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空白の十日間
episode3.5 生徒会長の性癖
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生徒会室の扉を開けると、そこには二人の生徒がいた。しかし、両方とも男子生徒である。会長のデスクの上に腰をおろしながらヒデくんと談笑する彼は、私のほうを見るとヒラヒラと手を振ってきた。
「やあやあ書記ちゃん、久しぶり」
「お久しぶり、スグルくん」
丸メガネに天然パーマのいかにも軽薄そうな彼は大野傑。ヒデくんとは幼馴染で本人いわく腐れ縁。遅刻魔、サボり魔、宿題忘れの常習犯。学年一の問題児だが、頭脳はピカイチ。定期テストでは常に学年三位をキープしている。ちなみに、学年上位三名のことを三大才人と呼ぶ人もいる。天才しーちゃん、秀才ヒデくん、奇才スグル。ただの書記である私にとっては遠い世界の話だ。
「なあ、聞いてくれよ。この暴君が俺の宝物を没収しやがったんだ。親切心から見せてやったっていうのにさ。書記ちゃん、この邪智暴虐の王から学校を奪還すべきだよ。これじゃあ、市民は心配で夜しか寝られない」
よく見ると、ヒデくんのそばにいかがわしい青年誌が置かれている。表紙には「美うなじ特集」と書かれている。ヒデくんはスグルくんを短刀で刺すような目つきで睨みつけた。
「生徒会長の前で堂々と校則を破るお前がバカなんだ。それに、どうせ没収させるならもっとマシなもんにしろ。ウチは女子が二人もいるんだぞ」
「硬いこと言うなよヒデ。昔、一緒にエロ雑誌を漁った仲じゃないか」
私が目を丸くしていると、スグルくんが喜々としてヒデくんの秘密を暴露する。
「意外だろう? 昔のコイツは、石工もびっくりするほどの鉱物みたいな堅物だったんだ。人一倍邪悪に敏感で、愛と信実しか信じられないような寂しい奴でな。だから、俺が悪いことを教えて、角をとってやったんだ。いまの爽やか生徒会長があるのも俺のお陰なんだぜ?」
「悪いことって?」
私が訊ねると、ヒデくんの顔が真っ青になった。一方のスグルくんは目を宝石のように輝かせる。
「よくぞ聞いてくれた。それじゃあ、とっておきを話してやろう。これはコイツがいま以上に多感だった中学二年生のときの話だ。コイツが俺の家に来たとき、コイツは俺の部屋の棚から……」
ヒデくんは没収した雑誌を丸めると、勢いよくスグルくんの頭を叩いた。パチンという大きな音が響く。ヒデくんは半泣きになりながら叫んだ。
「この悪党め! それ以上口を開くなら、お前がうなじフェチなことをバラすぞ!」
「いや、もうバラしてるし。っていうか、うなじフェチはお前のほうじゃん」
私は反射的にうなじを隠す。その様子を見たヒデくんは魂が抜けたみたいに、ドサッと椅子に腰を落とした。彼は悄然とした様子で呟く。
「正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。ああ、何もかも、ばかばかしい。俺は、醜い変態だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉」
ーー四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
スグルくんは「やれやれ」と呆れて、
「書記ちゃん、いつもの頼んでもいい?」
私は苦笑いしながら了承した。
ケトルでお湯を沸かしている間に、よっこいしょとコーヒー豆をとる。今日はほろ苦いマンデリン。スプーンで豆をすくってミルに入れる。しーちゃんもすぐ来るだろし、今回は四杯。挽いた粉をペーパーフィルターにサッサと入れ、ケトルのお湯で粉を蒸らす。二十秒経った後、ゆっくりと円状にお湯を注ぐ。甘党さんが二人もいるのでミルクを入れてカフェオレにした。
「ヒデくん、これ飲んで元気だして」
両手でマグカップを一口飲む。まるで清水でも飲んだかのように、瞳に生気が宿った。
「こんなにおいしいコーヒーを淹れてくれるなんて、俺は信頼されているんだな」
どうやら悪魔の囁きから開放されたようだ。ほっと肩を撫で下ろす私に、スグルくんはポンポンと肩を叩く。
「それじゃ、後は頼んだ。コイツはバカ正直なだけで、悪い奴じゃあないからさ、くれぐれも誤解しないでくれよ」
なんだかんだで友人思いなスグルくん。私はニッコリと笑って肯いた。スグルくんが退室すると、ヒデくんは大きなため息をついた。
「書記ちゃん、俺を殴れ。力一杯に頬を殴れ。俺は、何度か、君のうなじを邪な目で見た。君が若し俺を殴ってくれなかったら、俺は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ」
「身の程を知るべし」。ヒデくんは学年一の人気者。対する私はただの書記。むしろ私のほうが、抱擁する資格もなければ、殴る資格もない。だけど、ヒデくんの目を見るに、どうやら彼は本気らしい。
しかたない。私が青年誌を丸めて、彼の頬を叩こうとしたその瞬間、がちゃりと扉が開く音がした。
「おつかれー……って、二人とも、何してるの!?」
しーちゃんは思わず後ずさりをする。生徒会長にドM疑惑がかかったのだ。ヒデくんが慌てて私の持っていた青年誌を奪い取り、言い訳をする。
「違うんだ、しーちゃん。すべてはコイツのせいなんだ」
ヒデくんが持ついかがわしい青年誌を見て、しーちゃんは目をそらしながら、緋色のスポーツタオルを首にかけた。ヒデくんはまごついた。書記は、気をきかせて教えてやった。
