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しおりを挟む「……あ。……はぁっ、ん……」
なんだ? 隣の部屋から聞こえる?
一階が閉まればもう、リュート奏者も帰ってしまっている。
何をしてたんだっけ。確か子守唄を歌って、イデアルの残した酒を一人で飲んでいた。それで、眠くなって……少しだけ、寝台に背を預けて目を閉じた。
「んんーっ、……ひぁ、あぁ……」
くすぐったいような、ぞわぞわする感覚が全身を満たしている。ひどく懐かしい、気持ちが良くてもどかしい感覚。
まるで、発情期みたいな…………
「えっ」
パチ! と目覚めると天蓋の天井が見えた。
お客様の寝台に上がってしまった? いやいやそれよりも。……おかしい。とってもまずいことが起きている。思考が霞んで……気持ちいい。
「……ああんっ」
やけに近くで聞こえる喘ぎ声はネージュ自身のものだ。鈍く光る髪が視界にちらつき、やっと現状、イデアルに覆い被さられていることに気づいた。
衣装が左右にはだけられ、イデアルの舌が這い回る。時折り噛まれ小さな痛みが走るも、ぞくぞくと快感に変わるだけだ。
懐かしい。懐かしすぎる感覚。もう来ないと思っていたのに……
(発情期が……来てる!?)
ネージュは元々発情期が不安定なオメガだった。一度だけ医者に診てもらったときは心因性のものだと言われて、娼館勤めだものなぁと諦めていた。
稀に強いアルファ性を持つ人のそばに侍ると誘発されることがあったが、二十代のうちに枯れたのかここ数年は来なくなっていた。
だから、すっかり油断していたのだ。準備も誓約書もなく、アルファと発情期に入ってしまっている。
まずい。まずいのに……
膝の裏に固い掌の感触があり、両脚を抱えあげられる。湿った場所に熱いものが押し当てられ、期待と疼きで止めようなんて思えなかった。
発情期に抱かれるのは虚しくて嫌いだったのに……今はどうしようもなく、欲しい。
「きて……」
思わず呟くと、けぶるグレーと目が合った。そこには理性なんてとっくになく、ただオメガを求める欲が宿っている。
体がカッと熱くなり、ネージュの思考も本能に覆いつくされる。情熱に貫かれるとただただ気持ちがよくて、体をよじって奥へと誘い、精をねだった。
「あ……ん、あ~~~っ。奥、もっとぉ……」
「……く……ッ」
最奥で注がれ、ネージュも達した。熱くて、満たされている。
しかし貪欲な体はもっと、もっととアルファを煽った。濃厚なフェロモンが立ち上り、アルファのフェロモンと混じり合う。
杭に貫かれたまま体をうつ伏せに返されると、違った場所が擦られて「はぁんっ」と甘い声が漏れる。イデアルの興奮は全く萎えていない。
そのまま腰を持ち上げられ、獣のような体勢で交わる。屹立は前立腺を擦り、奥の好いところを突く。
繰り返される律動に恍惚となって、あられもない嬌声を上げつづけた。長い黒髪が視界で絶えず揺れ、縋りついたシーツに波のような皺が寄る。
また絶頂への階段を駆け上っていた。項に舌が這わされ、快感と本能的な恐怖が一緒くたになって襲い掛かってくる。
反射でぎゅうっとナカの熱を締め付けてしまい、ひときわ強い悦楽がネージュを蕩けさせた。アルファの牙が、食い込んでくる。
「んぁっ……あ゛! ――~~~っ!」
それは、世界がひっくり返ってしまったような感覚だった。ネージュは真っ白な空間に投げ出されて、束の間心細い不安に襲われる。
そのとき白い手に大きな手が被さってきて、とっさに掌を返し指を絡めた。熱い杭が「俺のものだ」と言わんばかりに再び情熱を胎内に叩きつけ、不安は安堵に変わった。
(私は……この人のもの。この人は……私のもの……)
気づけばネージュの目からはぽろぽろと涙が零れていた。こんなにも満たされた心地になったのは初めてで、幸せで。
ひっく、ひっくとしゃくり上げてイデアルに心配された気もしたが、そのまま熱が冷めるまで交わり続けた。
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