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エピローグ
しおりを挟むその後のこと。
五稜郭タワーはかなりボロボロだったが、バロックさんが一夜にしてなんとかしてくれた。
が、それなりにニュースにもなって、市長選は何故か延期になった。
そんなおり、高木と岸辺はわずか数日で退院し、市長選に性懲りもなく出ていたが、同じく何故かバロックさん、も出馬していて、見事にお互い、というか三名とも落選していた。正直ほっとした。
ついでに。
当選したのは、わたしの…というか、じじいの古い知り合いで、『羽場礼治(はば れいじ)』という男だった。
羽場礼治という男は、いわゆるじじいの門弟で、居合いの達人だし、あと普通に空手とか柔道とか少林寺とかテコンドーとか、ついでにカンフーまで習得している、格闘馬鹿だ。
久しぶりに会う機会(というよりはじじいの葬儀の時だが)に話をしたら、
「おお白虎よ! ひっさしぶりじゃのう! 景生殿がおっ死んでへこんでるのかと思ったんじゃが……、いやいや元気そうじゃ! まさか男までくわえこんでいぶふへ!」
……やっぱりうざい男だった。
ちなみに多分、二つ名に『白虎』がついたのは、こいつのせいではないかと思っている。
「じゃが久しぶりの再会じゃし……宴じゃ宴! 久しぶりに手合わせじゃ白虎!」
「意味がわかりません」
その後も羽場はわたしに挑もうとしていたが、
「あはは、愉快なオジサンだねー」
と、わたしと偶然にも一緒にいたフォードちゃんにあっさりとこてんぱんにされて、しばらくぴくぴくと痙攣していた。
ちなみにだが、フォードちゃんはレオンのお姉さんだか妹だかにあたる子らしいが、それよりもまず血はつながっていないのだという。
兵器、というのは比喩でも伊達でもなく、まあ今までみてきたとおり、ものすごく強いから、という単純な理由からだった。
身体が異様に柔らかく、動きが異常に速いことも、打撃力が異常に高いことも、その原因の一つだ。
わたしもさすがに、羽場が負けるとは思っていなかったので素直に驚いた。
もしかしたら、ルキノやバロックさんよりも強いのかもしれない。
「んふふ。それほどでもないよんー。おれより強いやつらなんて、星の数ほどいるからさあ」
素直にそう告げたら、フォードちゃんはそんなことをはにかみながら言った。
団員ではないが、バロックさんとトモダチだということで、フォードちゃんが側にいる日が多くなった。
さらにいうならば、あの激戦の最中、ルキノがやっぱりシゴトをさぼって飲み屋街をうろついていたことが判明した。
この、最後の団員。
「だってみちまったんだもーん」
シャルルに、よって。
本当に死にたいのかあのひげ面は?
「ま、いいじゃん。いいじゃん。細かいことなんてさ」
シャルルはルキノよりもいい加減なやつみたいだったが、さすがにあのひげ面と違って、
「虎子ちゃんだっけ? すっげーかわいいじゃん。オレと付き合おうよ、一夜限りで」
なんて口説いてきたので、むろん顔面にストレートをきめてやった。
その後鬼切が無理矢理人型になって出てきて、シャルルにあれこれ文句をいっていたが、わたしは知らないふりをしてサーカスの中に逃げ込んだ。
フォードちゃんがいたら、もしかしたら地面に埋められていたかもしれないと思うと、少し惜しい気がした。
……あれから、神社はとりあえず、あのままだ。
立て直すにも費用がかかるということで、わたしはそのままこのFAITHに居座っている。
そりゃ、高木と岸辺から巻き上げた賞金はあるし、その二人から改めて迷惑料として贈られてきた金一封があったりするが、これは当分の生活費だろう。
まあ、工事にだって時間はかかるわけだし、本当にしばらくはこのままかもしれなかった。
まあ、このままでも悪くはないが。
今しばらく、やることは山積みで尽きそうにはないことだし。
「とーらこ!」
「わっ」
そんなわけで、バロックさんに借りた部屋の中。
とくにやることもなかったわたしの背中に、ロウが抱きついてきた。
