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第17話|綾瀬の余韻が残る夜
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その日の夜。
湊は一日の業務を終えて自宅に帰ってきた。
玄関の鍵を外しフックに掛ける。
靴を脱いでそのままスタスタとリビングへ入った。
部屋は1LDKのアパートの二階。
決して広くはないけれど一人で暮らすには十分な空間だ。
テーブルの上には朝食べた皿がそのまま置きっぱなしになっている。
後で片づけよう。
そう思ったまま結局目を逸らす。
湊はテーブルの前に腰を下ろしリモコンでテレビをつけた。
ニュースでもバラエティでもない。
流れている音をただの「物音」として聞いているだけ。
コンビニで買ってきたおにぎりを袋から取り出し無意識に封を切る。
一口かじってもぐもぐと咀嚼しながらふっと今日の出来事が頭をよぎった。
綾瀬さん。
昼の自販機前。
資料室。
近すぎた距離。
低く落ち着いた声。
触れられた頭の感触。
、、、だめだ。
考えないようにしても気づけばそこに戻ってしまう。
湊はテレビに視線を向けたまま小さくため息をついた。
「、、、はぁ、、、。」
テレビの内容に目を向けられないせいで
余計なことまで全部浮かび上がってしまう。
あの後。
まるで何事もなかったかのように清々しい顔で綾瀬さんは言った。
「よしっ!昼飯食べに行くぞ。今行かないと食べる時間なくなるし。」
その声はいつも通りで。
さっきまでの緊迫した空気が嘘みたいだった。
今、、、とても大事な事、話してくれていたよね、、?
そう思いながらも湊は何も言えずに頷いて綾瀬さんの隣を歩いた。
仕事の話。
食堂の混み具合の話。
他愛もないいつもの会話。
あえて触れない。
触れたら壊れてしまいそうで二人ともそこには踏み込まなかった。
食堂が見えてきたそのとき。
綾瀬さんの足が止まる。
上司が手招きしているのが見えた。
「悪い、ちょっと先行ってて。」
そう言って湊をその場に残したまま綾瀬さんは廊下の向こうへ消えていった。
「分かりました。」
返事は背中に届いたか分からない。
トレーを持ったまま一人で食堂に入る。
席についてAランチを食べ始めた。チキンカツ。
けれど。
綾瀬さんは戻ってこなかった。
午後の業務。
書類。
パソコンの画面。
結局その日綾瀬さんと顔を合わせることはなかった。
いつも通りの一日。
なのに。
胸の奥に残ったあの温度だけがずっと消えずに残っていた。
もう少し話していたかったな。
綾瀬さんの気持ち、ちゃんと知りたかった。
「湊がきた。」
あの言葉。
、、、あれって、どういう意味だったんだろう。
そもそも。
いつから?
