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1章

アンドロイドは趣味を持てるのか

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話がひと段落すると、俺はタロスから風呂に入るよう進められた。
赤面しながらくんくんと自分の服の匂いを嗅いでみせると、タロスは何をしているんだと困惑し、自分の発言の意図を話し始める。
どうやらこのアンドロイドは俺がシャワーを浴びている間に、夕飯を作ってくれようとしてくれているらしかった。
外見だけ見ればボディガードや兵士のようにしか見えないのに、掃除や介護ロボットのように彼は人間の身の回りの世話もできるらしい。
ゲームをするために急いで帰ってきたせいか体中汗ばんではいたので、俺はアンドロイドの提案をありがたく受け入れることにした。
シャワーで一日の疲れを洗い流し、のんびり浴室から出ていくと、リビングにあるテーブルには宣言通り料理が並べられている。
今日の夕飯は綺麗に揚げられたコロッケに、スライスしたゆで卵の入っているポテトサラダ、汁物(つゆもの)としてオニオンスープまである。
料理の品数の多さに、俺は思わず感嘆の声をあげた。
一人暮らしが長いこともあって、俺もある程度は料理を作ることができる。
しかし、2品以上のオカズを作ることはマレだった。
一人で色んな料理を作っても食べきれないし、毎日作るとなると調理時間も馬鹿にならない。
「これ、全部食べていいの?」
俺が尋ねると、タロスは椅子を引いて俺に座るように促した。
高級レストランか、ここは。
そうツッコミをいれたくなったが、タロスは至極真面目に振舞っている。
こういう状況に慣れてない俺は、失礼しまーすと頭を下げながらいそいそと席についた。
「タロスは食べないの?」
執事のように背後に控えているタロスに、俺は思わず尋ねてみた。
正直な話、自分だけバクバクご飯を食べるというのは、なんだかちょっと気まずい気がした。
それに、食事をしている姿を一方的に見られるというのは、こう、上手く説明できないが、恥ずかしい。
「それがお前の望みなら、断りはしないが……。アンドロイドが人間の食べ物からエネルギーを摂取できないのは知っているよな?」
タロスが言わんとしていることを、俺は職業柄かなり正確に理解していた。
体の構造上、アンドロイドも人間と同じご飯を食べることができるのだが、消化、というよりも分解するために大量のエネルギーを消費する。
有機物に限らず無機物も完全に分解できるこの機能はガベージデストラクションと呼ばれ、令和中期のごみの埋め立て問題に多大に貢献したという裏話もあるくらいだ。
本来は大きなごみ処理場で大量のごみを処理する為の機能なので、アンドロイドの胃袋に収まる程度のゴミを処理するのは非常に効率が悪い。
恐らく開発者もそんなことは百も承知のはずだが、わざわざその機能をつけたのは、きっとアンドロイドと一緒に食事をしたいという人間の願望に答えるためなのだろう。
現に俺もタロスと食事をしたいと考えている。
「あ、一応アンドロイド用のご飯もあるけど……」
俺がそう伝えると、タロスは露骨に眉をひそめた。
アンドロイド用のご飯は最近LHTから販売された新商品の一つである。
お菓子のような外見の食べ物の中に小型のナノマシンが入っており、ほんのわずかではあるが傷の修復やエネルギーを充填できる。
「誰か……アンドロイドを雇っていたのか?」
その言葉には何故かほんの少しだけ、落胆のようなものが感じられた。
どうやらタロスが眉をひそめたのは、LHT製のご飯に対してではないらしい。
黒鉄博士とのいざこざでLHTとは因縁がありそうだったので、LHT製の製品は使えない。
というこだわりでもあるのかと考えたが、流石にそれは考え過ぎだったようだ。
それにしても、俺がアンドロイドを雇っていたら、何か都合の悪いことでもあるのだろうか。
