いロ物ガタり

秋桜

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或る少年の一夜の話。

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少年は駆けていた。
暗い夜を駆けていた。
もう何時間も走っているかのような心地であった。
空腹と苦しさで吐きそうな気分であったが、少年には関係なかった。

少年は仲間から『ギン』と呼ばれている。
いや、正確には呼ばれていた、というべきだろうか。
ギンは貧民街で一月ばかり暮らしていた。
その持ち前の人懐っこさで直ぐに‘仲間’と呼べるものを手に入れた。
貧民街といえども、ギンは一時の平和を手に入れたのだった…が。

ギンは今追われている。
親が借金をしたまま逃げたからだ。
ここらでは呼吸と同じ様に当たり前にある話である。
だから、ギンは逃げて居た。
仲間から逃げて居た。
親にさえバケモノと言われた、銀色の髪を綺麗だと言ってくれた仲間から。

ギンは自分がどうなろうとどうでも良かった。
ただ、仲間には迷惑をかけたくは無かった。
ギンは仲間から逃げ続けた。

そんな時だった。
此の黒には余りにも似合わない呑気な色が投げ込まれたのは。

「ふわぁあ~。…オレ、まだぁー?」

癖っ毛の深緑の髪を持つ、天使かと見間違えるかの様な者だった。
涼やかに鳴る、夏の風鈴の様な声であった。

「…あとーもーちょっと!」

問いに答えた声は、明るく響く。

その後のことをギンはよく覚えて居ない。
矢張り大人と子供…ということなのだろう。
ギンを追う者に追いつかれてしまったからだ。
何か硬いもので強く殴られた様な衝撃が頭を襲い…途切れて霞みがかったギンの記憶に残ったのは或る一つの言葉だけーー。

薄く笑い、その者たちは其れを告げる。
罪にさいまれる人に無慈悲にも…まるで死刑宣告かの様に。

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