学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX

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 こそこそ喋っていると、あっという間に瑞の順番が来る。秀治を置いて仕切られたスペースに入ると中に教師が二人いて、検査は偶然にも桔都の友人である篠元と同じタイミングだった。

(げ)

 あれ以来、彼女に対して苦手意識が芽生えてしまったのは仕方がないと思う。赤いリップを拭き取りスカートを長くした篠元は仏頂面だ。

 教師は瑞を疑いもせず、細かいチェックは抜きにして「相良君は合格ね」と言った。指摘される心配もしていなかったので瑞がぺこりと会釈し、スペースを出ようとする。
 そのときだった。

「先生! 私だけじゃなくて、相良も髪を染めてると思いません? よく見てください。茶色いんです!」
「え、ええ~……? 分かった確認するけど、君は放課後生徒指導室に来るように。相良君、髪、見せてもらってもいい?」
「……はい」

 篠元が突然大きな声を上げ、もう一人の教師に向かって瑞を指さす。そうして勝手にスペースを出て行ってしまった。……びっくりした。

 教師に向かって瑞は「地毛なんです」と告げると、「だろうね」と彼も頷く。形式的に髪の根元に毛染めの痕跡がないことを確認して、もういいよと見送られた。

 いわれもなく疑われたことに、さすがに不快感を禁じ得ない。瑞がもやもやしながらスペースを出ると、あちこちから見られているのを感じた。
 ひそひそと瑞を見ながら話している人たちがいて、なんだか気持ちが悪い。

(……なんなの?)

 あとから秀治に聞いたところによると、篠元の声はスペースの外にまで響き渡っていたらしい。さらには出たあと「あいつだけ贔屓されてる!」と友人にまくし立てていたんだとか。

「あの女となんかあった?」
「ないと思うんだけど……怖いねぇ」
「他人事だな~。気が抜けるわ……」

 家に帰ってからは桔都に謝られた。桔都も実は篠元が苦手で、今日は特別機嫌が悪かったという。
 それでも一応友人だ。桔都の被っているキラキラした鎧には、他人と衝突を起こさないという大前提がある。

 感情の起伏が激しい人が苦手な瑞にとってそれは同情に値する。「気にしてないよ」と微笑んで伝え、桔都が無駄な罪悪感を覚えないよう努めた。実際、瑞は本当に気にしていなかったのだ。

 しかしながら、桔都と交流しなければその内収まるだろうと楽観的に考えていた彼女からの嫌悪は、いつしかその周囲にも影響を与えていった。





 次の授業のために廊下を歩いていると、サッカー部のエースみたいな顔をした男が真正面からやってきた。瑞が廊下の端の方へ避けたはずなのに、ドンッと肩がぶつかる。

「どけよ、天パ」
「あっ、すみませ……」
「アハッ。どんくさ」

 遠慮のなさを表すかのような、結構な衝撃だった。一緒にいたキーパーっぽいガタイの男が笑う。どちらも桔都の取り巻きとして見たことがある顔だった。

「瑞、大丈夫か?」
「うん。理科室、行こ」

 教室から遅れて追いついてきた秀治が心配そうに声を掛けてくるが、瑞は口角を上げて頷く。相手が笑っていたことに気づいたのだろう、秀治が振り向いて睨みつけるのを袖を引いて阻止した。

 こんなことが、最近頻繁にある。最初は偶然かと思っていたけれど、小さな違和感が積み重なって確信に至らざるを得なかった。

(すっごい、嫌われてるなぁ……)

 学校で桔都と関わらないようにしたときにはすでに遅かったのだろう。
 露骨な苛めなどではなく些細な嫌がらせばかりだが、貶されたり嘲笑されるのは地味に傷つく。肩とか普通に痛いし。

 でも瑞はこんなことでめげない。人の噂も七十五日と言うし、彼らは桔都にバレない前提で意地悪してきているのだろう。もし知っていたら、桔都は絶対に認めないはずだ。
 したがってこれ以上エスカレートすることもないはずで、こんなつまらないことすぐに飽きて止めてくれるはずだ。

 今の出来事を見て聞いていた人もいるはずだけど、学年のカーストトップにいる人たちに対し注意したり瑞を助けようとする勇気を持つ人はいない。
 トラブルにみずから巻き込まれたい人なんていないだろう。誰もが我関せずで目を逸らし、自然と瑞を避けようとするのだった。
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