「俺の経歴、ここに来る前に調べてなかったのか。」
「俺がお前を養うつもりだったからな。お前が何をしてようが支えるつもりでいた。」
「あの……タロスさん?もしかして、怒ってます?言っている内容と声音が嚙み合っていないんですが……。」
「……怒ってなどいない。」
口ではそう言っていたが、アンドロイドは明らかに不機嫌そうだった。
自分よりも筋肉ムキムキな相手を不機嫌にさせておくのは怖かったので、俺は慌てて理由を説明することにした。
「ここにアンドロイド用品があるのは、俺がアンドロイド専門の医者をやっているからなんだ。LHTから新商品がでた時は、本当に安全かどうか成分をチェックをしてるんだよね。そういうことだからさ、機嫌直して?ね?」
「……俺はもともと怒ってなどいない。それよりも、飯はどこにしまってあるんだ?」
相変わらず無表情だったが、タロスの声音は幾分柔らかくなっているような気がした。
ひとまず危機を脱した俺は椅子に座ったまま、アンドロイド用の食べ物がしまってある部屋の方向を指す。
空腹からグーグーなり始めたお腹を押さえてタロスを待っていると、アンドロイドはゼリー飲料のようなパックと棒状のスナック菓子のような固形物を持ってきた。
「それじゃあ、あらためて……いただきます!」
タロスが自分と対面するように座ったので、俺は手を合わせて食前の挨拶をした。
黄金色(こがねいろ)の衣に箸を当てると、サクっという音と共にコロッケが半分になる。
ジャガイモで作られたとは思えないほど白いクリームを口の中に放り込むと、このコロッケの中身が何なのかようやく理解することができた。
「このコロッケ、カニクリームコロッケだよな?めっちゃんこ旨いぞコレ。」
「だろ?さんざん博士に食わせてやってたからな。料理は割と自身がある。」
「このカニはどっから持ってきたんだ?まさか、手土産に持ってきたわけじゃないよな?」
「他の缶詰と一緒に置いてあったカニ缶を使わせてもらった。」
「ああ、あれか。完全に忘れていた。」
「食料を溜め込むのは、お前の趣味なのか?缶詰だけじゃなく、冷蔵庫もパンパンだったぞ。」
「缶詰めの方は、アポカリプス……異常気象に備えてかな。昨年多かっただろ、地震とか台風とか。」
「普通そういうことがあれば、避難所に行くとになると思うんだが……この家に籠る気なのか?」
「う、うるさいなー。いいじゃんか別に。備えあれば患いなしって言うだろ。」
「ふむ。ところで、さっき缶詰の方はって言ってたよな?なら、冷蔵庫の方はどうして貯めてあるんだ?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。タロスはニューアースって言葉、聞いたことあるかな?」
「確かVRのMMORPGだったか?」
「そうそう。日付が変わったら、ようやくログインできるようになるんだよね。だから明日以降買い物に行かなくてすむように、食料を買い込んでいたってわけだ。」
「ニューアースってのは、そこまでしてするもんなのか?仮想現実を作る技術は数十年前からある程度実用化されていたと思うが……。」
「仮想現実と言っても従来のものは360度の視野を得られただけだったからね。より現実に近い臨場感を再現するために、視覚以外の感覚にも干渉できるデバイスが10年前に開発されたんだ。でも、そのデバイスのスペックを最大限に活かしたゲームを作ろうとすると、作成しなきゃいけないリソースが増えて開発コストが尋常じゃなく増大するだろ?だからプラットフォームはあるものの、今の今まで誰も最新のVRMMORPGを作ってこなかったんだよね。つまりニューアースは大量の資金を投入して満を持して出たゲームなんだ。これは期待しないわけにはいかないだろう!」
「なるほど、よくわからんが……お前がオタクだということはわかった。」
「ち、ちげーし。ちょっと詳しいだけだし。」
「それはそうとだ。俺がいるってのに、ゲームなんてするのか?もっとこう、なんだ……デートをしたりとか、色々あるんじゃないか?」
