朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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アイウス編

七本目『糸を紡ぐ者』①

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 一人、ベッドで横になるセオドシアは、窓の外に見える枯れ木に必死にしがみつき、生きながらえようとする一枚の葉に己を重ねていた。

「嗚呼……あの枯葉が落ちた時私は──……」
「フンヌゥッ!!」」

 パジェットは、セオドシアが己と重ねていた枯れ木にベアーハグを仕掛け、陽光を差し込む為の新たな景観を手に入れる。

「じゃないだろォォォッ!? 何やってんだ君は!? 落とすにしても葉っぱだろ根本からいくやつがあるかい!?」
「怪我人の癖に元気だな……葉っぱだとかなんとかは知らんが、鍛錬の最中だ、邪魔するな」
「木をハグでへし折る邪魔って何っ!? てか前々から疑問だったんだけど、君、本当に人間!?」

 中和役であるデクスターが買い出しで不在だろうと、二人が別に仲良くなったりする訳では無い。死霊術師と退魔師による高度な争い(笑)は場所を選ばなかった。

「「ギャーギャーッ‼︎  ワァーッワァーッ‼︎」」
「まぁまぁ……本当にアナタ達は仲が──……」
「良くない(です)よッ!!」」

 そんな風にして過ごしていると、教会の扉を何者かが来訪してくる。

「おっ? デクスター君帰って────無いな、誰ぇ? 君」

 入って来たのは、兵士の格好をした男だった。男は、息を整えると、その場に居る三人に向かって口を開いた。

「突然の訪問失礼しました! 私はムグラリス家当主様より遣わされた伝令であります!」
「伝令……? 一体何を伝えに来たのだ?」
「『影から移る者クラヴィス』を倒した事で何か御礼が貰えるとか~?」

 セオドシアがそんな風に口にすると、伝令の兵士は深刻そうな顔をして言った。

「実は……そのクラヴィスを倒したデクスター氏が……先程攫われました」

 ◆◆◆

「───うぅん……」
「お? 気が付いたみたいだな」
「ここは……何処だ?」

 薄暗い部屋の中で目を覚まし、身動きを取ろうとすると、両手首を硬い糸の様なもので繋がれ、吊るして拘束された状態だった。

(なんだこの糸……いや、それよりも……)

 聞き覚えのある声の方向を向けば、そこには頬にそばかすをこさえた、茶髪の少年が、ニヤけた面でデクスターを見ていた。

「ここは俺達の家さ、えーっと……デクスター、で合ってるよな?」
「君は……あの時の財布泥棒か!?」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はリゲル。まぁ気軽に呼び捨てで構わないぜ。あぁそれと、荷物は預からせて貰ってるぜ」

 そう言って人差し指と中指の間に挟んで取り出したのは、デクスターの父であるヘールの形見の金貨だった。

「ッ!?」

 デクスターはそれを見ると、瞳孔が見開き、喉笛を噛み切ろうとする勢いで飛び掛かる。しかし、手首に繋がれた糸によって、それはリゲルの鼻先を少し掠めるだけで失敗に終わる。

「おぉっと!」
「汚い手でそれに触るな……どうせお前なんか、便所の後手も洗って無いんだろう……クソ野郎……!!」

 繋がれた糸によって手首が千切れ様とお構いなしと言わんばかりの力を込め、リゲルを睨んでそう言い放つ。

「おいおいひでぇな、ったく……キャラ変わっちまうくらいコレが大事なのかぁ?」
「──そこまでにしておきなさいリゲル。拘束しているとは言え、彼を甘く見ていると痛い目を見ますよ」

 ふと、部屋の奥の方から声が聞こえてくると、リゲルは甘える子供の様な顔になって声のした方へと振り向く。

「母さんっ!!」
(母さん……? 僕を攫う様に命令した人か……)

 暗がりの中から、声の主が歩いてくる。
 そして、その姿が露になると、デクスターは驚愕のあまり口を鮒の様に開き、硬直してしまう。

(月住人ムーン=ビースト!?)

 現れたのは、巨大蜘蛛の胴体の上に、朱殷色の着物を着た女性の肉体が生えた姿をした月住人だった。その髪は煌びやかな簪によって着飾られ、六つの単眼にはデクスターの姿が反射されていた。

「初めまして、私は『糸を紡ぐ者チェリーザ』と言います。少々乱暴に連れて来てしまい、申し訳ありません」

 そう言うとチェリーザと名乗る女性は深々と頭を下げる。それを見たデクスターは動揺を隠しきれずにいた。

(……嘘だろ?)

 目の前にいる女性は月住人で、人間の子供を母と名乗っている。
 それだけでも驚くに値するが、この場合取り上げるべき問題はという点だろう。今までの月住人では自身の名を名乗れる程の言語は扱えず、精々が唸る程度だった。だと言うのに目の前の彼女は流暢な言葉を喋り、自身に向かって深く頭を下げる人間の礼儀も心得ている。
 知能があるのだ。
 それだけで、目の前の月住人が今までとは別格であると判断するには十分だった。

「お前は一体……目的はなんだ……!?」

 恐怖を振り払い、声を張り上げてそう尋ねると、チェリーザはその口元に笑みを浮かべてこう答える。

「そう緊張しないで……寧ろこれは喜ばしい事ですよ? ただの人間である貴方が、『あの方』に興味を持って貰えるだなんて……」
「『あの方』……? (単独の犯行じゃあない? 彼女より上の黒幕が存在するのか……? クソッ……情報量が多い。意味不明なのはセオドシアだけにしてくれ……)」

 そんな愚痴を心の中で溢した時だった。突然、頭上から、どん、と破裂する様な音が聞こえた。勢いよく、何かが打ち付けられた様な響きを持ったそれによって、パラパラと屑が天井から降って来た。

「なっ!? 今度はなんだっ!?」

 怒涛の展開に焦るデクスターだが、一方でチェリーザは全く動じず、リゲルに指示を出した。

「おやおや、どうやら激化した様ですね。リゲル、上へ行き皆を手伝って来なさい」
「はい、母さん!」

 そう返事をしたリゲルは勢いよく走り出し、その場にはデクスターとチェリーザの二人きりになった。

「何だ……上って……ここは何処なんだ!?」

 デクスターは、目覚めた時にした一番最初の質問を改めてチェリーザに投げかける。するとチェリーザは六つの単眼全てで彼を睨み、答えた。

「ここは砦……戦場の、ど真ん中ですよ」
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