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期末試験の結果は悲惨だったけど、なんとか進級できるらしい。ミネットは試験勉強を理由に先輩を避け続けていたから、卒業式の日は顔を合わせることさえ久しぶりだった。
校舎の中央にある庭には、夏から秋にかけて咲く花が瑞々しく咲き誇っている。
「レヴリー先輩、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう。……寂しくなるね。ミネットと一緒に過ごした時間は長かったから」
ああ、やっぱりなんて素敵な人なんだろう。数週間ぶりの先輩は少し痩せて、疲れているようにも見える。
ただそれさえも彼の凛々しい美貌を際立てていた。少し伸びた紺碧の髪がさらりと目元にかかり、どこか色気のある陰を落とす。
卒業試験はただの期末試験より重みがあり、大変だったのだろう。全員が頑張ったに違いないのに、ぶれずに首席を守り続けたのだから本当にすごい人だ。
「……っ先輩! あの……あの。先輩のローブ、僕にいただけませんか?」
「…………!」
ミネットは告白をしない代わりに、ひとつのお願いをした。
卒業生は卒業式のあと、学校指定のローブを仲のいい人と交換する伝統がある。自分はまだローブが必要だからあげられないけれど、最後に先輩のものが欲しい。
同学年でも人気のある先輩は、もう誰かと交換してしまっただろうか? 不安になって眉を下げたまま、正面を見上げる。
「無理、でしょうか……」
「そんなわけない! 嬉しくて……最近避けられていたから、もう嫌われてしまったのかと」
「まさか! あの……僕も寂しくて。先輩が卒業して会えなくなると思ったら、現実を受け入れられなかったんです」
本当は妹と結婚してしまう現実を認めたくなかっただけだ。先輩が婿に来てミネットが卒業したら、夫婦生活を間近で見ながら生きていくことになる。
想像するだけでつらくて、勉強が手につかなかった。食欲も落ち、やせっぽちの身体はさらに貧相になった。
「尊死……」
「え?」
「いや、ミネットにも寂しいと思っていてもらえて安心した。俺のローブは君のためにある。もちろん貰ってほしい。……これも」
「えっ! 監督生のバッチは駄目ですよ!」
隼寮の象徴であるロイヤルブルーのローブを脱いだ先輩は、胸につけていた金色に輝くバッチをそのままに、ミネットへ差し出した。
ミネットが入学した翌年から寮の監督生であり続けた先輩。左胸の上にいつもあったバッチは、二人の間で陽光を受け煌めいている。
名門魔法学校の監督生バッチは、家によっては代々受け継ぎその数を競うほど価値のあるものだ。思い出のローブとは訳が違う。
「大丈夫。ミネットに持っていてほしいんだ」
「……いいんですか?」
駄目だと自分に言い聞かせても、そんな大切なものをあげたいと思ってもらえたことが嬉しい。学年を越えて仲がいいと感じていたのは自分だけじゃなかったのだ。
内に抱える意味がミネットと先輩では違うけれど。妹のためにも、先輩のものを貰うのはこれきりにしよう。
今日で最後だと強く決心して、ミネットは先輩のローブを受け取った。
成長と同時に買い替え、綺麗に手入れもされているけれど、先輩が数年使ったはずのローブだ。長さ以外自分のものと同じはずなのに、手の中にしっとりした重みと、先輩の優しい匂いを感じる。
先輩の存在を一番に感じられるものをもらってしまった心地だ。目の奥がじわっと熱くなる。
だめだ、やっぱりつらい。悲しい……。ミネットは浮かんでくる涙を堪えようと必死になって、つい言わなくていいことまで言ってしまった。
「あ……ありがとうございますっ。レヴリー先輩、卒業したらすぐご婚約されるんですよね?」
「っ……えっ!?」
「おめでとうございます。僕、家族が増えるの……嬉しいです。楽しみにしていますね」
「か、家族……」
「では。列車の時間があるので、これで失礼します」
そそくさと背を向け、寮に向かって歩き出す。顔を真っ赤にしてまで耐えた涙がぽろぽろと頬を流れていく。
でも、これでいい。先に泣いておけば、先輩が実家へ挨拶に来たとき、笑顔で出迎えられるはずだ。
夏の終わりを感じさせる涼やかな風が吹いている。ミネットを慰めるように、緑の中で色とりどりの花が揺らめいていた。
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