少年ボディガードと妖精姫 ~小学生が妖精と出会い成長しながら少女を守る話~

てぃえむ

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小学生編

ある体育の日の密かな戦い

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 リュウは深い眠りに落ちていた。
 懐かしい後姿が見える


―――ユメだ


「ユメ!」

 リュウは妹・ユメに向かって声をかけたが、妹は何も答えずに微笑んだ。ほっとしたのもつかの間。その夢はすぐに悪夢に変わった。あたりには血の匂いが広がる。


―――嘘つき!


 妹の声。彼女の声は震え…彼女の目から、口から、血が滴り落ちていく。それはドロドロと零れ落ち、やがて彼女の目玉が流れ落ち、体が徐々に赤く染まり、崩れていく。


―――やめろ!やめてくれ!!



「------ッ」


 リュウは、突然目を覚ました。冷や汗が額から流れ落ちるのを感じながら、呼吸を整えた。あの夢、また見てしまった。幼い頃からの厳しい修行、そして毎日の訓練。


 数時間に及ぶ組手、過酷な筋力トレーニング、そして戦闘のノウハウ…

 失敗すると手加減なしに厳しく叱られ、体には常に痣ができていた。
 同じような境遇の子ども達がすすり泣く声が響く中、自分も恐怖に耐えながら訓練に励んでいた…



 そして、妹ユメの事。



「ユメ…ユメの言った通り、危険な仕事はもうしないよ」


 体が大きく震え、呼吸が荒くなっている。深呼吸をして自身の体を落ち着かせると、酷くのどが渇いている事に気付いた。


 起き上がり、キッチンへ向かうと辺りはまだ少し薄暗い。
 水を一杯飲み干し、一息つくと少しだけ頭の中がクリアになっていくのを感じた。



「リュウ、今日は早いんだな」

 声がする方を見ると、親友のダイスケがあくびをしながら、まだ眠気の残る黒い瞳をこすっている。
 リュウより長めのダークブラウンの髪は寝起きのままぼさぼさになっており、彼はその髪をくしゃりと掻いた。


「ダイスケも早いね」

「お前、すごいうなされてたからさ…目が覚めちまったよ」


 リュウの暮らしている研究所は、アヤカの住む屋敷から電車で30分程離れている田舎。25歳の若い研究者であるナオキが研究をする小さな施設だった。

 目の前にいる少年・ダイスケはリュウと同い年の11歳で、リュウがここへ来た2年前から一緒に暮らしている。2人は同じ部屋の為、今朝の夢でうなされていた自分の声で起こしてしまったようだ。


「そっか、ごめん」

「そんなことより、腹減った…何か作ってくれよ」


 詮索をせず、いつも通り振舞う親友に、リュウはありがたく感じていた。
 冷蔵庫の中身を見ると、昨夜ナオキが作ったポトフが残っている。


「昨日の残りがあるけど、食べる?」

 その言葉にダイスケは顔を歪めた。

「ナオキの料理はまずくないんだけど、肉が少ないんだよな」


 健康志向のナオキの料理は野菜をメインとしたヘルシーなものが多い。味はいいのだが、育ち盛りの少年には少々物足りないようだった。
 リュウはそんな親友の様子に苦笑すると、冷蔵庫から鶏肉を取り出して焼き始めた。

 キッチンに鶏肉の焼ける香ばしい香りが立ち込め、出来上がった鶏肉と昨夜のポトフをダイスケに出した。満足そうに食べる彼を確認し、着替えて玄関へと向かう。


「俺も後で行くからな」

 ダイスケの声に軽く頷くと、リュウは研究所の外へ出た。


「今日も頑張るよ、ユメ…」

 日課のランニングの為、彼はまだ暗い田舎道を走り出した。








 アヤカの警護を始めてから1週間程。


 5時間目の体育館。
 生徒たちの声とボールの弾む音が茶色の床に響いている。


 体育の授業はリュウにとって特に警戒を要する場所だった。
 出入口が多く、侵入者が隠れる場所もたくさんあるため、彼は常に周団に警戒していた。アヤカがクラスメイトと楽しそうにバスケットボールをしている間も、リュウは見学しながら周りを見張っていた。


「羽瀬田くんは、いつも見学なのね」


 学級委員のサツキが話しかけてくる。

 リュウはアヤカの警護の為体育の授業のほとんどを見学していた。澤谷も学校に働きかけてくれていたが、いつも隅で見学しているリュウを不思議に思う生徒も何名かいるようだった。


 リュウは少し考え、サツキに返答する。

「心配してくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だよ」

 そう返すと、バスケットボールをしているアヤカへ視線を移した。



 アヤカは勉強も運動神経も良く、今日もクラスの中心となり、チームを引っ張っているのは彼女だった。アヤカの活躍を目の当たりにしながら、リュウは彼女の安全を守るために周囲を見張り続けた。


