「先輩、その距離は反則です!」

静羽(しずは)

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第56話|恋人繋ぎという駆け引き

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「、、、う、ん、先輩、、、。」



とろんとした目で見上げられて胸の奥が静かに熱くなる。
ゆっくりと背中に手を回してそのままソファへ預ける。
逃げようとしない。
ただ力を抜いて身を任せてくる。
異性に対して



可愛い。



なんて思うのちょっとおかしいってわかるのに。
まして男に手を出したことなんてない。
そんな目で見たこともなかった。
なのに。
湊だけは最初から少し違った。
一年間。
隣で不器用に頑張る姿を見てきた。
緊張して、空回りして、でも少しずつ笑えるようになっていくのをいちばん近くで見てきたのは自分だ。
“育てた”なんて言葉は傲慢だけど。
それでも積み重ねた時間がある。
三年ぶりにわざわざ自分の事を探して会いに来てくれた。
今日ここにいることも。
全部ちゃんと意味がある気がして。
、、、それなのに。

綾瀬の顔がよぎる。

今の湊の隣にあいつが立つかもしれない未来。
想像しただけで胸の奥がモヤっとする。
安心させる側でいたかったのに奪われるかもしれない立場になるとこんなにも落ち着かない。

まだ自分の隣でこんなふうに身を委ねて心を許してくれ湊を見ていると理性が少しずつ緩む。
湊なら別かもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。

でも。

それは甘い言い訳だって、わかってる。
頬にかかる髪をそっと払う。
触れるだけでこんなにも空気が変わる。
越えるかどうかは、、、、俺次第。
手を出すか出さないか。
湊のせいじゃない。
欲しいのは身体じゃなくて隣にいる権利だ。
綾瀬に奪われたくなくて今この行動を引き起こしているんだということは自分でもわかってる。



「湊、ちょっとだけ、手、握ってみていいかな?」



「手、、、? で、ですか?」



少し戸惑いながらも、湊は小さく頷く。



「はい。大丈夫です。」



そっと差し出された手。
朝霧はそれを包むように、ぎゅ、と握った。



「あったかいな。」



「はい。」



重なる掌の体温がじんわりと広がる。
それだけなのに胸の奥がくすぐったい。
次の瞬間。
するり、と朝霧の指が湊の指の隙間に入り込む。



「えっ。」



絡め取られるみたいに指と指が重なる。



「ふふ。恋人繋ぎ。」



「ちょ、ちょっと、、、これは恥ずかしいですね。」



笑って誤魔化そうとするけれど指先から伝わる感覚がやけに鮮明で。



「でもさ。こうやって指絡ませてると落ち着かない?」



朝霧はわざとゆっくり指を絡め直す。
親指で軽くなぞる。
びく、と小さく肩が揺れる。



「う、ん、、なんか、ちょっと変な気分に、、、。」



「変な気分?どんな、気分、、、?」



手を握られているだけなのに。
胸が少し速くなって呼吸が浅くなってただ“繋いでる”だけなのに離したくないって思ってしまう。
湊は視線を逸らしながら小さくこぼす。



「、、安心するのに、落ち着かない感じ、です。」



「うん。それ、たぶん俺も同じ。」



触れているのは手だけのはずなのに指の隙間から入り込む体温に鼓動まで握られている気がした。
流れるままに。
繋いでいないほうの手がそっと湊の前髪に触れる。
指先がやさしく撫で下ろされるだけで胸の奥がふわりと揺れる。
そのまま朝霧の手は下に降りてきて、、、ネクタイに触れる。



「、、、首、苦しいでしょ?」
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