いつからあんなふうに見てたんだろう。
いつから俺のことを。
答えは出ないまま考えがぐるぐる回る。
湊は無意識に手を伸ばした。
コンビニ袋の中から二つ目のおにぎり。
煮卵おにぎり。
新発売って書いてあったやつだ。
そういえば俺、煮卵、めちゃくちゃ好きなんだよな。
包みを開けてパクりと一口。
黄身がとろりと崩れて少ししょっぱい味が口いっぱいに広がる。
、、、うまっ。
思わず声が漏れた。
この感じ。
綾瀬さん好きかなぁ。
あの人こういうの
「地味だけど完成度高いな。」
とか言いそうで。
、、、あ。
気づいて少し苦笑する。
なんで綾瀬さんの事すぐ考えちゃうんだよ。
綾瀬さんにも、食べてもらいたいな。
そんなことを自然に思ってしまっている自分に少しだけ戸惑った。
今日一日でこんなに頭の中を占領されるなんて。
テレビはつけっぱなしなのに内容は全然入ってこない。
「、、、綾瀬さん、今何、してるかな?」
湊はもう一口煮卵おにぎりを噛みしめながら胸の奥に残るあの温度を思い出していた。
湊は一日の業務を終えて自宅に帰ってきた。
玄関の鍵を外しフックに掛ける。
靴を脱いでそのままスタスタとリビングへ入った。
部屋は1LDKのアパートの二階。
決して広くはないけれど一人で暮らすには十分な空間だ。
テーブルの上には朝食べた皿がそのまま置きっぱなしになっている。
後で片づけよう。
そう思ったまま結局目を逸らす。
湊はテーブルの前に腰を下ろしリモコンでテレビをつけた。
ニュースでもバラエティでもない。
流れている音をただの「物音」として聞いているだけ。
コンビニで買ってきたおにぎりを袋から取り出し無意識に封を切る。
一口かじってもぐもぐと咀嚼しながらふっと今日の出来事が頭をよぎった。
綾瀬さん。
昼の自販機前。
資料室。
近すぎた距離。
低く落ち着いた声。
触れられた頭の感触。
、、、だめだ。
考えないようにしても気づけばそこに戻ってしまう。
湊はテレビに視線を向けたまま小さくため息をついた。
「、、、はぁ、、、。」
テレビの内容に目を向けられないせいで
余計なことまで全部浮かび上がってしまう。
あの後。
まるで何事もなかったかのように清々しい顔で綾瀬さんは言った。
「よしっ!昼飯食べに行くぞ。今行かないと食べる時間なくなるし。」
その声はいつも通りで。
さっきまでの緊迫した空気が嘘みたいだった。
今、、、とても大事な事、話してくれていたよね、、?
そう思いながらも湊は何も言えずに頷いて綾瀬さんの隣を歩いた。
仕事の話。
食堂の混み具合の話。
他愛もないいつもの会話。
あえて触れない。
触れたら壊れてしまいそうで二人ともそこには踏み込まなかった。
食堂が見えてきたそのとき。
綾瀬さんの足が止まる。
上司が手招きしているのが見えた。
「悪い、ちょっと先行ってて。」
そう言って湊をその場に残したまま綾瀬さんは廊下の向こうへ消えていった。
「分かりました。」
返事は背中に届いたか分からない。
トレーを持ったまま一人で食堂に入る。
席についてAランチを食べ始めた。チキンカツ。
けれど。
綾瀬さんは戻ってこなかった。
午後の業務。
書類。
パソコンの画面。
結局その日綾瀬さんと顔を合わせることはなかった。
いつも通りの一日。
なのに。
胸の奥に残ったあの温度だけがずっと消えずに残っていた。
もう少し話していたかったな。
綾瀬さんの気持ち、ちゃんと知りたかった。
「湊がきた。」
あの言葉。
、、、あれって、どういう意味だったんだろう。
そもそも。
いつから?
いつからあんなふうに見てたんだろう。
いつから俺のことを。
答えは出ないまま考えがぐるぐる回る。
湊は無意識に手を伸ばした。
コンビニ袋の中から二つ目のおにぎり。
煮卵おにぎり。
新発売って書いてあったやつだ。
そういえば俺、煮卵、めちゃくちゃ好きなんだよな。
包みを開けてパクりと一口。
黄身がとろりと崩れて少ししょっぱい味が口いっぱいに広がる。
、、、うまっ。
思わず声が漏れた。
この感じ。
綾瀬さん好きかなぁ。
あの人こういうの
「地味だけど完成度高いな。」
とか言いそうで。
、、、あ。
気づいて少し苦笑する。
なんで綾瀬さんの事すぐ考えちゃうんだよ。
綾瀬さんにも、食べてもらいたいな。
そんなことを自然に思ってしまっている自分に少しだけ戸惑った。
今日一日でこんなに頭の中を占領されるなんて。
テレビはつけっぱなしなのに内容は全然入ってこない。
「、、、綾瀬さん、今何、してるかな?」
湊はもう一口煮卵おにぎりを噛みしめながら胸の奥に残るあの温度を思い出していた。
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