「ヒデくん。しーちゃんは、生徒会長の性癖の餌食になるのが、たまらなく怖いいんだよ」
生徒会長はひどく赤面した。
「やあやあ書記ちゃん、久しぶり」
「お久しぶり、スグルくん」
丸メガネに天然パーマのいかにも軽薄そうな彼は大野傑。ヒデくんとは幼馴染で本人いわく腐れ縁。遅刻魔、サボり魔、宿題忘れの常習犯。学年一の問題児だが、頭脳はピカイチ。定期テストでは常に学年三位をキープしている。ちなみに、学年上位三名のことを三大才人と呼ぶ人もいる。天才しーちゃん、秀才ヒデくん、奇才スグル。ただの書記である私にとっては遠い世界の話だ。
「なあ、聞いてくれよ。この暴君が俺の宝物を没収しやがったんだ。親切心から見せてやったっていうのにさ。書記ちゃん、この邪智暴虐の王から学校を奪還すべきだよ。これじゃあ、市民は心配で夜しか寝られない」
よく見ると、ヒデくんのそばにいかがわしい青年誌が置かれている。表紙には「美うなじ特集」と書かれている。ヒデくんはスグルくんを短刀で刺すような目つきで睨みつけた。
「生徒会長の前で堂々と校則を破るお前がバカなんだ。それに、どうせ没収させるならもっとマシなもんにしろ。ウチは女子が二人もいるんだぞ」
「硬いこと言うなよヒデ。昔、一緒にエロ雑誌を漁った仲じゃないか」
私が目を丸くしていると、スグルくんが喜々としてヒデくんの秘密を暴露する。
「意外だろう? 昔のコイツは、石工もびっくりするほどの鉱物みたいな堅物だったんだ。人一倍邪悪に敏感で、愛と信実しか信じられないような寂しい奴でな。だから、俺が悪いことを教えて、角をとってやったんだ。いまの爽やか生徒会長があるのも俺のお陰なんだぜ?」
「悪いことって?」
私が訊ねると、ヒデくんの顔が真っ青になった。一方のスグルくんは目を宝石のように輝かせる。
「よくぞ聞いてくれた。それじゃあ、とっておきを話してやろう。これはコイツがいま以上に多感だった中学二年生のときの話だ。コイツが俺の家に来たとき、コイツは俺の部屋の棚から……」
ヒデくんは没収した雑誌を丸めると、勢いよくスグルくんの頭を叩いた。パチンという大きな音が響く。ヒデくんは半泣きになりながら叫んだ。
「この悪党め! それ以上口を開くなら、お前がうなじフェチなことをバラすぞ!」
「いや、もうバラしてるし。っていうか、うなじフェチはお前のほうじゃん」
私は反射的にうなじを隠す。その様子を見たヒデくんは魂が抜けたみたいに、ドサッと椅子に腰を落とした。彼は悄然とした様子で呟く。
「正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。ああ、何もかも、ばかばかしい。俺は、醜い変態だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉」
ーー四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
スグルくんは「やれやれ」と呆れて、
「書記ちゃん、いつもの頼んでもいい?」
私は苦笑いしながら了承した。
ケトルでお湯を沸かしている間に、よっこいしょとコーヒー豆をとる。今日はほろ苦いマンデリン。スプーンで豆をすくってミルに入れる。しーちゃんもすぐ来るだろし、今回は四杯。挽いた粉をペーパーフィルターにサッサと入れ、ケトルのお湯で粉を蒸らす。二十秒経った後、ゆっくりと円状にお湯を注ぐ。甘党さんが二人もいるのでミルクを入れてカフェオレにした。
「ヒデくん、これ飲んで元気だして」
両手でマグカップを一口飲む。まるで清水でも飲んだかのように、瞳に生気が宿った。
「こんなにおいしいコーヒーを淹れてくれるなんて、俺は信頼されているんだな」
どうやら悪魔の囁きから開放されたようだ。ほっと肩を撫で下ろす私に、スグルくんはポンポンと肩を叩く。
「それじゃ、後は頼んだ。コイツはバカ正直なだけで、悪い奴じゃあないからさ、くれぐれも誤解しないでくれよ」
なんだかんだで友人思いなスグルくん。私はニッコリと笑って肯いた。スグルくんが退室すると、ヒデくんは大きなため息をついた。
「書記ちゃん、俺を殴れ。力一杯に頬を殴れ。俺は、何度か、君のうなじを邪な目で見た。君が若し俺を殴ってくれなかったら、俺は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ」
「身の程を知るべし」。ヒデくんは学年一の人気者。対する私はただの書記。むしろ私のほうが、抱擁する資格もなければ、殴る資格もない。だけど、ヒデくんの目を見るに、どうやら彼は本気らしい。
しかたない。私が青年誌を丸めて、彼の頬を叩こうとしたその瞬間、がちゃりと扉が開く音がした。
「おつかれー……って、二人とも、何してるの!?」
しーちゃんは思わず後ずさりをする。生徒会長にドM疑惑がかかったのだ。ヒデくんが慌てて私の持っていた青年誌を奪い取り、言い訳をする。
「違うんだ、しーちゃん。すべてはコイツのせいなんだ」
ヒデくんが持ついかがわしい青年誌を見て、しーちゃんは目をそらしながら、緋色のスポーツタオルを首にかけた。ヒデくんはまごついた。書記は、気をきかせて教えてやった。
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生徒会長はひどく赤面した。
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