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1 酔夜の出会い
しおりを挟む夜の都会はきらびやかで、仕事帰りの同僚との飲み会はそれに引けを取らなかった。
カジュアルなバーで会場は賑やかで、一息つくべく集まった仲間とともに、普段のオフィスの枠を越えた時間が広がっていた。
冷えたビールの泡が僕の唇をくすぐる。同僚の声が耳元で響く。
「昴くん、今日は何か楽しかった仕事あった?」
こいつは同僚の『佐倉 陽彩(サクラ ヒイロ)』だ。
男性にしてはちょっと小さな体で細身だけどスポーティな体型。目がクリクリの小動物系の可愛い笑顔が魅力的で、親しみやすい雰囲気の持ち主。
男の俺から見ても可愛いんだよな。
黒髪のフワフワパーマ。
(天パか猫っ毛か寝ぐせか分からん・・・・)
仕事中はあまり話さない相手だったからこの飲みに誘ってくれたのは嬉しかったが正直ここの場に来るのは腰が重かった。
同期とは言え俺のほうが3つ年上だしどちらかと言うと人づきあいが苦手で仕事中もなるべく他人と関わり合うことを避けて行動しているからだ。
だけど・・・
今週は非常に疲れていたから酒を飲める場所に誘ってくれたこいつには感謝している。
酒は美味いし料理も美味い。美味いしかない世界最高だ!
「んー・・・。いや、特にないな。普段通りかな。でも誘ってくれてありがとな。ビールを飲んでリラックスできるのはありがたいよ」
「今日はね。僕たち同期なのにあんまり話したことないじゃない?だからちょっと気になっちゃって。誘ってみたんだ」
そう言いながらだ陽彩はビールを傾けながらにっこりと笑っている。
(こいつ・・・本当にかわいい顔してるな)
陽彩は常に笑顔だ。
こー言う奴を世間では陽キャと呼ぶ。
「昴君、普段オフィスでは真面目に話すことが多いけど、こうしてリラックスした雰囲気だと本音でいろいろ話せそうだよね。」
「だね。ビジネスの話ばかりじゃなくて、本音で言いたいこと言い合えるこう言う飲み会の場は本当に癒されるよね^^」
昴もつられてにっこりと返す。
げ。ヤバ。俺としたことが・・・・
ポーカーフェイスで笑顔なんか会社で見せたことないのにこいつの笑顔に引っ張られる・・・・・
今すぐ顔を戻せ!気持ち悪がられる!
必死に顔を戻そうと両手でほっぺを上下にニキニキニキニキ。
『ん?』
陽彩はジッ俺の事を凝視している。
「あ・・・あの。これは・・・・・か・・・顔のマッサージがから・・・」
陽彩のキョトン顔が治らない。
あ。
可愛い顔・・・違。
「あははははははは!!!!!!!!!」
「えっ・・・なに?」
キモがられる前に笑われてしまった。
「昴君てそんな一面もあるんだね!いつも冷静で真面目であんまり話さないからもっとこう・・固い人なのかと思ったよ」
涙を流して笑っている。
そんなに面白い事なのか・・・
そんな屈託のない笑顔と笑い声が居心地よくて話題は次第に仕事から離れ、趣味やプライベートに移り変わる。
「ギャップ萌えだなーw昴君休日は何してるの?」
陽彩は興味津々な表情で慎太に尋ねる。
ギャップ萌えってなんだよ。
「特に何もしてないかなぁ。動画配信見てたり、オンラインゲームしてたり」
「インドア派なんだ?w」
「そう言う陽彩は?」
「僕は基本的に友達とアウトドアに出かけることが多いな。最近はキャンプにハマってるんだ。」
「あはは。っぽいな。それ」
「・・・また笑ったw」
陽彩は大きい瞳をキラキラさせながら上目づかいで俺の顔を覗き込んできた。
酔いも手伝って普段よりも心の距離が縮まっていく瞬間だった。
飲み物や料理が出てきて、会話はますます盛り上がる。数時間前までただの同僚だった相手との触れ合いが、ただの同僚以上の何かを育んでいる気がして、嬉しい緊張感が胸を満たしていく。
「ゲームとか以外の事って何してるの?」
興味津々の表情で尋ねてくる。そんなに俺の休日が気になるのか。
「んー。のんびりするくらいかな。本当に何もやることないんだよな」
さみしい奴って思われてないか。引かれないように彼に向けて少しだけ微笑むと、陽彩もニヤリと笑いながら、何かを考えているようだった。
「それじゃあ、休日は一緒に何かしようよ!一緒にキャンプでも行こう!」
「えっ!?なん・・で・・・俺と!?」
こんなつまらない俺と?!
いつもなら速攻秒で断る場面なんだが何故かこいつと何かやりたいと言う気持ちが込み上げてきてしまった。
俺の腕を両手でがっちり捕まえて『離さないよ』って得意げな顔で覗き込んでくる姿が可愛くて
「時間が合えばな」
なんて返事を返してしまった。キャンプ経験なんてないのに。
いやでもこいつとなら楽しくアウトドア出来るかもしれないと言う淡い期待も込めて。
「本当!?やったぁ!!!!!!!!」
思いっきり全力でガッツポースをしてる奴を初めて見た。
その提案に乗ることで彼との距離が近づいていくのを感じた。
そしてこの夜、仕事の話以外の事を話すことができて酔いに任せて笑いあえることが僕たちの関係を変えていく一歩だった。
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