優しく恋心奪われて

静羽(しずは)

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第22話|心の隅で揺れる瞬間

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思いついたまま話すときっと言葉が足りなくなる。
変な誤解をさせるくらいなら一度通話を切って落ち着いて考えようと思った。



「気持ち悪い話」 



なんて言ったから綾瀬さんは一体何を想像しているだろう。
そもそも、「気持ち悪い」という言葉の選び方自体が間違っているのかもしれない。
今の俺は気づけば綾瀬さんのことばかり考えている。
この「好き」が、どんな種類の好きなのかさえまだ自分でも整理できていない。
そんな曖昧な気持ちのまま思いを伝えようとしていること。
それ自体が相手から見たら「気持ち悪い」と感じられてしまうんじゃないか——



「、、、俺って、女の人が好きだった。はずなんだけど、、、」



湊はぽつりと呟いた。
誰に聞かせるでもない声が静かな部屋に落ちる。
中学の頃初めて好きになったのも女の子だった。
高校でも大学でも。
気づけば好きになる相手はいつも女性で付き合った人もそうだった。
だから疑ったことなんてなかった。



「、、、好きだったよな、ちゃんと、、、。。。」



思い出すのはデートの帰り道。
手をつないだこと。
笑い合った時間。
嘘じゃない。
全部、本当だった。
でも。


「、、、毎回さ、、、」



小さく息を吐く。
付き合うといつの間にか「役割」が決まっていた。
男なんだから。
リードしなきゃ。
頼られなきゃ。
相手の歩く速度を気にして、店を決めて、次の約束を考えて。
嫌だったわけじゃない。
大切にしたかっただけだ。
それでも――
どこかでずっと力が入っていた。



「、、、頑張って、頑張って、、、。」



気づくと少し疲れている自分がいた。
弱音を吐く前に肩の力を抜く前に。



「だいたい、、、その辺で振られてたな。」



重いとか。
物足りないとか。
優しすぎるとか。
刺激がないとか。

言われた言葉をもう正確には覚えていない。
ただ、
最後はいつも似たような終わり方だった。  



「、、、つまんない男、だったのかな。。。」



自嘲気味に笑いながらも胸の奥がじんわりと痛む。
精一杯だった。
本当に。

それなのに――。

綾瀬の顔がふっと浮かぶ。
自分を引っ張ろうともしない。
押しつけもしない。
ただ、隣に立って同じ目線で話してくる。
優しく励ましように背中に触れてくるあの瞬間。
頬に触られたあの感触。



「、、なんで、あんなに安心出来たんだ。」



答えはまだ怖くて言葉にできない。
でも。
女の人が好きだったはずなのに。
でも、今胸を締めつけているのは“綾瀬だったから”というのが事実なんじゃないかと思ってしまっている自分がいる。
湊はそっと目を閉じる。
、、、、。。。。
目の奥の暗闇の中で急に記憶が引きずり出される。
ハッ息を呑んだ。



「、、、あっ!」



急に記憶が引きずり出される。
大学の頃。
一年のときの、、あの先輩。

俺は友達がなかなかできなくてキャンパスの広さだけがやけに心細くて。
毎日学食の端っこで一人、同じ席に座っていた。
その日もそうだった。
いつもと同じようにトレーを前にぼんやりスマホを眺めていたら上から影が落ちてきて。



「ここ、いい?」



そう言って、何でもない顔で声をかけてきた人。



「、、、、。。。」



思い出すだけで胸がきゅっとする。
笑ったときの目元。
少し柔らかい声。
距離の詰め方が押しつけがましくないところ。



「、、、似てる、、、。」



綾瀬さんに。
あの先輩も一人でいる自分を“かわいそう”とか“寂しそう”とかそんな目で見なかった。
ただ、目の前に座って



「一人?」



って声かけてくれた。
それが、やけに嬉しくて。
普段はあまり人に心を開かない俺だったけど、その時は自然と「どうぞ」と応じていた。
同情じゃない。
特別扱いでもない。
普通に目に止まったからきた。
みたいな雰囲気だったな。
あのときも。
胸の奥が少しあったかくなったのを覚えている。



「、、あれは、、、。」



湊は、ゆっくり息を吐いた。
俺が毎日同じ場所で、同じ時間に、同じ体勢でそこにいるのが気になってたらしい。
いつから気づいてくれてたんだろう。
そこまでは、分からないけど。


いつもスマホと睨めっこしてるよな。


って笑われた。
何見てるのかなー?って。
先輩はぼっちなわけじゃない。
友達にはいつも囲まれていたし俺なんか本来なら対象外だ。
それなのに。
昼になると不思議と友達の輪から離れて毎回コーヒーを片手に俺のところへ来てくれた。
それがいつの間にか日課みたいになって。
俺も自然と先輩が来るのを待つようになった。
見かけたら挨拶して手を振って。
それが当たり前みたいになっていった。
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