美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第1話 逆転世界






「意味が分からない」

 と、そんな言葉を開口一番に聞かされた私ことシルヴィは「なにがです?」と、言葉を返す。

「決まってんだろ!」

 冒険者パーティー”銀翼”の女戦士アイリさんが声を張り上げた。
 普段は鋭いその眼差しも今では動揺に揺らいでいる。

「アタシ達ってさ、ブスじゃん?」

「まあ……あまり造形はよくないですけど」

「あまりっていうか、多分この街にアタシ達以上のブスはいないぞ?」

 すると、首を捻り、悪口なら以上じゃなくて以下か? なんて、どうでもいいところを気にし始めた。

「”達”だと私にもダメージが来るんですけど……」

 苦言を呈す。
 いくら言われても慣れない容姿への悪口。それでも許す気になるのは口にしたのが彼女だったからだろう。
 馬鹿にされても最悪、アイリさんもですよね? と言い返せるから。
 仲間内でだけ許された軽口だ。

「実際事実だろ……見ろよこの赤い髪。癖なんて全くないしサラサラだぞ? しかも肌なんて染みどころかホクロもない。目鼻だってスッて通ってる。体に至っては、見ろよこの胸……最近またデカくなっちまったぞ? 腹や顔にはロクにつかない脂肪がまた胸にいっちまって……って駄目だ……言ってて悲しくなってきた……」

「言わなかったらいいんじゃ。それにそれは貴女が食べ過ぎるから……」

「なんで胸”だけ”にいくんだってことだよ!!」

 それは私だって気にしてますけど……
 醜悪な見た目と名高いエルフ。唯一胸の小ささだけが誇れる箇所だったというのに、なぜ自分の乳房はこんなに大きいのだろう。
 エルフの醜悪さに加えて、エルフではありえない胸の脂肪。おかげで里で私は苛められっ子だった。
 不細工だからと卑屈な理由で引き籠った閉鎖的なエルフ族の私がわざわざ冒険者になったのはそれが理由だった。
 両親とは私が幼い頃に死別していたし、未練なんてなかった。

 A級の冒険者パーティー”銀翼”。

 私たちは皆同じ苦しみを背負っていた。全員が醜女だったから旨が合ったのだろう。冒険者パーティーの”銀翼”は容姿があまり良くない者だけで構成されている。
 どうせ交際も結婚もできないから、不細工4人で冒険一筋で寂しく生きていこうと。
 私とアイリさん、そして、今はこの場にはいない2人との誓いだ。

「ってなんか話が逸れたな。今はそこじゃねーんだ」

 なんとなく予想はできる。
 きっと”彼”のことだろう。
 真面目な表情を作りアイリさんは口を開く。

「どう思う?」

「どう、とは?」

「また騙されてるんじゃねーかってことだ」

 ギロリと鋭さを増したアイリさんの瞳。深紅色の目が私を見つめる。
 そこにある感情は怒りと、またなんじゃないかという強い不安だった。

「詐欺、宗教、同情、に金や素材目的。今まで散々期待しては裏切られてきただろーが」

「でも今回は何の被害もありませんよ……? 治療の金額も良心的なものでしたし……」

「それは……油断させてとか……なんかあるだろ!」

 ドン! とアイリさんの拳がテーブルを叩いた。
 衝撃に大きな乳房がぷるんと揺れるのを見て私は悲しくなった。
 そして、新品の家具が僅かに軋んで嫌な音を立てる。
 買ったばかりなので壊さないでほしいんですけど……

「やっぱあいつは信用ならないんじゃねーのか?」

 根拠に乏しい言葉と共に、ギリッと歯噛みするアイリさん。
 私は不信感を募らせてしまう――彼女に対して。
 だって前日にアイリさんは甘ったるい空気を出してまるで求愛する小動物のような姿を見せていたから。
 彼女の言葉には説得力がなかった。それどころかあの人を独り占めする腹積もりなんじゃとさえ勘繰ってしまう。

「アイリさんこの前話すとき凄いニヤけてませんでした? あの人には隠してたみたいですけど私からは丸見えでしたが」

 それを彼女にも告げると、一瞬で顔が真っ赤に染まった。

「は、はぁ!? 何見てんだよ!?」

「やけにデレデレしてたので気になって……」

「く……っ」

 ガリガリと頭の後ろを掻いて照れ隠しをするアイリさん。
 いつもは男勝りな彼女は頬を赤くする。お世辞にも可愛くない彼女を少しだけ微笑ましく思った。

「そもそも何の問題があるんですか?」

「あ?」

「男娼でさえ、騙そうとしてきた人達でさえ、私たちに触れようとはしなかった。そこまで拒絶され続けてきた私たちに優しくしてくれるんですよ?」

 この優しい夢を見ていられるなら嘘でも構わない。
 いつか覚める夢だとしても、今だけはと願わずにはいられない。

「それは……」

 アイリさんだって同じはず。
 そもそもの始まりは私が迷宮で状態異常にかかってしまった日のこと。
 怪我や状態異常を治療してくれるはずの治療院が、どこも私を受け入れてくれなかった日のことだ。






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