「先輩、その距離は反則です!」

静羽(しずは)

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第46話|ブラックコーヒーが冷めるまで

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「コーヒー、多分、お好きですよね?」



そう言いながら朝霧はカウンターの向こうで静かに手をスッと差し出されたのは湯気を立てるブラックコーヒーだった。
カップに顔を近づけた瞬間鼻の奥まで澄んだ香ばしさが抜けていく。

インスタントとはまるで違う。

思わずそんな感想が胸に浮かぶほどその一杯には手をかけて淹れた時間と温度がそのまま残っていた。



「いただきます。」



綾瀬はそう言って静かに差し出されたコーヒーに口をつけた。
口の中に広がる苦みとやわらかなコク。



「、、、美味しいです。」



率直な感想が自然と口をついて出た。
そのとき店内の空気がふっと揺れた。
女性客たちの間で小さくざわめく声が起こる。
何を話しているのかまでは分からないが視線がこちらに集まっているのは嫌でも伝わってきた。



「ふふ。」



朝霧が少し身を寄せ茶化すように耳元で囁く。



「綾瀬さんがかっこいいからお客さんざわついてますね。」



「え?」



綾瀬は思わず目を瞬かせる。



「まさか、、、。それを言うなら朝霧さんのほうでしょう。」



朝霧は一瞬きょとんとした表情を見せそれから静かに笑った。



「俺たち、こんなふうにお互い褒め合ってたらちょっとキモくないですか?笑」



屈託のない笑顔を向けられて綾瀬は不意に視線を逸らす。
そばにいるだけでこちらの感情まで引っ張られてしまいそうになる。
俺とは正反対の太陽みたいな男だ。



「ところで。、、、何か、お話でも?」



先に切り出してきたのは朝霧のほうだった。
その一言に綾瀬の表情がわずかに引き締まる。



「、、、まあ、話。というか。」



言葉を探すように綾瀬は一瞬視線を落とした。
それを見てまるでもう分かっている 。とでも言うように



「湊のことですか?」



迷いのない声。
ストレートすぎるほど真正面からの一言だった。
この男はこういう男なんだ。
駆け引きもしない。
試すような言い回しもしない。
正面から堂々とぶつかってくる。
その在り方は考える時間も逃げる余地も与えてくれない。
だからこそ綾瀬も変に遠回しな言い方はやめた。
この男の前で曖昧に濁す意味はない。
聞きたいことは正直に聞く。
そう腹を括って綾瀬はゆっくりと顔を上げ朝霧をまっすぐ見た。



「、、、はい。」



一拍置いてからはっきりと続ける。



「湊とのこと、です。」



「何を知りたいんです?」



そう聞かれて綾瀬は一瞬言葉に詰まった。



何を、、、?



頭の中にはいくつも疑問が浮かぶ。
大学卒業のときから連絡は取っていない、と湊は言っていた。
それなのにどうして今また繋がっているのか。
いつからどんなやり取りをしているのか。
、、、でも。
それを聞いていい立場なのか。俺は。と自分で自分にブレーキをかける。
湊は誰のものでもない。
自由な立場だ。
踏み込みすぎればただの詮索になる。
みっともない男にはなりたくない。
胸の奥にわずかな引っかかりを残したまま綾瀬は一度、視線をコーヒーカップに落とした。



「綾瀬さん。」



朝霧がふいに距離を詰めて声をかけてくる。
近い。思った以上に。



「、、、はい。」



一拍遅れて返事をすると、



「んー、年齢聞いてもいいですか?今何歳です?」



「え?」



思わず聞き返してしまう。
この流れで歳の話?



「に、二十八歳ですけど、、、。」



少し戸惑いながら答えると朝霧は頷きながら



「そーなんですね。俺、二十七です。俺の方が一個下ですね。」



「、、、え。」



あまりに肩透かしで綾瀬は目を丸くする。
なんだその質問。
ただ単に年齢に興味があっただけ?
他の意図があるのか?
朝霧の意図がまったく読めずきょとんとしたまま次の言葉を待つしかなかった。

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