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二章_本編
十一話
しおりを挟む「兄上…、、」
「ヴィ……、、んっ…!」
俯きながらそう言うヴィンセントに慰める為、口を開こうとしたがその口からでた声は自分でも聞いたことがない程の甘い声だった。
な……今のって俺の声か? こんな甘い声聞いた事がない。
咄嗟に掴まれた手を振り払い、ヴィンセントの胸を押しのけ。
俺は咥えられた指と逆の手を自分の口に抑え、真っ白な頭を動かそうと目の前にいるヴィンセントを見つめる。
「なっ、、兄上! すみません。……どうしても兄上の指を噛んだアイツが忘れられなくて、」
そう言いながらあたふたするヴィンセント。
その動きには勿論俺に対し申し訳ないという気持ちがあるのは知っているが。
どうして此奴は頬を赤らめているのだ……。
そう呆れながらもまだ赤い顔を手で隠しながらヴィンセントに背を向ける。
その様子を見たヴィンセントは焦ったような声で俺に近づき振り向かせようとしてくる。
「兄上、やっぱり怒ってますよねっ?! 本当にすみませっ…! 」
そう泣きそうな声で話すヴィンセントの声が後ろから聞こえる。
そして急に声がしなくなったと思いチラっと振り返ると足を踏み外し湖に落ちかけるヴィンセントが見えた。
今の季節は秋だ。流石にこの時期に冷たい水に入るなんてバカな俺でも不味い事は分かる。
だから俺は咄嗟にヴィンセントの手を掴む。
けれども勢いが付けたヴィンセントを止められる筈もなく俺達二人は水の中に落ちた。
深い、深い湖に落ちていく…。
(勘弁してくれ…、俺は生まれてこの方泳げた事がないんだ。…このまま死ぬ…のか。)
息が続かなくなって意識が遠のきかける俺に必死に手を伸ばし、此方に泳いでくるヴィンセント。
ふいに抱きしめられた感覚と共に上に上がる感覚。
そして険しい顔をしながら必死に泳ぐヴィンセント。
俺は水の中でも分かるその温かさに身を寄せその顔をうっすらと開く瞳で見つめた。
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