朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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旅立ち編

二本目『罪を裁く者』《前編》②

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「……ん……んん~……?」
「セオドシア! よかった……薬が効いたんだな……」
「デクスター……くん? ……ここは一体……」

 セオドシアが目を覚ますと、そこには焚き火の炎に赤々と染まったデクスターの四心配する表情の他、気絶する前に居たはずの砂漠とは打って変わって背の高い木々が存在し、ここが森の中であると理解する。

「森? ……君があの後倒れた私をここまで運んだのかい?」
「あぁ~……そうじゃないんだ、実は……」
「ボクが君をここまで運んで、増血剤を打ったんだ」

 声のした方を向くと、丸太に腰掛ける退魔師と名乗った人物が、セオドシアの方を向き説明した。

「君は……?」
「退魔師の人だよ! 僕達をあの砂漠から運んで来てくれたんだ! えっと、名前は……」
「パジェット・シンクレアだ。デクスターから大体の事情は聞いているよ、ホワイプスの群れに追いかけられるとは災難だったね」
「ほんとですよ~……けどセオドシアのお陰でなんとか──……」
「話したのかい? どうやって助かったとか……私の事を?」

 デクスターが先程起こった災難を振り返ろうとすると、セオドシアが鋭く尖った口調で遮って止める。

「え? どうしたんだよ? 話したかって……命の恩人に聞かれたらそりゃ話すだろう?」
「チィッ!! 全く余計なことしてくれるよ!!」

 そう言ってセオドシアが立ちあがろうとすると、突如赤黒い茨が現れ、彼女を転倒させ、動けなくする。

「ぐあッ……!?」
「セオドシアッ!?」
「動かないで、君もだ。そこの死霊術師には既に茨の種を『植え付け』させて貰ったからね」

 そう言うと退魔師は、茨をセオドシアの皮膚から突き破る音がするまで食い込ませる。

「ああッ!? ……クソッ!! やっぱこうなるか……!!」
「な、なんで……なんでこんな事するんだよ!?」
「理由? そんなの、彼女が死霊術師以外にあるのか?」

 その言葉に、デクスターは前にセオドシアにも聞いた噂の事を思い出す。噂の内容は『死霊術師は現在も月住人の増加に加担している』というものだ。

「違うんだ!! セオドシアは確かに自分勝手でわがままな性格だけど……」
「おいっ!? フォローするならそこ言わなくていいだろう!?」
「だけど……お父さんの件では僕を助けてくれたり……兎に角、悪いヤツじゃあないんだ!!」

 デクスターがそう訴えかけると、パジェットは怪我をして帰ってきた子供を見る親のような目をした後、恐ろしく厳粛げんしゅくな顔になってそれを否定する。

「それは君の認識だろ? ボクの認識はね、子供を自分の都合の良いようにだま す小狡こずるい死霊術師……それに尽きる。それに、彼女の肉体には彼女以外のおぞましい魂達が数え切れないほどうごめいているじゃあないか。それはどう説明を付けるんだ?」
「それは……その……」

 言い返そうにも、魔術の知識なんて一ミリも持ち合わせないデクスターは困ってしまい、そのまま黙り込んでしまう。すると、茨で拘束されていたセオドシアが、交代するように叫び出す。

「ああ~クソッ!! 退魔師は相変わらず頭が堅いなぁ!! だから嫌いなんだ!!」
「ボクもだ、お前達死霊術師の魔術は見るに耐えない穢れた術を使う。ハッキリ言って大ッ嫌いだね!!」

 セオドシアの挑発に、パジェットも負けじと同じか、それ以上の熱量で言い返す──すると、セオドシアはデクスターの方を向き直り、

「ほら見ろっ!! 君のせいで退魔師が私に敵意むき出しじゃないか! なんとかしろ!」

 と、怒りの矛先を急カーブさせてデクスターの方へと浴びせる。

「僕っ!? 今勝手にあおったんだろう!? 僕は比較的穏やかに事を済ませようとしたじゃあないか!!」
「穏便に済ます? へぇ、そりゃ有り難い、それなら勝手に私の正体明かしてもいいよな!?」
「だってだって!! 最初に会った時だってセオドシア普通に名乗ってたじゃん!?」
「静かにしろッ!!」

 言い合う二人に対し、パジェットは雷のような激しい声を浴びせ、その場をシン……と静まり返らせる。

「ボクは野蛮人ではない、君が憎き死霊術師とは言え、この場での断罪はしない。教会に引き渡し、その後の処遇を任せるとする。もういいか? 枝を集めてくる」
「あっ、待って……!!」

 デクスターは去り行く彼を呼び止めるが、相手にされず、二人残される事となった。

「……よし行ったな。フハハハ!! 馬鹿め堅物退魔師……おいデクスター君、私のアタッシュケースを持ってくるんだ。この状態でも血液を付着させれば……」

 セオドシアが魔王のような高笑いで勝ち誇ると、デクスターは申し訳なさそうな顔をする。

「あぁ~……それはあの人も対策してたっぽいよ……?」

 そう言って指差した方を見ると、セオドシアを拘束しているのと同じ赤黒い茨が、セオドシアのアタッシュケースをぐるぐる巻きに封じ込めていた。

「わぁ~、あれじゃあ開かないなぁ~……よし、プランBを考えるぞ!!」
「ぼ、僕がなんとか切ってみようか!?」
「それだ! 私の血液を使いたまえ!!」

 セオドシアは自身の唇を噛み切り、デクスターが狩りで得た獲物を捌くためのナイフに血を垂らす。

「クソ……鉄はやりにくいな……よし! これで──……」
「……──あっ」

 切れる。そう言おうとした瞬間、パキンッとナイフの折れる音がする。

「「…………どうしよう……」」

 二人は一緒になって唸り声を上げながら考えていると、パジェットが薪を抱えて戻ってくる。

「さて……長旅でかなり汚れているだろう。近くに川がある、そこで水浴びをするといい」
「するといい……って私はこの通り拘束され、鼻すらも掻けない状態なんだが?」
「大丈夫だ、ボクが洗ってやるから問題な──……」
「えぇッ!? 洗うのッ!?」

 異性の体を洗うというパジェットの発言に、デクスターは思わずど肝を抜かれた声を出して遮り──沈黙したままこちらを見る二人の視線に傷まれなくなる。

「……う、ウォホンッ!! ゴホンッ!! ……い、いや~残念だなぁ~……一番風呂は譲るよぉ~……」
「川だから一番風呂とかなくないかい……?」
「まぁ……なんだ……そんなに先に行きたいなら先に洗ってきてもいいよ?」

 困惑した様子でそんな言葉を投げかける二人に、デクスターは裸を晒したくらいの屈辱的な思いに陥っていた。

「クソ……僕か? 僕がおかしいのか……?」

 それからしばらくして、水浴びを終え、さっぱりした様子のセオドシアが戻ってくる。

「ふぅ~……スッキリ……」
「さぁ、デクスターも行ってくるといい。一番じゃないけれど……構わないね?」
「うっ……大、丈夫……デス……」

 パジェットの何気ない一言に傷付き、顔をうつむかせながら川まで向かう……すると、セオドシアと通り過ぎようとした時、彼女から耳打ちをされる。

「いい事思い付いたから後で」

 それだけ言われ、彼女は完全に通り過ぎる。デクスターは驚いた表情で聞き返しそうになるが、パジェットにその思惑を悟られる可能性を考え、顔を俯かせたまま川へと向かう。

「なんか……嫌な予感がするなぁ……」
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