「先輩、その距離は反則です!」

静羽(しずは)

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第15話|最後までちゃんと

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続き?
何。何があるんだ。
聞きたいような。
聞きたくないような。
でも。
ここで首を振ったら、この距離も、この時間も、全部終わってしまう気がした。
湊は、こくんと小さく頷いた。
それを見て綾瀬は一瞬だけ目を伏せる。
まるで覚悟を固めるみたいにゆっくり息を吸ってから、口を開いた。



「、、、なんかさ。女の子と付き合ってても、しっくりこなかったんだ。」



「、、、しっくり?」



思わずその言葉を繰り返す。



「うん。どこか冷めてるっていうか、、、疲れるっていうか。一緒にいても、わくわくしない。」



淡々としているのにどこか正直すぎる声だった。
湊は何も言わずに耳を傾ける。



「それでさ。一人の人と、長く続かないんだよ。」



少し自嘲するように、綾瀬は鼻で笑った。



「気のせいだと思ってた。付き合ってる相手のせいにしてさ。この子が俺と合わないだけ。次なら上手くいくかもしれないって。何度も。何度も、そうやって。相手を、変えてきた」



その言葉が、資料室の静けさに落ちる。
湊は喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。
何度も?それ、簡単にできることじゃない。
綾瀬さんだからできるだけで。
そう思ったけれど今ここで言うことじゃないと分かっていた。
綾瀬は続ける。



「でもな。」



少しだけ、声のトーンが変わった。



「変えても、変えても、何も変わらなかった。」



どこか寂しそうな表情。
湊の頭に乗せられていた手が、ゆっくりと動く。



「、、、俺の方が、おかしいんだって。そう思うようになった。」



その言葉に胸がきゅっと締め付けられる。



「だから距離取るのが一番楽だった。誰とも深くならなきゃ、悩まなくて済むから。」



そこで綾瀬は一度言葉を切った。
そしてほんの少しだけ力を込めて湊を抱き寄せる。



「、、、でも。」



この「でも」に、湊は息を詰めた。



「湊が来た。」



それだけだった。
それだけなのに、心臓が大きく跳ねる。



「最初から、変だった。」



誤魔化さないはっきりとした声。



「目、離せなくて。声、頭に残って。距離、近づくのが怖くて」



指先が、湊の髪に触れる。



「だから、避けた。」



静かに、告げる。



「冷たくした。仕事だけにした、、、湊がこれ以上、特別にならないように。」



湊の喉がからからに乾く。
それでも綾瀬は逃げずに言った。



「でも無理だった。」



短くでも迷いのない一言。



「もう、自分の気持ちから目、逸らせなくなった。」



資料室の空気が、張り詰める。



「、、、なぁ、湊。」



名前を呼ばれて体が強張る。



「ここまで聞いて、まだ、、、俺の話、聞く?」



逃げ道はちゃんと用意されていた。
でも綾瀬の腕はまだ湊を離していなかった。



どうする?



そう問いかける言葉はなかった。
けれど綾瀬ははっきりと“そういう目”で湊を見ている。
と、告げている。
逃げるか。
それともこのまま聞くか。
確認するみたいに。
じっと。
一瞬も逸らさずに湊の顔を見つめてくる。
その視線が、やけに真剣で。
冗談でも、軽い気持ちでもないことが、痛いほど伝わってくる。
湊は喉を鳴らす。
心臓の音がまたうるさくなる。

ここで、目を逸らしたら。
ここで、黙ったままなら。

きっと、この先の言葉は聞けない。
湊はゆっくりと視線を上げた。
逃げずに綾瀬の目を見る。
戸惑いながら、でも確かに。



頷いた。



それだけで、十分だった。
綾瀬の目がほんのわずかに揺れる。
驚いたように。そしてどこかホッしたように。



「、、、ありがとな。」



掠れた声。
湊の頭に置かれた手がまたそっと動いた。
撫でる仕草はさっきよりも優しい。
もう後戻りはできない。
でも不思議と怖くはなかった。



この人の言葉を、ちゃんと聞きたい。



そう、思ってしまったから。

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