いつも思うが、こいつはこういう時、気配がつかめない。
「きいたよトラコー! シャルルのやつに口説かれたんだって!? 大丈夫だった!?」
「ええ、まあ」
わたしは適当に相づちを打つ。
そういえばルイスさんを助けた悪魔だが、ゾキアだかぞうきんだかいう、魔界では偉い悪魔だそうだ。
それでルイスさんの表情がこわばっていたらしい。
あれ以来、なぜだかあの悪魔とルイスさんをセットでみるが、わたしは気にしないことにしている。
悪魔にもこう、大人の色恋の世界というかそういうのがあるかもしれない。
……と、空気をよんだ行動だ。
「ほんっとうに大丈夫? シャルル、手が早いので有名なんだよ? 部屋に連れ込まれたり、押し倒されたりしなかった?」
「だからありませんって」
ロウは執拗にしつこかった。
「顔面にストレート決めて、逃げてきましたから」
「うー……。でも気をつけてよ? シャルルはほんっと女癖悪いから。ルキノ以上だから」
「はいはい」
そんなことはロウに言われなくても、普通にわかる。
何せ顔面にストレートきめて諦めさせたあと、背後を通りかかった別の女性を口説きに移っていたからだ。
立ち直りの速さというよりは、とくに『拒絶を気にしない』という厄介な悪魔である。
「もう、反応冷たいなあ……。……ね、トラコ」
「なんですか」
「好きだよ。大好き。愛してる」
それは、耳元で、小さく、聞こえた。
「……そうですか」
少し間を開けてから、短く返す。
顔が熱い。
いつになく真剣なトーンで喋るせいだ。
この馬鹿ピエロ。
たいした見せ場もなく、カッコイイシーンもないくせに。
唐突に、ヘンなこと、いいやがって。
「トラコは、どうなのかな」
「………」
おおっと。
どうやら口説かれているようだ。
うすうす感づいてはいたというか、わたしを自分の嫁宣言していたから……というか。まあ、仕方ない。小さい頃の約束なんて、もし記憶を封印されていなくても、消されていなくても、きっと覚えてなんかいなかっただろう。
――それでも。
それでも、わたしは、最初から。
あの日――迷子のわたしと出会った、あの夜から。
「どうでもいいです」
「うひゃあ、ひどい」
わたしの言葉に、ロウが涙目になる。
「嘘です」
「え」
「……嫌いでは、ありません」
そっと、呟くように、涙目のロウに、わたしは告げた。
そう。
わたしは選んでいたのだ。
最初から、このピエロを。
笑顔がやけに可愛い、このピエロを。
非常に不本意ながら、無意識にも。
「えっ、ちょっ、それって!」
「これ以上はいいませんよロウ」
「いやいやいやちょっと! 言ってよトラコ!」
「お断りします。もしこれ以上いいつのってくるつもりならば、あの最凶無敵なフォードちゃんに貴方の関節を破壊させます」
「むごいよそれは!」
柚原神社復興を掲げたわたしは。
柚原神社神主となったわたしは。
この地の守り手となったわたしは。
「でも、バレンタインくらいは、差し上げますよ」
前ほど人間が嫌いじゃなくなって。
前ほど他人に無関心ではなくなって。
世界が滅んでしまえとか、そんな中学二年生みたいなことは、思わないようになった。
誰かを、愛せるまでになった。
仲間が、できるまでになった。
この地を、救いたいと思えるまでになった。
それは多分。
こいつのせいだというのが、九割だろう。
きっとこいつに変えられてしまった。
こいつの悪魔のくせに持ち合わせている『善』の部分が、わたしに移ったのかもしれない。
そういえば京洛に一切連絡いれていないが、まあ問題ではないだろうと、仮定する。
もしあったとしても、わたし的にはなんら問題がない。
むしろ連絡なんていれたら京洛は驚いて心臓麻痺を起こすかもしれない。
そう。
これからも、わたしは。
「わああああ本当!? ありがとう―――っ!」
「うるさい!」
「うぎゃああああ!? 骨っ、骨折れたあああ!」
わたしとして、生きていく。
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