「そうは言っても、VRMMOだぞ?エンジニアとしては、やらないわけにはいかんだろ。」
「エンジニアは関係ないだろ。コードを見るわけでもないのに。」
「……アンドロイドなのに、的確なツッコミを入れるね。君ね。」
「それはアンドロイドだからだろ。つーか、そのゲームは俺も遊べたりしないのか?」
「それがさ!このゲーム、アンドロイドも遊べるらしいんだよね。しかも、ゲーム内のNPCは全員リアルタイムでアンドロイドが操作しているらしい。つまり、従来のゲームのようなテンプレートな返事が返ってくるだけのゲームじゃないというわけだ。VRのゲームは、会話に合わせて口パクやボディランゲージも演出の一部としてモデルが行わないと違和感を感じるから、チャットボットを導入するだけじゃ会話の内容と演出をうまく組み合わせられなかったんだよね。気になるのはそういったNPCが何人いるのかだけど、その辺りはLHTが開発元だし、かなりの人数が確保されていそうだ。」
「やっぱりオタク……」
「ち、ちげーし。興味があって調べてただけだし。」
「まあ……そういうことにしておくか。で、俺はどんなキャラをやればいいんだ?」
「え?」
「MMORPGなら、キャラクリがあるだろ?」
「よく知ってるな。……タロスって実はゲームをしたりするの?」
「ま、博士の付き合いで何回かな。目的意識が薄いアンドロイドは、そういうものを好む傾向があるが……俺は博士を失ってもゲームに没頭することはなかったな。」
「ふっふっふ。俺はゲームをするために生きてるところがあるから!俺と付き合うつもりなら、ゲームを趣味にしてもらわないとな。」
「お前と過ごせるなら何でもいい。それで、話を戻すが、俺はどんなキャラをやればいいんだ?お前が本気でやるつもりなら、俺も全力でことにあたるつもりだ。」
「おお、そいつは楽しみだ。でも、このゲームはいわゆるファンタジー系のMMOじゃないから、ジョブやクラスをあらかじめ決める必要は無いんだよね。」
「そうなのか?なら、どんなジャンルか。詳しく教えてくれ。例えゲームの中であっても、俺はお前を護りたい。」
「お、おう。……そう面と向かって言われると恥ずかしいな。でもその前に……頼みがあるんだけど。」
「なんだ?」
「白米のお代わりを……お願いします。」
俺がオズオズと茶碗を差し出すと、タロスはほんの一瞬だけ顔をほころばせた。

ニューアース。
それは、テラリウム型の移民船を舞台にした惑星開拓ゲームである。
異常気象により崩壊した地球から逃れる為に、やむなく宇宙へと旅立った人類は、第二の地球を求めて広大な宇宙を彷徨い続けていた。
相次ぐ機械トラブル。
食料や燃料といった物資の枯渇。
産まれや育ちから生じる諍(いさか)い。
地球を旅立った200機の船は、果ての無い航海の間に散り散りとなり、一世紀も経たない内にその数を半数以下にまで減らしてしまっていた。
そんな折、人の住める惑星を見つけたというノイズ混じりの通信が、生き残った全ての移民船にもたらされた。
あるものは半信半疑で、またあるものは藁にも縋る思いで、その座標に進路を向けると……。
そこには確かに地球のような青い惑星があった。
この星は人類の楽園たり得るのか。
そのことを調べる為に、移民船から調査隊が次々と惑星に降下していくが……誰一人帰って来るものはいなかった。
ここまでがいわゆるOPムービー、キャラクタークリエイト後の導入である。
VRゴーグルを装着した俺とタロスは、寝室にあるベッドに座って一緒にゲームに興じていた。
本当はどちらかがゲームルームのリクライニングチェア、もう片方がベッドというようにしたかったのだが、タロスが一緒にいると言って聞かなかったのだ。
シングルベッドで川の字になることはできなかったので、俺は今、ベッドの上で壁を背にして座っているタロスの股の間にすっぽり収まっている。
頭の上におかれた顎が少し気になったが、プロレスラーやラグビー選手並みの胸筋がクッションになり座り心地は非常に良い。
