?
促されるまま袋を開けると、大きなサンドイッチが四つほど入っていた。具がたっぷりと入っていて、美味しそう。それを見た瞬間、くぅ~と情けない音が僕のお腹から鳴った。
「わ、す、すみません!」
うわ~~~っ、恥ずかしい!
手でお腹を抑えてみるが、今さらだ。リアンの方を見れなくて俯いたけど、顔が熱い。
「一緒に食べよう。パン屋に寄ったらたくさんサービスされてしまって、手伝ってくれると助かる」
「え……」
それでこんなにたくさん?サービスって、そんなことあるだろうか……と疑問に思ったけど、これだけの美形ならあり得ると納得した。きっとそのパン屋の店員はリアンに気があるのだろう。モテる人ってすごい。
僕は改めて手を洗って、お茶の準備をした。こんなことなら、スープだけでも作っておけばよかったな……
ダイニングテーブルに向かい合ってサンドイッチを一緒に食べる。久しぶりに人と食事をするから、なんだか気恥ずかしいけど嬉しい。
「ふわぁっ、美味し~!」
「そうか」
たっぷりのレタスと蒸し鶏が挟まれたサンドイッチは、断面も美しい。自分で作ってもなかなかこうはならない。隠し味に大葉とリンゴのペーストが入っていて、大葉の香りとリンゴの爽やかな甘みがいいアクセントだ。
僕は何度もお礼と感想を言いながら、もぐもぐ食べ進める。サンドイッチはどれも種類が違って美味しくて、あっという間に食べてしまった。あれ、たくさんあったはずなのに……
「ご、ごめんなさい。リアンさんの分まで食べちゃったかも……」
「本当によく食べるな」
「すみません……」
「別に謝らなくていい。じゃ、仕事に戻るから午後もよろしくな、メグ」
はぁ、今日は謝ってばっかりだ。この調子じゃ、ひと月を待たずに解雇されちゃいそう。僕はさらに気合を入れて、家事に取り掛かった。
反省をこめて翌日の分までたくさんの料理を作って、予定の時間を過ぎても遅くまで掃除をしていたけれど、結局その日はリアンと会うことなく帰った。リアンの仕事も忙しいみたいだなぁ。
聞いたところによると、異世界転移研究所では転移が起こったときの痕跡を魔力波などから読み取って解明しているらしい。
かつてこの世界の人が豊富に持っていた魔力は年々なくなり、数百年前に魔法技術は衰退した。それでも異世界転移が起きてしまうのは空気中に残った魔素が影響していると考えられている。
異世界転移はある意味不幸な事故だ。毎年起きてしまう転移を防ぐため、リアンたち研究員ががんばってくれている。まぁ国に大きな損害がある訳ではないから、予算も少なくて研究員の数も限られていると噂で聞いた。
今回は僕とキリトがふたり揃って来たおかげで、いつもより大きな痕跡が見つかったようだ。時期の選べない繁忙期のようなものかな。
忙しいリアンのためにも、お仕事がんばろう。そう新たに決意した。
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