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しおりを挟む「ネージュ、……いいか?」
「ッ……うん」
イデアルの体温でネージュもぽかぽかしてきた頃、耳の裏の狭い空間で声が響いて心臓が跳ねた。なんだろう。それはまだ、得たことのない感覚で。
期待とときめきで、胸が苦しい。
イデアルは少しも離れたくないみたいに顔だけを持ち上げ、ネージュの唇に口づけした。ネージュよりも厚みのある唇が押し当てられるだけでドッと体温が上がり、思わず両腕をイデアルの首の後ろに回す。
下唇を甘噛みされた。
「あっ、……んぅ」
それだけで感じてしまい声を上げると、唇の隙間から舌が入ってくる。イデアルの舌まで熱くて、ネージュは一瞬火傷するかと思った。驚きが去れば今度は気持ちがよくて、誘われるまま舌をくちゅくちゅと絡め合わせる。
「ん……んぁっ……」
吸って、吸われて、口の中を余すところなく舌で擽られる。敏感な上顎に触れると、ぞくぞくとした快感が背筋を駆け下り、体の中心に溜まっていく。
キスだけをこんなに丁寧にしたのは初めてだった。キスだけでこんなに興奮することをネージュは知らなかった。
イデアルの手はネージュの肩から腕、脇腹まで輪郭を辿るように動き、腰骨を掴む。すると性器に触れられたかのような快感がビリビリと生まれ、腰を揺らしてしまう。薄い布越しに、硬くなった熱が擦れ合った。
「あぁっ。イデアル、もぅっ……」
お互いにすっかり興奮している。イデアルがようやく身体を起こすと、汗ばんだ肌にすうと空気が通った。
ネージュが脱がせる前にイデアルは自ら寝巻きを脱ぎ、ネージュの長衣の紐を解く。娼館の長衣は寝巻き代わりになら着ることを許してもらったのだけれど、理由は一本紐を解くだけで全てをさらけ出せるからだ。下着なんて身につけていない。
「ネージュ、綺麗だな……」
「イデアルこそ……。すごい」
自分なんて肌が白いことくらいしか自慢できるものはないが、イデアルの体は逞しく鍛えられた隆起が美しい。
今からこの男に抱かれるんだと思うと期待を押し隠せない。ネージュはうっとりと薔薇色に蕩けた目で見下ろしてくる男を見上げ、膝を開いて誘った。
「ね……。早く、しよ?」
「~~~っ、だから!」
一瞬硬直したイデアルが、ぶるぶると震えて怒った声を出す。その様子に、ネージュはハッとした。また自分はしたなく誘ってしまったらしい。
「あ。ごめ……んっ? は、あぁっ……!」
前触れもなく、イデアルの指が後ろを探った。香油は用意してあったけど、なぜかそこは濡れていて簡単に侵入を許してしまう。
二本目の指が挿入され柔軟を確かめるようにそっと広げられると、緊張と期待に背が震えた。
指先が抽送を繰り返すたび、柔らかな肉壁とのあいだでくちくち音を立てる。発情期じゃないからだろう、慎重にまさぐってくる顔は真剣だったが、指が決まった場所に触れるたびネージュは喘いでしまった。
「イデアッ、そこ……だめぇっ……」
「痛いか?」
「もっと……おっきいので擦ってぇ……あぁ、ん!」
自分を取り繕うこともできずに、ネージュは情けを請うた。指が引き抜かれる瞬間、そこはひくりと惜しむように痙攣する。イデアルの瞳はグレーがけぶり、中に炎がちらついて見えた。
「あ――あ、あっ……~~~!」
「……くっ」
腰を持ち上げられ、イデアルの熱が体の奥に触れる。あろうことか自分は何もしていないのに、受け入れるだけでいっぱいいっぱいで、まるで初めて誰かと体を重ねる心地だ。
奥まで繋がると、初めからこうするのが正解だったみたいな気がする。元は二人で一つの体で、離れていたことが間違っていたような。
もっと近づきたくて口づけを強請り、精一杯に伸ばした舌で口の中を舐め合った。何も言わなくても、吐息を交換するだけで心が通じ合っている。
この気持ちはなんなのだろう。気づけば目からしずくが零れていて、ひくっとしゃくり上げる。息を吞んだイデアルが眉を下げて顔を覗き込んでくるから、その優しい仕草にまた感動してしまった。
別に自分が可哀想な立場だなんて思っていない。卑下しているつもりなんてなかったけれど、こんな風に誰かが、ネージュを大切にしてくれていることが不思議でならない。
どうしてこの人に出会えたんだろう。どうして好きになって、どうして好きになってくれたの。
陳腐な表現を借りるしかない人の気持ちが今わかった。イデアルは、ネージュの『運命』としか言いようがない。吟遊詩人の語る恋物語が陳腐だったのは、それ以外に表現するすべがなかったからなのだ。
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