「ん?」
頭の上からタロスがいぶかしむ声がした。
どうしたの?と俺が頭上を見上げて声をかける前にゴーグルの中の映像が切り替わり、タロスが見ている景色と同じ景色を俺の眼前に映し出した。
俺の分身とも言うべきアバターは、アンドロイドを保存するカプセル型の収納ケースに囚われていた。
ガラス張りのケースの外では慌ただしく人々が走り去っていくが、ケースの中にいる俺達を誰も見ようとはしない。
ゲームのテンプレから考えると、この後に誰かしらかの助けが入りそうだが、操作はできるようなので自力でちゃっちゃと抜け出すことにした。
「これがリアルと同じ構造をしてるなら、恐らくお尻のあたりにレバーがあるはずだ。」
ボイスチャットを切って全茶にならないように注意しながら、俺はタロスに向かって攻略のヒントを出すことにした。
このケースにアンドロイドが入るのは出荷前と修理の時ぐらいなので、タロスが知らない可能性もあったからだ。
『おい!何から逃げてる?』
カプセルから抜け出したタロスことプレイヤーネーム『太郎』が、走り去ろうとしている名もないNPCに尋ねた。
自分の名前を一文字変えただけの安直なネーミングだったが、太郎からタロスを想像する人間はいないだろう。
『お、お前達。どうやってカプセルから抜け出したんだ?」
『レバーを引いたら、扉が開いた。』
『どうしてレバーのことを……、いや、今はいい。急いでカプセルに戻りなさい。あの中の方が安全なんだ。』
男がそう言うやいなや、部屋の中にあったカプセルが次々と地面の中へと吸い込まれた。
それは俺達が入っていたカプセルも例外ではなく、俺とタロスは部屋の中に取り残されてしまった。
『ああ、もう言わんこっちゃない。』
男は俺達のことなどお構いなしに、この場から走りさろうとしていた。
そんなNPCの後をタロスはすぐさま追いかけて行く。
『スタディ、あいつについて行くぞ。』
スタディというのは俺のキャラの名前である。
石炉(いしろ)学(まなぶ)、だからスタディというわけだ。
俺はゲームをする時は大抵この名を使う。
自分の名前が入っていた方がキャラに感情移入しやすいし、いちいち名前を考えるのが面倒だからだ。
タロスの後に続きNPCを追っていると、すぐにカプセル部屋の外に出ることになった。
部屋の外はけたたましく鳴り響く警告音と赤いランプに照らされている。
なんらかの衝撃と共に地震のように廊下が震え、火花を散らせて天井からコードが落ちて来た。
『おわっ!?』
急に体が浮き上がったので俺は思わず声を上げた。
どこにいるのか今のいままでわからなかったが、冒頭の話の流れと今の状況から察するに、俺達は宇宙船の中にでもいるらしい。
『スタディ。早くこっちに来い。この船、落ちそうだぞ。』
『一体誰が攻撃をしているんだろう。惑星を制圧する前から船同士で喧嘩でもしてるのか?』
『知るか。ともかく、脱出艇に急ぐぞ。あいつもそこに向かってるはずだ。』
操作に手間取り、俺達は中々先行するNPCに追いつくことができなかった。
そういえばNPC、NPCと心の中で男を呼んでいたが、アンドロイドが操作している場合はなんて呼べばいいんだろう。
なんてことを、無重力空間になってしまった船の廊下を移動しながらぼんやり思った。
『待ってくれ!頼む、待ってくれ!!』
宇宙船の格納庫に辿り着いた時、脱出用の小型の宇宙船が次々と宇宙へ発射していく様を俺達は見た。
少しオーバーに見えるほど取り乱したNPCが、飛び去って行く船に追いすがる動きをする。
この姿を見て、俺は奇妙な感覚を覚えた。
『まだ発射していない船があるってのに大袈裟な奴だな。』
タロスはNPCの動きを横目で見ながら、淡々と宇宙船の中に乗り込んでいった。
だが俺はNPCを放置していくことができなかった。
『おーい。一緒に行きませんかー?』
俺が呼びかけると男はフヨフヨとこちらに向かって移動してくる。
『太郎、動かせそう?』
先に宇宙船に入ったタロスに向けて俺は疑問を投げかけた。
