朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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旅立ち編

四本目『潜みし牙を持つ者』①

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 セネリス連合王国。
 アイウス、グテルム、デフィデレ、アルドロフィトの四つの国によって形成される物的同君連合の国であり、国王と議会の仲は悪くないものの、議会の発言力が強い傾向が見られる国でもある。
 三人が向かうアイウスでは議員が亡くなり、現在アイウスの議員席を巡って、ヴォゴンディ家とムグラリス家は争いの準備を着々と進めている段階であった。

「いつ本格的に争いになるか分からんからな、出来れば近付かないでおきたい所ではあるのだが……他所の国に行くにも、そこを通らねばならないからな……」

 パジェットは仕方ない、と溜息混じりそう説明してくれる。

「争いって……議員ってそんなに重要なの?」

「議員って名前だけど、その実質は一国の主だからねぇ……にしても、こんな世界になっても権力争いとは、人間ってのは適応力あるよね~」

 デクスターの言葉に、セオドシアは呆れたような口調で皮肉を飛ばす。


 地図を持ち、この辺りの地理に詳しいというパジェットに従い、一行はアイウスへと向かっていた。
 砂漠越え、山道に入り暫く歩くと、やがて前方に巨大な壁が見えてきた。
 高さはおよそ十メートル程だろうか。その向こうに港らしきものが見える。

「あそこから旅客船に乗って行けばアイウスに辿り着ける。乗船出来るか聞いてくるから、少しここで待っていてくれ」

 そう言い残し、パジェットは門番の方へと歩いて行く。
 門の前には船を待っているであろう人達が、ぞろぞろと集まっていて、デクスターは初めて見る大勢の人間に面を喰らっていた。

「うわぁ……こんなに人が集まってる所、僕初めて見たよ……」
「そうかい、それじゃあ慣れなきゃな。これからもっと大勢の人のいる所に行くのだからね」

 そんな、セオドシアの何気無い一言に、デクスターは胸を踊らせる。
 この旅を初めてから命の危機ばかり感じていたが、やっと憧れの旅の形に近付けた様な気がして、出発を待ち遠しく思う気持ちが強くなっていた。
 しばらくすると、パジェットが二人の元へと戻ってくる。

「馬は後で別の船に乗せなくてはならないが、三人分は取れた。荷物の申請はしておいたからあそこで目薬を点しておけ」
「目薬? なんで?」

 デクスターがそう聞くと、パジェットには「行けばわかる」とだけ言われ、門に押し込まれる。

「一体なんだって言うんだ……あっ、そう言えばセオドシアのケースの中身、見られてもいいの……?」

 前に一度、セオドシアのケースの中身をデクスターは見た事があり、その時見た時にはケースは底無しの深淵であり、不審極まりない代物である事は間違い無かった。そんな彼の心配を他所に、セオドシアは自信満々な表情をしている。

「ヒッヒッヒッ……このケースはただ収納が便利というだけでは無いのだよ……まぁ、見ていたまえ」

 セオドシアは門番の前に行き、ケースを開く。
 すると、どう言うわけか中に広がっているのは深淵ではなく、普通の旅行鞄に入っている様な衣服だとかの諸々が入っていた。

「ふむ……通ってよし。向こうで目薬を点してから入国して下さい」
「はいは~い、お勤めご苦労様でーす」

 ほら言っただろう? と言いたげなドヤ顔とウィンクをセオドシアはデクスターに向ける。思えば、セオドシアは自分と出会う前から旅をしているのだから、こういった場面は自分よりも慣れっこなのだろう……

「いや、慣れてたら地図持ってるか……」

 セオドシアに続きデクスターも荷物検査を終えると、パジェットの言う通り目薬を点される。

「あの……これって何の意味が……」
「ん? そのまま中に入っては目をやられてしまうので……これはその予防です」

 予防? 目をやられる? 意味がわからなかったが、門番に促され、デクスターは恐る恐る、港に向かう為に壁の内側へと入っていく……。

「……わぁ~!? スゴ~イッ!!」

 淡い紫の光に一瞬眩むと、デクスターの目の前に広がっていたのは透き通る程に青い空と青い海であった。
 初めて感じる強い日差しに、肌が少しチリチリという痛みさえも、デクスターの胸を震わせるには十分だった。

「先の目薬は環境に適応出来るよう魔術の施された特別性で……擬似太陽の空を見るのは初めてだと思ってちょっとしたサプライズのつもりなのだが、どうだろうか?」
「最高だよパジェットさん! ありがとう!!」

 デクスターは煌めく太陽に負けないくらいの笑顔を見せると、パジェットもその頬を緩め、優しい表情になる。

「でも、外からは暗く見えたのにどうして?」
「結界が貼ってあって無駄に霊力を使わないように、それと月住人に灯りによって集めない様にするための二つの役割を担っているんだ」

 パジェットの説明に感心していると、旅客船の上からセオドシアの声が聞こえる。

「先生~!! その話長くなりそうですか~? そんないつでも出来そうな話するくらいならさっさと乗りましょうよ~!!」
「……全く、こちらの空気を察して貰いたいものだな……」
「アハハ……まぁ、セオドシアの言う通り、さっさと船に乗ろうか。大きい船も初めてだし」

 こうして、三人はアイウス行きの船に乗り込み、出発するのであった。
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