「リュウ!やったよ!」

 アヤカが見事なシュートで点を決め、試合終了の合図と共に彼女は笑顔でリュウに声をかけてくる。彼女の表情は晴れやかで、彼も自然と笑みがこぼれる。



 しかし、その瞬間、リュウはこちらを伺う視線にいち早く気が付いた。彼の目は鋭く研ぎ澄まされ、周囲を見ると、彼は直感的に危険を察知した。


 プライベートスクールは一般の学校よりセキュリティが強固に配置されている。

 例えば入り口にはセキュリティゲートがあり、監視カメラが設置されている。訪問者は身分証明書の掲示や事前の予約が求められ、来客に対しても徹底したチェックが必須とされている場所だ。

 不穏な視線は訪問者を装い侵入したと推測し様子を伺っていると、スーツを着た男が3人、外に見える。


 すぐそばにいるサツキに気付かれないように体育館の外に出ると、リュウは澤谷から預かったスマートフォンで体育館上空のマップを確認し、侵入者の侵入経路や、潜んでいる位置などの推測に入る。

 体育館は入り口から見て壁側と校庭側に左右別れ、リュウが今いる壁側から外壁までのおよを10メートルは木々が広がり、校庭側は監視カメラと校庭でサッカーをする別のクラスの生徒の授業があった。

 壁側の監視カメラを確認し、視角になる部分を割り出すと、彼もまた監視カメラの視覚をくぐりながら敵の潜んでいると思われる場所へ慎重に進んでいった。



 リュウの憶測は当たった。
 1人の男が体育館の様子を伺っている。スーツに黒メガネ…訪問客を装っての侵入と思われる。



 足元に転がっていた石を蹴りあげる。

 微かに響いたその音に男が目を向けると、視線は宙に浮いた石に目が留まった。



 その一瞬

 素早く近づいてきた影に気付くやいなや、男は肋骨に受けた衝撃に顔を歪めた。男が下に視線を移すと、少年の膝が自分の腹を直撃し骨がきしむ音が響くのを感じた。


「な…に…?」


 よろめき一歩後ずさると、目の前に体操着を来た少年が映る。
 男は苦痛に顔を歪めながら後ろ足に力を込めパンチを放つが、その手は空を切り、今度は顔面に鋭い肘の打撃を受けた。

 鈍い音があたりに響き、男の目がぐるりと回る。そのまま重く地面へと倒れ、一瞬で動きを止めた。


 肘や膝はそれだけで凶器になる。勢いをつけて振りぬけば、小学生でも大人に大きなダメージを与えることが出来る。それはリュウが幼い頃から身につけた、身体を最も効果的な武器に変えるための訓練の成果だった。


「まずは1人目…」


 体育館の方へ目を移すと、バスケットボールの弾む音と生徒の声が聞こえる。
 気付かれていない事にほっとすると、男の持っていた銃と通信機を奪い耳に当てる。


「澤谷アヤカが単独になる所を狙う。引き続き見張りを続けるように…」


 通信機から別の男の声が響く。
 男たちの狙いがアヤカであることと、他にも何人かいる事を確認したところで、こちらに近づく足音に気付きリュウは身を隠した。



「誰の仕業だ!?」

 倒れた仲間を見つけ、男たちは銃を構え警戒している。大人が3人。これならなんとかなるかもしれない…リュウはそう思ったところで足に力を込めた。


 そのまま一気に奇襲をかける。


 倒れた仲間に気を取られた3人のうちの一人が振り向いた瞬間、体を逸らせた小さな体が目に映った。
 勢いよく放たれた少年の肘が男の顔面に直撃し、痛みに顔を歪めたところで更に腹部に膝の追撃が入り、崩れ落ちた。

 1人が倒れたところで2人が振り向き銃を向けてくる。
 一気に近づき銃声が鳴る前に蹴り落とすと、そのまま奪い取り銃口を2人に向け、突きつけた。


「子ども…だと!?」


 驚いた様子で身動きが取れなくなる2人。

「どこから来た?」

 リュウが男たちを睨みつけ、銃口を揺らす。一瞬の沈黙の後、男たちは仕方なく口を開いた。

「澤谷アヤカを拉致するよう、依頼を受けた。依頼主はわからない。俺たちは上の言う通り動いただけだ」

 本当か?銃を突きつけ、再度問いかけると、男たちの顔に汗がにじんだ。

「本当だ、何も知らない」

 リュウは2人の首元に銃底を繰り出し、力強く打ち込んだ。その瞬間、侵入者たちは痛みと衝撃に耐えかねて意識を失い、身体は地面に崩れ落ちた。



 男たちが動かなくなったのを確認し、すぐアヤカの父親・澤谷に電話をかける。

「澤谷さん、こちらに侵入者が4人います。身柄の確保が必要です。」

 電話の向こう側で、澤谷の冷静な声が響いた。

「分かった。すぐに人を向かわせる。アヤカを頼んだぞ」

「はい」




 リュウは電話を切り、体育館の方を見ると生徒たちの賑やかな声が響いているのを確認し、ほっとした。
 男たちが身分証明書を持っていないか確認するが、授業終了の声が聞こえてきて、怪しまれる前に戻る事を選択した。

 澤谷さんに任せよう…

 そう思いながら体育館へ戻っていく。




「羽瀬田くん、どこ行ってたの!?」

 体育館に戻るとサツキにこっぴどく叱られた。

 アヤカの安全を確認すると、リュウはほっとした表情で生徒たちの中へ戻っていった





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