『問題無い。扉を閉めて大丈夫か?』
『大丈夫!」
NPCの男が宇宙船の中に入り込んだのを確認した俺は、タロスに合図をして扉を閉めてもらった。
『う、動いている!?動かせるのか?』
がしっと男に肩を掴まれた俺は、その剣幕に思わず狼狽した。
『……みたいですね。」
あくまでロールプレイに徹する為に、俺はたどたどしく無粋だと思われないような返答を返した。
メタ的に言ってしまえば、俺達は彼とは違いゲームのプレイヤーである。
宇宙船の操作もコックピットに腰かければ、システム側がアシストしてくれるはずだからだ。
『おお、神よ。助かった。ありがとう。ありがとう。』
感謝の言葉を並べコックピットに向かうNPCの後を追い、俺もタロスの元へと向かうことにした。
『シートベルトをつけてくれ。離陸するぞ。』
ゲームの世界なのにシートベルト?と俺は疑問に感じたが、副操縦席に腰をかけるとタロスが言わんとしていることが理解できた。
『え、何これ。まさかのマニュアル操作?』
シートベルトをつけながら俺が驚愕していると、タロスがふっと鼻で笑う音が聞こえた。
『ちょっと面白くなってきたな。』
『いやいや、どうして宇宙船を手動で操作できるんだ。』
『俺は戦闘系のアンドロイドだからな。乗り物や兵器の扱い方は熟知している。こいつの操作は旅客機と似ているな。』
『頼もしい……と言いたいとこだけど、リアル技能が必要なゲームってどうなんだとツッコミはいれたい。』
『お前もさっきリアル知識を使ってただろうが……。』
タロスは俺と話をしながら、車のハンドルを半分にしたような操縦桿を巧みに操って船を動かし始めた。
空気を室内に留める為のバリアのようなものを抜けると、スイッチを何個か押して本格的にエンジンを稼働させ、今まで俺達がいた母艦から宇宙空間へと勢いよく飛び出して行く。
母艦を出た俺達の目の前にまず飛び込んできたのは、真っ黒で何も無い都会の夜空のような景色では無かった。
何キロあるかわからないほど巨大な蛇のような生き物が別の船に巻き付き、ギリギリと締め付けて真っ二つに引き裂こうとしていた。
一体あれは何なのか、息を飲んで見守っていると、俺の背後にいたNPCが呆然と呟く声が聞こえた。
『……リヴァイアサンだ。』
『リヴァイアサン?』
『ニューアースを狙う竜種の一体です。あれは倒すことはできません。早く、この星域から離脱してください。』
『離脱?ニューアースに向かうんじゃ?』
『ニューアースに行った調査隊が戻って来ないというムービーを視たでしょう?あんな所に行ったら、私は死んでしまう!』
『ムービーって、凄いメタい発言ですね。ああ、あの映像はカプセルの中で見たという設定なのかな?』
『緊急事態なので言ってしまいますが、これはゲームじゃありません。現実に宇宙で起こっていることなのです!』
『……確かに宇宙船やアバターは精巧に作られているので、もしやと思わなくもないのですが……アレはなんですか?あんな生き物が宇宙空間に存在できるはずがないのでは?』
宇宙空間は広大過ぎるが故に、多少の分子があってもほぼ真空だと言える。
真空状態になると何が起きるかというと、気圧が下がるため液体の沸点が下がる。
沸点が下がれば低温状態でも液体が気体となるため、体に水分を持つ生き物は内臓が膨張して死に至る。
気圧の問題以外にも、酸素がなかったり、マイナス270度であったりと、宇宙は生き物が生身で生きていられるような環境ではなかった。
『疑うのはわかる。しかし、信じて欲しい。』
男に懇願された俺達はお互いの顔を見合わせた後に、ニューアースの星域から離脱するという決断をした。
男の話が嘘であっても俺達に実害は無いが、もし本当の話をしていたら男の身が危ないからだ。
このVRMMORPGは本当にゲームなのか、現実なのか。
それはまだわからながったが、俺もタロスものめり込み始めていた。
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