16 / 18
16.*
しおりを挟む「ネージュ、……いいか?」
「ッ……うん」
イデアルの体温でネージュもぽかぽかしてきた頃、耳の裏の狭い空間で声が響いて心臓が跳ねた。なんだろう。それはまだ、得たことのない感覚で。
期待とときめきで、胸が苦しい。
イデアルは少しも離れたくないみたいに顔だけを持ち上げ、ネージュの唇に口づけした。ネージュよりも厚みのある唇が押し当てられるだけでドッと体温が上がり、思わず両腕をイデアルの首の後ろに回す。
下唇を甘噛みされた。
「あっ、……んぅ」
それだけで感じてしまい声を上げると、唇の隙間から舌が入ってくる。イデアルの舌まで熱くて、ネージュは一瞬火傷するかと思った。驚きが去れば今度は気持ちがよくて、誘われるまま舌をくちゅくちゅと絡め合わせる。
「ん……んぁっ……」
吸って、吸われて、口の中を余すところなく舌で擽られる。敏感な上顎に触れると、ぞくぞくとした快感が背筋を駆け下り、体の中心に溜まっていく。
キスだけをこんなに丁寧にしたのは初めてだった。キスだけでこんなに興奮することをネージュは知らなかった。
イデアルの手はネージュの肩から腕、脇腹まで輪郭を辿るように動き、腰骨を掴む。すると性器に触れられたかのような快感がビリビリと生まれ、腰を揺らしてしまう。薄い布越しに、硬くなった熱が擦れ合った。
「あぁっ。イデアル、もぅっ……」
お互いにすっかり興奮している。イデアルがようやく身体を起こすと、汗ばんだ肌にすうと空気が通った。
ネージュが脱がせる前にイデアルは自ら寝巻きを脱ぎ、ネージュの長衣の紐を解く。娼館の長衣は寝巻き代わりになら着ることを許してもらったのだけれど、理由は一本紐を解くだけで全てをさらけ出せるからだ。下着なんて身につけていない。
「ネージュ、綺麗だな……」
「イデアルこそ……。すごい」
自分なんて肌が白いことくらいしか自慢できるものはないが、イデアルの体は逞しく鍛えられた隆起が美しい。
今からこの男に抱かれるんだと思うと期待を押し隠せない。ネージュはうっとりと薔薇色に蕩けた目で見下ろしてくる男を見上げ、膝を開いて誘った。
「ね……。早く、しよ?」
「~~~っ、だから!」
一瞬硬直したイデアルが、ぶるぶると震えて怒った声を出す。その様子に、ネージュはハッとした。また自分はしたなく誘ってしまったらしい。
「あ。ごめ……んっ? は、あぁっ……!」
前触れもなく、イデアルの指が後ろを探った。香油は用意してあったけど、なぜかそこは濡れていて簡単に侵入を許してしまう。
二本目の指が挿入され柔軟を確かめるようにそっと広げられると、緊張と期待に背が震えた。
指先が抽送を繰り返すたび、柔らかな肉壁とのあいだでくちくち音を立てる。発情期じゃないからだろう、慎重にまさぐってくる顔は真剣だったが、指が決まった場所に触れるたびネージュは喘いでしまった。
「イデアッ、そこ……だめぇっ……」
「痛いか?」
「もっと……おっきいので擦ってぇ……あぁ、ん!」
自分を取り繕うこともできずに、ネージュは情けを請うた。指が引き抜かれる瞬間、そこはひくりと惜しむように痙攣する。イデアルの瞳はグレーがけぶり、中に炎がちらついて見えた。
「あ――あ、あっ……~~~!」
「……くっ」
腰を持ち上げられ、イデアルの熱が体の奥に触れる。あろうことか自分は何もしていないのに、受け入れるだけでいっぱいいっぱいで、まるで初めて誰かと体を重ねる心地だ。
奥まで繋がると、初めからこうするのが正解だったみたいな気がする。元は二人で一つの体で、離れていたことが間違っていたような。
もっと近づきたくて口づけを強請り、精一杯に伸ばした舌で口の中を舐め合った。何も言わなくても、吐息を交換するだけで心が通じ合っている。
この気持ちはなんなのだろう。気づけば目からしずくが零れていて、ひくっとしゃくり上げる。息を吞んだイデアルが眉を下げて顔を覗き込んでくるから、その優しい仕草にまた感動してしまった。
別に自分が可哀想な立場だなんて思っていない。卑下しているつもりなんてなかったけれど、こんな風に誰かが、ネージュを大切にしてくれていることが不思議でならない。
どうしてこの人に出会えたんだろう。どうして好きになって、どうして好きになってくれたの。
陳腐な表現を借りるしかない人の気持ちが今わかった。イデアルは、ネージュの『運命』としか言いようがない。吟遊詩人の語る恋物語が陳腐だったのは、それ以外に表現するすべがなかったからなのだ。
168
あなたにおすすめの小説
【完結】護衛騎士の忠誠は皇子への揺るぎない溺愛
卯藤ローレン
BL
――『皇帝の怒りを買い、私邸に幽閉された』という仄暗い噂を持つ皇子に会ったら、あまりにも清らかな人でした――
この物語の舞台は、とある大陸の最西端に位置する国、ファンデミア皇国。近衛騎士団に転属となったブラッドリーは、第四皇子の護衛騎士に任命された。実際に会ったその人は、とっても気さくでとってもマイペース、意外とちょっとやんちゃ。そして、市民から『英雄』と称され絶大に慕われていた。それは奇病――皇子が生まれながらに有している奇跡の力で、密かに国を救っているからだった。しかしその力は、多方面からめちゃくちゃに命を狙われる原因にもなっていて……。皇子に向く刃、ブラッドリーはその全てから身を挺して主人を護る。
襲撃されて、愛を自覚して、筋トレして、愛を育んで、また襲撃されて。
たったひとりの愛しい皇子を、護衛騎士は護って護って護り抜く。
主従関係の上に咲く激重な溺愛を、やかましい使用人ズと共に、しっとりめなラブコメでお送りします。
◇筋肉バカつよつよ年下騎士×マイペース花咲く年上皇子
◇21日からは12時と18時の2回更新。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
契約結婚の裏側で
riiko
BL
潤は付き合って十年の恋人から、ある日「俺、結婚する」と言われた。
順調に愛を育てたはずなのに、彼は会社のために結婚することを一人で決めた。「契約結婚」の裏側で自分を愛し続けようとする恋人がわからない。心の底から愛する人の愛人になるという選択肢は絶対になかった。
だが、彼の決断の裏にはとんでもない事情があった。それを知ったとき、潤は……
大人の男の十年愛を振り返りながら綴ります。
性描写の入るシーンには
タイトルに※マークを入れているので、背後にはご注意くださいませ。
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない
潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。
いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。
そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。
一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。
たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。
アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる